排ガス吐出量を流量可変ノズルで自在に制御し、低速から全負荷までに対応する可変ジオメトリーターボ。その仕組みを解説しよう。


TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

排出ガスがもつ運動エネルギーはエンジンが回転すれば増加するが、重さ(慣性モーメント)のあるタービンの回転数はすぐには上昇しないので、回転数の自乗で決まる過給圧も遅れて立ち上がる。圧縮比の低い過給エンジンは、過給圧が高まるまでは「排気量の割にトルクが小さいエンジン」にすぎず、クルマは思ったように加速してくれない。これがターボラグと呼ばれる現象である。




ターボラグ解消の本道は、タービン/コンプレッサーホイールと、それをつなぐシャフトを軽量化して慣性モーメントを低減し、レスポンスを向上させることだ。タービンブレード形状の工夫で、比較的低い排気流量から反応させるアプローチもたゆまず続けられている。しかし、いずれも限界がある。




必要なのは、タービンの回転を高めるに足るエネルギーだ。ならば、排気流量が少なくてもその圧力もしくは流速を高めてやれば、ターボラグは低減できる。そのための仕組みのひとつが、可変容量型と呼ばれるターボチャージャーである。

(ILLUST:PORSCHE)

さまざまな方式があるが、主流は排出ガスをタービンへ吹き付けるノズル面積を可変とするもの。古くは日産「ジェットターボ」、ホンダ「ウイングターボ」などが可変ノズル型ターボだった。




ポルシェが「可変ジオメトリーターボ」としているものは、可変入口案内小翼(Variable Intake Guide Vane)を用いたシステム。ターボハウジング内部のスクロール(渦室)からタービンへ排出ガスを吹き込むノズル部分に、アクチュエータや電気モーターによって作動する複数の可動ベーンを配置。排気流量が少ない状態ではベーン間の隙間を絞ることで圧力を速度に変換し、タービンに働きかけるエネルギーを高める。エンジン回転=排気流量が高まってきたら、それに応じてベーン開度を調整して全負荷の過給圧を制御する、というわけだ。

(ILLUST:PORSCHE)

【左:排気流量が少の状態】


可動ベーンはスクロール部分からのノズルを絞る位置と角度に固定される。ノズルの隙間が狭まることで、その間を通り抜ける排気ガスの流速が高まり、運動エネルギーを高めた状態で勢いよくタービンに吹き付けられ、短時間でタービンの回転を高められる。


【右:排気流量が大の状態】


エンジンの回転数が高まり、排気流量が増えてきた状態では、可動ベーンはノズル隙間を拡げる位置と方向に動く。この状態で、各ベーンの位置と形状がタービンブレードに効率良く排気ガスを吹き付けられる設計とすることが重要なポイントである。

過給圧の立ち上がりが早いため、ディーゼルエンジンではターボラグ状態での酸素量不足によるPM発生を抑制する目的から採用例が多い。しかしガソリンエンジンではポルシェが911ターボ(997系)に採用している程度。ディーゼルの排気温度が850゚C程度に留まるのに対して、ガソリンでは1000゚Cを超えるレベルまで見込んでおく必要があり、可動ベーンが非常に高価なものとなってしまうためだ。

三菱重工TF035HL-VG型ターボチャージャー。この製品自体はディーゼルエンジン向けのものだが、VGターボの構造を理解しやすいので資料として用いた。可動ベーンは中心に回転軸をもっており、また片端をノズルのコンプレッサー側にあるリングと、チェーンのコマのようなアームで接合されている。アクチュエータがリングを回転させると、その動きに応じてベーンの角度がリニアに変わっていく。構造はそう複雑ではないが、製造精度、材質などの面で高いレベルが要求される。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 内燃機関超基礎講座 | 可変ジオメトリーターボとはどのような装置か