TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
5代目になった新型ルノー・ルーテシア(ルーテシアV)が、先代のイメージを受け継ぐキープコンセプトなのは一目瞭然だ。「なんだ、あまり変わっていないじゃん」と感じた人も多いだろう。筆者もそのひとりだ。しかし実車を目にして印象は変わった。ひと目でルーテシアに見えることに変わりはないが、格段に上質になっている。
先代ルーテシア(ルーテシアIV)は曲線の多用で躍動感を表現していたが、ルーテシアVは曲線で官能美を表現しつつ、要所に直線を加えて「新しさ」を生んでいる。ボンネットに入るV字のラインと、クロームメッキをあしらったフロントグリル(ベースグレードのゼンは非装備)、それに精緻な作り込みを持つヘッドライトが生み出す表情は、「ひとクラス上」に感じさせる。
ルノーが新型ルーテシアを開発するにあたってキープコンセプトを選択したのはもっともで、先代はバカ売れしたのだ。ルーテシアIVまでの4世代までで全世界で1500万台を販売。ルーテシアIVに限っていえば、2013年のデビュー以来、6年連続でヨーロッパBセグメントナンバーワンの販売台数を誇る。ルーテシア(本国名クリオ)より多く販売しているのは、ひとまわり大きいCセグメントに属するVWゴルフだけだ。
ルーテシアVは、見た目だけを変えて新鮮さを保つ作戦、をとったワケではない。中身はまるっきり変わっているのに、外はあえて変えなかったのだ。プラットフォームは、ルノー・日産・三菱のアライアンスが新開発したCMF-B(コモン・モジュール・ファミリー)を採用。CMF-Bはルーテシアが初出しになる。
エンジンはルノー・日産・三菱のアライアンスとメルセデス・ベンツが共同で開発した1.3ℓ直4直噴ターボガソリンエンジンを搭載する。Cセグメントに属するメルセデス・ベンツB180が搭載するエンジンと同じだ(最高出力/最大トルクなどの仕様は異なる)。トランスミッションにDCTを採用するのはルーテシアIVと同じだが、変速段数は6速から7速に変更されている。
エンジンの最高出力は131ps(96kW)/5000rpm、最大トルクは240Nm/1600rpmだ。ルーテリアIVの1.2ℓ直4ターボエンジンは118ps(87kW)/5000rpmの最高出力と205Nm/2000rpmの最大トルクを発生した。新型は大幅なパフォーマンスアップを果たし、ヨーロッパBセグメントのトップクラスであるばかりか、ひとまわり大きなCセグメントの領域に足を踏み入れている(グラフ参照)。
ちなみにプジョー208の1.2ℓ3気筒ターボは、100ps(74kW)/5500rpmの最高出力と205Nm/1750rpmの最大トルクを発生。VWポロの1.0ℓ3気筒ターボは、95ps(70kW)/5000-5500rpmの最高出力と175Nm/2000-3500rpmの最大トルクを発生する。ルーテシアIVは性能を表す数値が大きいだけでなく、振動面で有利な4気筒エンジンを採用しているのも特徴だ。
ルーテシアIVは先進運転支援システム(ADAS)系の装備が貧弱だったが、VではCMF-Bプラットフォームの採用を機に一気に後れを取り戻している。自動的に加減速を行なって先行車との距離を保つアダプティブクルーズコントロール(ストップ&ゴー機能付き)は全車標準。最上級グレードのインテンス・テックパックは、アダプティブクルーズコントロールとともに作動するレーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)を標準で装備する。前者は単眼カメラとレーダーで、後者は単眼カメラで機能を成立させている。また、インテンス・テックパックは360°カメラを標準装備するが、これはアライアンス(すなわち日産)の技術を活用したものだ。
インテリアはデザインを一新した。ルーテシアIVとVを見比べてみると、IVはセンターコンソールやダッシュボード、ドアトリムに、複数のパーツを組み合わせたことによる凹凸が多く、煩雑だったことに気づく。Vのインテリアがすっきりしていることの裏返しでそう感じるのだろう。VはIVに比べて小さなエアバッグを採用したことにより、センターパッドがだいぶ小さくなった。そのおかげでスポークの左右にスペースができ、ADAS系やハンズフリー通話、7インチ・デジタルインストルメントパネルの画面を切り換えるボタンを配置している。ただし、オーディオ系のボタンを配置する余裕はなかったとみえ、これらの操作スイッチはステアリングの右裏のレバーに配置してある。
