REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ドゥカティジャパン株式会社
ドゥカティと言えば独自技術として定評のあるデスモドローミック(バルブの強制開閉システム)のLツインエンジン搭載が古くから良く知られている。横置きの90°Vツインエンジンだが、当初は前シリンダーがほぼ水平で後シリンダーが垂直にレイアウトされ、右側からの眺めがL字になる事からLツインと呼び親しまれ、一時期その呼称が定着した。
2気筒エンジンながら単気筒に迫るスマートな車体デザインが構築され、1970年代当時から既にSS(スーパースポーツ)として割りきったコンセプトを採用。スポーティーなキャラクターとポテンシャルを備えていた。
当初はLツインエンジン搭載故のロングホイールベース設計も特長的で、高速コーナリング性能に秀でた安定感のある操縦性と、メリハリの効いたパンチ力&伸びの良さも魅力的だったと記憶している。その後も終始一貫して極めてレーシーなモデルを作り続けてきており、近年ではスーパーバイクやモトGPシーンと直結する高性能モデルをリリース。エンジンも後傾搭載されるようになっている。
ストリートバイクとしては、常に一級の高いポテンシャルを誇り、価値あるブランド力を築き上げているのである。
今回のパニガーレV2はパニガーレ959の後継となる最新モデルである。絶対的なパフォーマンスではV4系に一歩譲るものの、長年培われてきたV型2気筒のパフォーマンスも決して侮れず、V2のドゥカティ人気を牽引するトップモデルとして君臨する。
ダイキャスト・アルミニウム製モノコック構造のフレームにはスチール製トレリス構造のサブ(リヤ)フレームをボルトオン。スイングアームはダイキャスト・アルミニウム製片持ち式が奢られている。
リジッドマウトされた90°V型2気筒の水冷4バルブ(スーパークアドロ)エンジンのカムシャフトは、ギヤを挟んでチェーンで駆動されるタイプ。カムチェーンは、前シリンダーが左側、後シリンダーが右側を通る設計である。
ボア・ストロークは100×60.8mmというショートストロークタイプ。スクエア比は1,644で、パニガーレV4Sの1,514よりもオーバースクエアの度合いが大きい。
吸気側φ41.8mm、排気側φ34mmのビッグバルブを採用。メカニカル部分はもちろん、潤滑系や電子制御系に至るまで、レースで培われたテクノロジーが惜しみなく投入され、ポンピングロスや各可動部分のフリクションロスも徹底低減。
10,750rpmで155psの最高出力と、最大トルクは104Nm/9,000rpmを発揮。φ62mm相当の楕円スロットル・ボディはフル・ライド・バイ・ワイヤーで制御。もちろん6軸慣性ユニット(IMU)を装備し、コーナリングABSやトラクション・コントロール、エンジン・ブレーキ・コントロール、ウィリー・コントロール等、最新の電子制御技術も投入されている。
ちなみに任意設定できるライディング・モードは、レース、スポーツ、ストリートの3つから選択でき、メーターディスプレイに設定モードが表示される。
なおカラーリングは2タイプ。標準的なドゥカティ・レッドに加えて、ホワイト・ロッソも新登場。前者は黒いホイール。後者はホイール等に赤いアクセントカラーを採用しているのが印象深い。
ちなみにステアリング切れ角は24°と小さい。Uターン等の小回りは、V4Sよりもしにくい。市街地で扱いにくい事は間違いないがレーシングマシンに近い設計が施されているパニガーレV2の潔さはむしろ好感触である。
ローギヤに入れていざ発進。クラッチミート時のエンジン回転数は約3,500rpmは必要。しかも1Lマシンとしては考えられない程かなり長い半クラッチ操作が要求される。例えて言うなら3速ギヤで発進する様な感覚。
6速ミッションにハイギヤードなクロスレシオが投入されているからに他ならないわけだ。つまり発進停止を繰り返す様な渋滞路を走らせるのは忍びない(ちょっと可哀相な)気分になるのも正直なところである。
しかし、それだからこそ適切な加減速を必要とする峠やサーキットのコーナリングシーンで、シフトアップ/ ダウン操作の小気味良さはどれにも負けない価値があり、それを扱う楽しさと喜びは非常に大きい。
軽快に身を翻すコーナリングでは、前後輪の接地感が伝わってきて、どこまで攻められるか、攻めて良いかをバイクが教えてくれる感じ。操縦性は素直。V4Sよりもむしろクイックに旋回挙動を与える事ができる。
