TEXT●清水草一(SHIMIZU Soichi)
人生最高のクルマ・輸入車編は、フェラーリに人生を賭けて来た関係上、すべて自家用車から選ばせていただきます。ただ、フェラーリばっかりになると退屈でしょうから、多少配慮しました。
初めて買ったハイドロシトロエンは癒しの極致。生涯最長の7年半乗りました。これまで49台クルマを買っている私としては、7年半も長~く愛したのはこのクルマだけです。
最大の美点は、言うまでもなく乗り心地です。ただ、本当に乗り心地がいいのは高速巡行時のみ。大きなうねりを乗り越えた時、車体が水平を保ったままフワンと上下する、魔法のじゅうたんみたいなあの感覚に集約されていて、その他の場面では大して乗り心地がよくないのがまたよかった。ツンデレっていうんですかね。「あの瞬間をまた味わいたい!」と思い続けた7年半でした。
価格も2580万円(中古)と、これまで買ったクルマのなかでダントツでしたが、性能はクルマの領域を超えてUFOレベルにあり、異次元を見ることができました。
特にコーナリングは、完全に物理法則を超えているように感じました。Eデフの左右駆動力配分によって、曲がりたいほうに後輪が押し出してくれるので、そこらの四つ角を曲がるだけで「ウヒョ~!」と叫んでしまうほどの快感があったのです。
ただそれは、フェラーリらしい危険と隣り合わせの快楽で、詳しくは割愛しますが、とにかく曲がりすぎる。ワインディングではコーナー内側のガードレールに突っ込まないよう注意し続けた、5年間のUFO生活でした。
私が最初に買ったフェラーリ、90年式348tbこそ、私の人生あるいは人間性そのものを形成したとでも言いますか、細胞レベルでの大変異を発生させたクルマです。
詳しく書くスペースはないのですが、初期型348は真っすぐ走らない欠陥車でありながら、V8エンジンがあまりにも気持ちよく、常に死と隣り合わせの快楽を味わったのです。真の快楽は危険と背中合わせでなくてはならない。安全地帯の快楽なんて快楽じゃない! ヤバいから気持ちいいんだろうがうおおおおお!ってことですね。人生で最も濃い5年半でした。