編集部のあるビルの地下駐車場で対面したときに、「お、クリオ、立派になったな、大きくなったな」と思った。しかし、実際は前型より小さくなっている。
新型ルーテシア
全長×全幅×全高:4075mm×1725mm×1470mm
ホイールベース:2585mm
前型ルーテシア
全長×全幅×全高:4095mm×1750mm×1445mm
ホイールベース:2600mm
明らかに質感が上がっていることと、デザイン的にも落ち着いたテイストだからそう感じたのだろう。たとえば、サイドパネルとルーフのつなぎ目はレーザーブレージングで接合されているから、いわゆるモヒカン接合と違って、無粋なモールがない。
新型はプラットフォームもエンジンもトランミッションも一新している。
まずはプラットフォームだ。新型からルノー・日産・三菱のモジュラープラットフォームCFM-Bを使う。おかげで軽量に仕上がったという(実際、前型より軽い)。
エンジンは、H5H型1.3ℓ直4DOCH直噴ターボを搭載する。前型は0.9ℓ直3ターボ、1.2ℓ直4ターボとルノースポールモデルの1.6ℓ直4ターボだった。
Bセグのライバルたちの多くが3気筒エンジンを載せるのに対してルノーは4気筒を選んだ。この4気筒は、ダイムラー(メルセデス・ベンツ)とルノーが共同開発したもので、メルセデス・ベンツではM282型を名乗る。最大の特徴は「デルタシリンダーヘッド」と称する側方視で三角形のシリンダーヘッドは、カムシャフト/バルブトレーンの動きと機械的配置をゼロから見直すことで発案された非常にユニークなものだ。131ps/240Nmは1200kgの車重に対して充分だ。
たっぷりとしたシート、豪華ではないけれど明るくて常識的なインテリア、まぁまぁ丸いステアリングホイール。シートの座り心地もいい。175cmの標準体型の筆者がドライビングポジションを取ったのち、後席に座ってみる。前席との間にはこぶし1個は入らないが4cmほどの隙間ができる。ルーフをボディ後端まで伸ばしていることもあって、後席はBセグハッチバックとしては充分な広さだ。
さて、走りだそう。
ルノーは2ペダル・トランスミッションにDCTを多用する。トランスミッションとしての伝達効率の高さとダイレクト感がDCTの美点だが、低速域、あるいは走り出しがギクシャクしがちという弱点もある。乾式DCTはそれが顕著にでる傾向があるのだが、新型は湿式だ。これなら、と思って走り出した。
が、やっぱりギクシャク、というか走り出しに滑らかさが足りない。たとえば、信号待ちでエンジンがアイドルストップから再始動ーギヤが1速に入って走りだすという一連の動きがドライバーの思うよりワンテンポ遅いのだ。これがトルコンATならもっと滑らかなのは明らか。
とはいえ、走り出してしまえば、この7速DCTはとても気持ちよく変速してくれる。7速100km/h巡航時のエンジン回転数はメーター読みで1950rpm(2000rpmにはならない)。つまり、街中の渋滞、あるいは信号ばかりある都内の走行よりも、信号が少ない郊外路、ワインディング、高速道路が得意ということになる。
湿式DCTなのにどうしてこういう振る舞いになるのか? ルノージャポンの担当者に伺うと、エミッション対策が進んでからこういう傾向が出てきた、という。
フランス車というと、しなやかなサスペンション、優しい乗り心地と思い浮かべるが、新型ルーテシアはいい意味でフランス車っぽくない。これは先進運転支援技術をBセグハッチバックにも入れていこうとすると、どうしてもクルマの動きを固めていかないとまずいから、らしい。つまり「ふんわり」な脚周りでは最新のADASはうまく機能しないということなのだ。
今回の試乗では540kmほど走ってみた。ためしに、(いまはすっかり行けなくなってしまった)海外出張を想定して、大型のスーツケースを積んで成田空港までドライブしてみた。立てて入れると大型のスーツケースはラゲッジスペースに収まる(2個は入らない)。
ドライブモードは「ECO」「Sport」「My Sense」の3つがあり、ステアリング(のアシストの仕方)やメーター、室内のライティングなどを設定できる。せっかくなので、「My Sense」でステアリングを「Sport」にしてみた。ステアリングはしっかり感が増していい感じだったが、あとで担当者に伺うと「電動パワーステアリングのアシスト量を変えているだけじゃない」んだそうだ。切り始めの手応え、アシストの立ち上げ方なども微妙に変えているそうだ。
リラックスするために音楽をかける。残念ながら新型車のオーディオはどんどんCDのスロットがなくなっている。やむを得ずApple CarPlayでAppleMusicを使ってみる。
これがびっくりするくらいいい音がするのだ。
インテンスには、BOSEのサウンドシステムが標準でつく。9スピーカーのシステムで、注目はトランクに設置されたサブウーファーだ。詳細はわからないが、どうやらブループリント・アコースティック社のフレッシュエア・スピーカー技術を元に開発されたもののようで、貴重なカーゴスペースを犠牲にすることなく、豊かな強力な超重低音サウンドが楽しめるという触れ込みにウソはない。文句なくBセグトップ級のオーディオだ。これはいい。
オーディオの音は最高なのだが、タイヤのロードノイズがちょっと大きい。タイヤサイズは205/45R17のコンチネンタルEcoContact 6を履く(この1銘柄だそう)。もっとロードノイズが低いタイヤを履いた方がいいと思った。
燃費は、534km走って燃費は5.8ℓ/100km。17.2km/ℓ(平均速度33.8km/h)だった。WLTCモードが17.0km/ℓだから、それ以上の燃費だったことになる(あくまでも燃費計の数字だが)。
ほんの数日、一緒に過ごしただけだが、新型ルーテシアの実力は非常に高いと感じた。大きくなりすぎたCセグのクルマより使いやすくて燃費もいい。なんとなく、CセグからBセグへ、自動車の中心点が移動しつつあるように感じた。
新型ルーテシアなら、おそらくなにも我慢することなく一家に一台、ファーストカーの役割を果たしてくれる。価格もリーズナブルだ。7速DCTのマナーを除けば、
「フランス車ってやっぱりちょっとマニアっぽいよね」という部分はない。(非常に良い意味で)ごく普通に乗れる出来の良いBセグハッチバックだ。
ルノー・ルーテシア インテンステックパック
全長×全幅×全高:4075mm×1725mm×1470mm
ホイールベース:2585mm
車重:1200kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列4気筒DOHCターボ
型式:H5H
排気量:1333cc
ボア×ストローク:72.2mm×81.4mm
圧縮比:9.6
最高出力:131ps(96kW)/5000pm
最大トルク:240Nm/1600rpm
燃料供給:DI
燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク:42ℓ
燃費:WLTCモード 17.0km/ℓ
市街地モード12.7km/ℓ
郊外モード:17.2km/ℓ
高速道路:19.8km/ℓ
トランスミッション:7速DCT
車両本体価格:276万9000円