REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン
ホンダ・PCX.......357,500円
ホンダ・PCX160.......407,000円
初代モデルの登場は2009年の事。進境著しいアセアン諸国を主要の市場ターゲットとして開発されたPCXは、大き過ぎない程良いサイズ感のコミューターである。日本では2010年から市場投入された実用性の高いピンクナンバー(原付2種)スクーターで前後に14インチホイールを履いた点と当初30万円を切る価格設定にも注目されて確かな人気を獲得した。
2012年にはPCX150が加わり、2014年には第二世代へモデルチェンジ。2018年にはLEDランプやスマートキー装備の第三世代へと進化していた。
初代登場から約10年で累計約150万台の販売実績を重ね、今や年間40~45万台の生産規模を誇るヒットモデルに成長。今回、約2年8ヶ月振りと言う、少々早過ぎるフルモデルチェンジを実施。開発コストを惜しまないメーカー姿勢の表れは、PCXが世界市場で如何に高い人気を得られているかを示していると言えるだろう。
それだけ多くのユーザーに親しまれ売れ筋モデルとして定着して来た、高い評価が得られている証でもあるわけだ。
ちなみに主要マーケットはインドネシアで販売実績は全体の約60%。タイが20% 。その他はおおよそ5%ずつ、韓国、欧州、ブラジル、そして日本で売られている。
さて今回はフレーム、エンジン等、ほぼ全ての部分が新設計となるフルモデルチェンジである。
開発のねらいは、“Personal Comfort Saloon ”としてのさらなる進化にあった。各国で高い評価を重ねてきたこれまでのモデル人気も踏まえ、ワンランク上の上質な定番コミューターとして熟成する。
もちろんその決起となった要因には2021年から適応される排出ガス規制のユーロ5対応が背景にある。
主に緻密な燃焼制御を担う燃料噴射を要とする吸気系と、排気系に装備されるキャタライザーの装備。そして排気具合を検知することでリアルタイムで燃焼状態を細かく適正に保つ電子制御技術の進化で既にクリーンなエンジンが投入されてきているが、メーカーは段階的に厳しくなる規制への適応が迫られる。
ユーロ5は2020年から新型機種への適応が始まっているが、継続販売車両に関しては2021年から適応されるのである。
それをクリアする、高い環境性能を備えた次代のパワーユニットとして、ホンダは今回eSP+エンジンを新開発した。それに合わせてユニットスイングのエンジン懸架方式やリヤサスペンションの熟成。
安全性や使い勝手の進化も含め、トータルで全てが見なおされたと言う。そんな中、あえて変更しなかったのは、車体のサイズ感である。多くの国で高い人気を獲得した要因は実用性の高さと、決して大き過ぎることのない程良い車体ボリュームにあると判断。
実際、新旧モデルの主要諸元を比較してみても、両車の差は小さく、ホイールベースやシート高は同じである。目立つ違いを列挙すると、リヤのホイールサイズが14から13インチになった事。リヤブレーキのディスク化。4 バルブ化されたエンジンはボア・ストロークも異なり圧縮比も高くなった。150(149cc)は160(156cc)へ排気量を拡大すると共にショートストローク化。125はロングストロークながらも少しスクエアに近づけられている。
より厳しくなる排出ガス規制に対応していくには、例えば触媒等パワーをスポイルするデバイスの装備も不可欠。走行性能を落としたくなければ、エンジンの基本性能は高めておく必要があるわけだ。
今回のeSP+では、両エンジン共にシリンダーボアの拡大に加えて4バルブ化と高圧縮比化を実現してパワーアップ。またフリクションロスの低減も徹底的に見なおされたと言う。
結果は出力特性を示す性能曲線の新旧比較の通りである。4バルブ化とスロットルボア拡大による吸排気効率の向上と気筒内での爆発(燃焼)圧力の増大、駆動系の熟成も相まって実質的な走行性能向上も果たしていると言う。
フレームもまるで異なる仕上げ。ダブルクレードル式からアンダーボーン式に変更されてスッキリとシンプルなパイプワークになっているのが印象深い。
各生産拠点で作りやすくする事で、安定した製造品質を確保しながら、コストダウンにも貢献。さらに約900gの軽量化とステアリングヘッドパイプ回りの捩じり剛性強化、そしてシート下収納容積拡大も実現している。
そんな基本を押さえながら外観フォルムも一新。「伸びやかでエレガントな造形」が追求され、直線基調のエッジの効いたラインを活かしたデザインは新鮮でかつ上質なイメージが巧みに表現されているのである。
人気車種ならではの総合性能の高さ。その洗練された仕上がりは魅力的である。
足つき性チェック(身長168cm)
ディテール解説
PCX
PCX160
◼️主要諸元 PCX /PCX 160
車名:ホンダ・PCX〔PCX 160〕
型式:2BJ-JK05〔2BK-KF47〕
全長(mm):1,935
全幅(mm):740
全高(mm):1,105
軸距(mm):1,315
最低地上高(mm):135
シート高 (mm):764
車両重量(kg):132
乗車定員(人):2
燃料消費率(km/L):国土交通省届出値:55.0(60km/h)<2名乗車時>〔53.5〕
WMTCモード値(km/L):47.4<1名乗車時>〔45.2〕
最小回転半径(m):1.9
エンジン型式:JK05E〔KF47E〕
エンジン種類:水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒
総排気量(㎤):124〔156〕
内径×行程(mm):53.5×55.5〔60.0×55.5〕
圧縮比:11.5〔12.0〕
最高出力(kW [PS] /rpm):9.2[12.5]/8,750〔12[15.8]/8,500〕
最大トルク(N・m [kgf・m] /rpm):12[1.2]/6,500〔15[1.5]/6,500〕
燃料供給装置形式:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)
始動方式:セルフ式
点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火
燃料タンク容量(L):8.1
変速機形式:無段変速式(Vマチック)
タイヤ(前/後):110/70-14M/C 50P / 130/70-13M/C 63P
ブレーキ形式(前/後):φ220mm油圧式ディスク / φ220mm油圧式ディスク
懸架方式(前/後):テレスコピック式 / ユニットスイング式
フレーム形式:アンダーボーン
⚫️試乗後の一言!