エクステリアと同様、インテリアもIVに比べて一段と上質になっており、液晶メーターのグラフィックがモダンな印象を与えるのにひと役買っている。ゼンを除くグレードに装備するマルチセンスと連動して、グラフィックを切り替えることが可能だ。センターコンソールの7インチタッチスクリーンでは運転モードのセレクトやアンビエントライト(8色)の切り替えが可能。「マイセンス」モードでは電動パワーステアリングの設定を3段階に切り替えられる。
電動パーキングブレーキ(オートホールド機能付き)の採用も、IVからVにかけての変化点だ(つまり、VWポロと違ってハンドレバーではない)。シフトセレクターは左右方向に倒してマニュアルモードに切り換えるような構造になっておらず、任意の段に変速したい場合はステアリング裏のパドルを操作する仕組みだ。
運転席はIVと同様に、運転に対して能動的に向かい合える環境が整っていると感じた。座面を10mm延長したシートは革張りのせいか体全体を包み込むような(ある意味ステレオタイプな)フランス車らしさは希薄だが、サイズ的にもホールド性の面でも不足は感じない。運転席はレバーの位置に不便を感じないが、助手席のリクライニングレバーは調整しづらい。なぜなら、シートベルトのアンカーがボディではなくシート側についているためで、シートベルトとレバーが干渉して手を入れづらいのだ。
ホイールベースはヨーロッパBセグメントの競合比で最も長い(2585mm)が、後席の居住性はちと厳しい。身長184cmの筆者が運転席でドラポジをとった状態で後席に移動した場合、VWポロはひざ前にスペースが残る。プジョー208はスペース面の余裕はないが窮屈さは感じない。ルーテシアは膝前に関してのみやや窮屈だ。股を開いてシートバックを逃げたくなる。
Cセグメント並みのパワーとトルクを発生するだけあって、ルーテシアVは元気いっぱいの走りを披露する。出力/トルク面で劣るプジョー208は「これで本当に100馬力?」と疑問に思うほど力強い走りに驚いた。アクセルペダルを踏み込んだ瞬間にグッと背中を押す力を出すところが、力強さを感じさせるゆえんだ。
ルーテシアVのエンジンは元気に回っていることを元気な音でドライバーに知らせながら、高まる音とシンクロして大きな力を出す。ドライバーが望めば、相当活発に走る。じゃあ走りに振ったエンジンかというと、そうでもなさそうで、きっちり計測はしていないものの燃費も良さそう。WLTCモード燃費は17.0km/ℓだが、走り方次第では軽々とクリアしそうな雰囲気は感じた。
脚(フロントはストラット、リヤはトーションビーム)は「少し硬めかな」と思う場面があったものの、高速道路上の継ぎ目を感心するほどうまくいなしたりして、そういう場面に遭遇するほどにルーテシアVに対する愛情が増す。Bセグメントのモデルにそこまで求めるのは酷かとは思うものの、高速域でのロードノイズはもう少し控え目だとありがたい。せっかくBOSEサウンドシステム(ゼンを除くグレードに標準装備)が耳あたりのいい音を出しているのに、充分に楽しむことができないからだ。
ルノー・ルーテシア インテンステックパック
全長×全幅×全高:4075mm×1725mm×1470mm
ホイールベース:2585mm
車重:1200kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列4気筒DOHCターボ
型式:H5H
排気量:1333cc
ボア×ストローク:72.2mm×81.4mm
圧縮比:9.6
最高出力:131ps(96kW)/5000pm
最大トルク:240Nm/1600rpm
燃料供給:DI
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:42ℓ
燃費:WLTCモード 17.0km/ℓ
市街地モード12.7km/ℓ
郊外モード:17.2km/ℓ
高速道路:19.8km/ℓ
トランスミッション:7速DCT
車両本体価格:276万9000円