TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO◎PORSCHE
ポルシェは2月16日、新型911 GT3を発表した。第5世代にあたる新型はこれまで以上にモータースポーツとの密接な関係を通じて開発されたのが特徴だ。フロントサスペンションは先代のストラット式からダブルウィッシュボーン式に変更されている。これはWEC(FIA世界耐久選手権) LMGTEカテゴリーで活躍する(ル・マン24時間ウイナーでもある)911 RSRの技術を移植したもの。ダンパーに横方向の力が入らないようにするのが狙いで、これによりターンイン時の回頭性を高めている。スワンネック型のステーで支持するリヤウイングや大容量のディフューザーも911 RSR由来だ。
いっぽう、先代比10ps(7kW)アップとなる510ps(375kW)の最高出力が与えられた4.0ℓ水平対向6気筒自然吸気エンジンは、911 GT3 Rのそれをベースとする。この高回転エンジンは、ひと足先に新型に移行した911 GT3 Cupと基本的には同一だ。つまり、レーシングカー濃度が極めて高い。そして歴代のGT3と同様、新型もパブリックロードでの使い勝手が考慮されている。
9000rpmの最高回転数は先代と同じだ。最大トルクは先代の460Nmから470Nmに引き上げられている。吸気系には可変インテークマニフォールドが組み込まれており、スロットルはシングルでもツインでもなく6連だ。つまり、各気筒独立で、俊敏なレスポンスが期待できる。切り替えフラップの作動でよりエモーショナルなサウンドを発するようになるスポーツエキゾーストシステムは、先代比で10kg以上の軽量化を果たしている。
新型911 GT3の実力を数字で示しておこう。6速MT仕様のトップスピードは320km/h(7速PDK仕様は318km/h)。0-100km/h加速は3.4秒で、0-200km/hは10.8秒だ(いずれもPDKで、6速MT仕様はそれぞれ3.7秒、11.9秒)。直線番長ではもちろんなく、全長20.8kmのニュルブルクリンク北コースを6分59秒927でクリアする実力を備えている。
なんと、先代より17秒も速い。大幅タイムアップに貢献した技術のひとつは、モータースポーツ活動を通じて蓄積した知見を反映した空力だ。ド派手なディフューザーは先代911 GT3比で4倍ものダウンフォースを発生するという。車両全体では先代比約50%増しで、フロントリップスポイラーやフロントディフューザー、翼面下部のエアフロー改善につながるスワンネック型ステーのリヤウイングなどが空力の高性能化に貢献している。サーキット走行専用のセッティングにした場合は、ダウンフォース150%増し(200km/h時)にすることも可能だ。
リヤサスペンションはマルチリンク(5リンク)式を踏襲。ただし、高いストレスにさらされるロワーウィッシュボーンに追加のボールジョイントを配したことで、動きの精度が高まっているという。サーキットでのパフォーマンスを向上すべく、ダンパーも改良を受けている。後輪操舵を採用したのもニュースで、車速に応じて同相または逆相に最大2度する仕組みだ。極低速での取り回し性を向上させると同時に、高速コーナーでのスタビリティを高める狙いだ。
軽量化は徹底している。フロントのブレーキディスクは先代の380mm径から408mm径に拡大しているが、重量は17%低減。バッテリーは先代比で10kg軽く、ボンネットとリヤウイングはCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製である。リクエストによりルーフをCFRPに変更することも可能。エキゾーストシステムの軽量化は前述したとおり。すべてのウインドウに軽量ガラスを採用した。広範囲に渡るこれらの軽量化の結果、6速MT仕様の車重は1418kg、7速PDK仕様は1435kgとなっており、2.8kg/psのパワーウエイトレシオを実現している。
インテリアでは「トラックスクリーン」と呼ぶ新機能を採用したのが特徴だ。メーターパネルの中央には10000rpmまで目盛りのあるエンジン回転計が配置されている。その左右はデジタルディスプレイになっており、ボタン操作によってタイヤ空気圧や油圧、油温、燃料残量、水温といった、サーキット走行に不可欠な表示に切り替えることができる。
新型ポルシェ911 GT3は限りなくレーシングカーに近い、公道走行可能なハイパフォーマンスモデルだ。