至ってナチュラルに思い通りのラインをトレースできるし、タイヤのグリップ力も高く遠心力により自分の体重がリヤタイヤの荷重を増す感覚もリニアに伝わってくるので、旋回途上からスロットルを開けてコーナーを脱出する醍醐味もたまらないのである。
しかも、コーナリング限界はかなり高い所にある。旋回中にさらにイン側へ向けられる余裕も残されているので、無茶することなくハイレベルなスポーツライディングが楽しめ安心感も高い。
さらに褒めたいポイントは、コーナリング立ち上がりで右手のスロットルを開けて行く時のレスポンスが、とても歯切れ良い。
ビッグボアのピストンが弾ける感じとでも言おうか、グイグイと力強い爆発パルスを感じながらトルクを増す感覚はとても気持ちが良く、伸びの良さも爽快。回しても10,000rpmチョイ(レッドゾーンは11,500rpm)だから、そこからさらに3,000rpmも余計に回るV4Sとのパワー差は明確ではあるが、その領域を楽しめるステージなんてそう多くは無いだけに、スムーズさの増したV4より、むしろダイナミックなパンチ力が感じられるV2の方が魅力的に思えたのが正直な感想である。
ローギヤで5,000rpm回した時のスピードは50Km/h。トップ100Km/h クルージング時のエンジン回転数は約4,400rpmだった。
試乗時に気付いた欠点はV4S程では無いがシート下からの熱気が暑かった事ぐらい。
サーキットでスポーツ走行に興じるには打って付けのマシン。普段はガレージで愛でつつ、季節と天気と場所を見極め、その絶好のチャンスにスポーツバイクの、それもとびきり上等なモデルの気持ちの良い走りを満喫するに相応しいモデルなのである。
全長×全幅(含むミラー)×全高:2090×760(810)×1130mm
シート高: 840 mm
ホイールベース: 1,436mm
最低地上高:128mm
車両重量(乾燥):200kg(176kg)
エンジン形式:スーパークアドロ
エンジン種類:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ(デスモドロミック)
気筒数配列:90°L型2気筒
排気量:955 cc
ボア×ストローク:100 x 60,8 mm
圧縮比: 12.5:1
最高出力: 114kW(155ps)/10,750 rpm
最大トルク:104Nm (10.6 kgm) /9.000 rpm
燃料供給装置: 電子制御燃料噴射システム、ツイン・インジェクター、フルライド・バイ・ワイヤ、
楕円スロットルボディ
エグゾースト: 2-1-2-1システム、触媒コンバーターX2、O2センサーX2
ギアボックス:6速、ドゥカティ・クイックシフト (DQS)アップ/ダウンEVO 2
1次減速比: 1.767(30/53)
減速比:
1速 2.467(15/37)
2速 1.875(16/30)
3速 1.500(18/27)
4速 1.250(20/25)
5速 1.090(22/24)
6速 0.958(24/23)
最終減速:チェーン 2.867(15/43)
クラッチ: 湿式多板、油圧式、セルフサーボ/スリッパー・クラッチ機構付
フレーム: アルミニウム製モノコック
サスペンション(前/後):ショーワ製フルアジャスタブルBPF倒立フォーク、φ43mmクローム・インナー・チューブ / ザックス製フルアジャスタブル・ショック、アルミニウム製片持ち式
スイングアーム
ホイール(前/後):軽合金 5スポーク3.50x17 / 軽合金5スポーク5.50x 17
タイヤ(前/後):120/70 ZR17 ピレリ製ディアブロ・ロッソ・コルサ2 / 180/60 ZR17 ピレリ製ディアブロ・ロッソ・コルサ2
ホイールトラベル(前/後):120mm / 130mm
ブレーキ(前/後):ブレンボ製4ピストン・ラジアルマウントM4.32 モノブロック・キャリパー、φ320mmセミフローティング・ダブルディスク / φ245mmディスク、2ピストン・キャリパー、ボッシュ製コーナリングABS EVO
メーターパネル:デジタル・ユニット、4.3インチTFTカラー・ディスプレイ
キャスター: 24°
トレール: 94mm
ステアリング切れ角(左/右):24° / 24°
燃料タンク容量: 17L
乗車定員数:2名
燃料消費率:14.5km/L