TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩のなかにも、日本の心が少しは残っているようである。古来より人々は、大きな樹、不思議な形の岩、命を繋いでくれる森などに「神」を感じて祀ってきた。この樹が「神」かは吾輩にはわからない。ただ、枝振りの良いこの大樹の元で、静かに一日を過ごしてみたいと思うだけだ。
ところで、フィールドへ出掛ける場合、自宅から目的地までの移動を「点と点をワープする」と考えてはかなりもったいないと思っている。移動時に、子供達がゲームをしたりスマホを触っているのは、じつにもったいないと感じたことがあるからだ。車窓の風景もひとつの情報で、スマホの情報もひとつの情報ではある。スマホで得る情報の方が、短時間でより多くの知識が増える事も、わかっているつもりではある。でもなぁ、それで自分の居場所が見つかるのだろうか。
生活のなかで便利な物、例えば「道具」と「機械」との違い。人それぞれなのだろうが、僕は人の力を利用してインパクトを与える物を「道具」、自分自身以外の出すエネルギーを利用するものを、「機械」とわけている。
アウトドアへ出掛けるのは、「非日常」を味わい、「リフレッシュ」する事が目的だ。それには「機械」に頼る事を極力少なくして、「道具」を使う頻度を増やす。これはアウトドアを楽しむ大切な要素である。だが、無理はいけない。自分自身を知り、何処が居心地が良いかを見極めて、多少日常から離れるくらいが丁度良い。
木製カヌーのペイントも終わったので、フィールドへ出掛ける。通り道で枝振りの良い樹に出会う。ここを拠点として樹を楽しむ事にする。幸い周りには乾いた枝が豊富にある。タープを張る前に、枝を集めて「ペグ」作りだ。先を尖らせてロープが掛かる溝を掘ればできあがる。「ペグ」を忘れてきてしまった時のために、1本で良いので一度作って経験しておくと良い。「忘れたことを悔やむ」なんてことで時間を費やすのはもったいない。
次はポールだ。今回は木製カヌーとパドル(オール)を利用して、居住スペースを作り出す。木製カヌーは、二股の枝を利用して建てておく。濡れてはいけない物をカヌーの中に入れて置くのも良いし、タープのデッドスペースを少なくできる。
タープの居住性を考えた場合、身長よりも高い方が移動はしやすい。だが、高くすると風に弱くなる。冬場等、風も防ぎたい場合は低い方が良い。風上はタープを地面に「ペグ」で留める。ロースタイルのキャンプなら、タープの高さは150cmもあれば良いと思う。
テーブルウエアもちょっとしたアイデアで、自然の物は役に立つ。スキレットやダッチオーブンは、直接テーブルに置けない。底が平らなスキレットなら、枝2本で鍋敷きになる。また、焚き火をする場合に、太目の枝を半分に割り、火の下に敷くことで、インパクトを少なく、また片付けもしやすくなる。
奇麗な既製品を使う事はもちろん楽しい。でもね、ひとつぐらい形が悪くても、その場で手で作った物の楽しみも忘れてはいけない。引き出しの奥にある彫刻刀のセット、次回は持っていこうと思う。
ー吾輩はスズキ・ジムニーである。型式はM-JA71C。名前はまだない。ー