TEXT◎瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO◎Motor-Fan
2020年7月レクサスのフラッグシップクーペモデルに追加された『LCコンバーチブル』に乗る機会を得た。LC自体なかなか乗るチャンスがないが、20年マイナーチェンジを受けたクーペモデルではリヤの安定感が増し、ボディはより一層のフラット感を得ている。リヤからユルユルと外へ押し出されていくような感覚や、上下にルーズに動く感覚が薄くなったことで、ボディはピタリと安定しトレース性能が向上した。
定常域になってからGを追い込んでいくと、わずかに揺すられる印象は残るものの、優雅なクーペであることに加えて、FRスポーツとしての一面もしっかりと磨き込んできた。このところのレクサスのクルマ作りは、走りに妥協がなく進化し続けていることがよくわかる。
このLCにコンバーチブルが加わった。レクサスにとってIS350C以来のオープンボディとなるが、SCやISのハードトップモデルとは異なり、LSでは初のソフトトップを採用。レクサスならでは高級感あふれる流麗なシルエットと、コンバーチブルならではの軽快さにこだわった結果だという。
実車を見てみると、確かに従来のコンバーチブルモデルのように、バッサリと切り落として、折り目の入った屋根を無理矢理載せたようなフォルムとは異なり、クーペに負けない流麗なシルエットを実現。屋根を開けてもソフトトップゆえに、コンパクトに折りたたむことができ、フラットでハードタイプのトノカバーの採用と相まって、伸びやかなオープンフォルムを生み出している。
屋根を開けたときに感嘆を呼ぶすっきりとしたボディシルエットと、クローズドボディの小さなキャビンから生まれる美しいクーペスタイルを同時に味わえる。そんな贅沢な思いがこのソフトトップに込められている。
それでいながらキャビンは、+2レイアウトをキープ。前後にややタイトで角度がきついものの、大きめのバックを置くスペースや緊急時に子供を近所に乗せて行くことくらいはできる。もちろん、フロントシートリクライニングも仮眠できる程度の傾きまでは倒すこともでき、実用面においてはオープン2シーターとは大きな開きがある。
走りは期待以上に良かった。5.0ℓV8自然吸気エンジンのみのラインアップとなるが、始動時のサウンドは同じエンジンを積むRC F同様リズムカルで腹に響く重厚さを与えるものの、すぐにトーンダウンさせて上質さを演出。屋根を開けていても耳障りになることなく、パワフルさと質感にこだわっていることがわかる。
エンジンやミッションからの振動を感じにくいのは、ただ単に固体の動きを抑制しているばかりでなく、ボディを含めて一体感をもったNVH対策が施されているためだろう。これはトップを下ろしたオープン状態でワインディングなどでクルージングを行なったときに特に感じられることで、コンバーチブルモデルとして基本から作り込んだからに違いない。
逆にクローズド状態では3枚の布素材と1枚の遮音材を組み合わせた4層構造のトップの採用によって、ソフトトップであることを気にせずドライブできることにレクサスブランドならではの質感を与える一方、ハンドリング面や乗り心地面においては、本来ベストであるクローズドボディのクーペ以上にバランスが良く感じられた。
フロアやボディエンドモデルの当て板やクロスバーの追加、構造接着剤の延長等によって、オープンボディありきのボディ骨格の強化を徹底して行なったことで、ブランニューモデルといえるほどの乗り味となっている。
フロントロワーアームのアルミ化や減衰力の見直しなどの効果もあり、足元の動き始めや減衰に遅れが出ないことでボディに無駄な動きを伝達しないし、フロア強化によって前後左右方向の揺り返しも少ない。屋根を開けていても高Gまで素直にライントレースできて、ステアリングが左右に動くことも少ないから、いかに正確に足元が動いているかが理解できる。
もっとも直進時や旋回安定状態に入ってからは、リヤの太いタイヤが路面の影響を受けてしまうのかボディが進行方向にやや揺れるのは唯一気になるポイント。これはクーペでは改善されていたと思ったが、コンバーチブルではフロアの一層強化によってやや後輪が反応しやすくなったためと思われる。
エンジンはひと吹かしすればノーマルモードでもレッドゾーン直前の6800rpmまで谷間なく凝縮されたパワーが積み上げられ、50ℓの重さは感じない。直線的でその傾向はRC Fなどと同様の鋭さを持つ。LC500コンバーチブルは、パワースペック的には477psとパワーアップしたRCF(最高出力481ps)に対して4psの差があるが、最大トルクは540Nmとわずかに上回る(RC Fは535Nm)。密度のあるパワー感はこのスペックの差に生かされているに違いない。車重もクーペに対して100kg増となるものの、重さを感じることは無い。
国産最強の自然吸気エンジンの搭載によってスポーツモデル並みの刺激的な走りを楽しめる秘めた性能を得ながら、街乗りでは上質なパワーフィールを確保し、オープンボディでは爽快さに加えて快適な走りをも手に入れたLCコンバーチブルは、レクサスが日本で歩んできた15年を超える歴史の集大成と言っていい。従来あまり高く評価できなかったTNGA技術のFR系シャシー、GA-Lの進化としても大きな分岐点に違いない。
レクサスLC500 Convertible
全長×全幅×全高:4770mm×1920mm×1350mm
ホイールベース:2870mm
車重:2050kg
サスペンション:F&Rマルチリンク式
駆動方式:FR
エンジン
形式:5.0ℓV型8気筒DOHC
型式:2UR-GSE型
排気量:4968cc
ボア×ストローク:94.0mm×89.5mm
圧縮比:-
最高出力:477ps(351kW)/7100pm
最大トルク:540Nm/4800rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:82ℓ
燃費:WLTCモード8.0km/ℓ
市街地モード:4.7km/ℓ
郊外モード:8.5km/ℓ
高速道路モード:10.9km/ℓ
トランスミッション:10速AT
車両本体価格:1500万円