1979年(昭和54年)、ホンダは2スト50ccスポーツモデル「MB50」をリリース。50ccスポーツとしては4ストエンジン搭載の「CB50」も人気だったが、ホンダは新たなチャレンジとして、スポーツモデル初の2ストエンジン搭載車を市場に投入。50ccスポーツの座は、やがて2ストのMBに受け継がれていく。


REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)

パワフルな7.0馬力の2ストロークエンジン搭載

Honda Collection Hall 収蔵車両走行ビデオ MB50(1979年) Hondaチャンネルより
アグレッシブなイメージのレッドカラー。

 4ストにこだわり続けたホンダだが、時代の流れにより2ストにシフトしていく……。その代表的なモデルがMB50。MB50はホンダ初となる2ストロークエンジンを搭載したスポーツモデル(※注1)。4ストロークエンジン搭載の「CB50」とともに、ホンダの2大50ccスポーツモデルとしてリリースされた。




 MB50が登場し、2台の50ccスポーツはしばらく共存していたが、CB50は1981年モデルをもって生産終了。50ccスポーツの座は、2ストのMBシリーズに受け継がれていった。




 前後18インチホイールを採用した125cc並のフルサイズボディ、パワフルな2ストエンジン、フレームと外装を同色とした斬新かつスポーティなフォルムにより、MB50は若者を中心に大ヒット。




 MB50がきっかけとなり、ライバル車となるスズキRG50E、カワサキAR50、ヤマハRZ50など、次々に最高出力7.2psのフルサイズ50ccモデルがラインナップ。2スト50ccスポーツモデルの競争が激化していった。




※注1:ホンダの初号機である2ストロークエンジンのカブF号は、正確には自転車用補助エンジンとして発売

MB50が登場した当時のカタログ。2ストのMB50(写真左)と4ストのCB50(写真右)は、どちらもホンダの50ccスポーツモデルとして位置づけられていた。

清楚なイメージのホワイトカラー。

CB50は前後17インチのスポークホイールだが、MB50は前後18インチのコムスターホイールを採用。

18インチの大径ホイールを採用し、125クラス並の大柄なボディに設計。

7.0馬力を発揮する空冷2スト50ccエンジン。

 新しい感覚の斬新なデザインが与えられたMB50は、ホンダ初の2サイクルスポーツモデル。軽快な操縦性や走行性を求め、燃焼室集中冷却シリンダーヘッド、吊鐘型の燃焼室など、新技術を採用した7馬力のハイパワーエンジンを搭載。エンジンのポイントは、




・1軸一次バランサー=1本のバランサー軸を採用。往復運動部の一次慣性力を釣り合わせる機構で、2サイクルエンジン特有の振動を減少




・燃焼室集中冷却シリンダーヘッドを採用。これは走行時の風を、より多く燃焼室周りに集中させた設計のシリンダーヘッド。エンジンが発生する熱を効果的に放散し、性能変化を減少させる




・吊鐘(つりがね)型の燃焼室を採用。一般的な半円球型に比べ、圧縮工程での混合気の攪拌(かくはん)効果が大きく、低速域から高速域に渡り、安定した燃焼とプラグのカーボン詰りを防ぐ




・分離給油方式を採用。アクセル開度と連動を計り、エンジン回転数に応じた理想的な量のオイルを供給




・CDI点火装置を採用。確実な点火と始動性の向上を実現し、整備性も良好

ホンダ CB50S。写真は1981年(昭和56年)発売の最終モデル。

●MB50


全長:1880mm/全高:980mm/全幅:655mm


重量:78kg


エンジン形式:空冷2サイクル単気筒49cc


ボア×ストローク:39mm×41.4mm


圧縮比:7.9


最大出力:7.0ps/9000rpm


最大トルク:0.56kgm/8000rpm


変速機:5速リターン


タイヤ:前2.50-18 後2.50-18


当時の価格:13万9000円




●CB50S(最終モデル) 


全長:1790mm/全高:975mm/全幅:685mm


重量:83kg


エンジン形式:空冷4サイクルOHC単気筒49cc


ボア×ストローク:42mm×35.6mm


圧縮比:9.5


最大出力:6.3ps/1万500rpm


最大トルク:0.43kgm/9500rpm


変速機:5速リターン


タイヤ:前2.50-17 後2.75-17


当時の価格:13万6000円




 前後17インチホイール採用のCB50に比べ、18インチのMB50の方がビッグサイズだが、重量は5kg軽量。これは部品点数が少ない2ストロークエンジンの影響が大きいと考えられる。




 MB50のボア×ストロークは、ホンダ50ccの2スト最終モデルとなる「NSR50」まで引き継がれた、ロングストローク型の39mm×41.4mm 。CB50は、4ストスポーツならではのショートストローク型(42mm×35.6mm)としている。




 最大出力はMB50が9000回転で7.0馬力。最大トルクもMB50が上回っている。一般的に2ストロークエンジンの長所は、




・4ストよりも部品点数が少なく、構造もシンプル


・4ストよりもコンパクトで軽量


・4ストよりもパワーを出しやすい


・4ストよりも低コスト




 逆に短所は、




・4ストよりも燃費が悪い


・4ストよりも有害ガスを排出しやすい




 環境を重視し、2000年頃を境にバイクは2ストから4ストに転換・移行。しかしMB50が登場した1980年代初頭は、ハイパワー志向が激化し始めた頃。4ストにこだわり続けたホンダが、MB50発売をきっかけに2ストへと転換・移行していったのは、現在よりも遥かに排ガス規制が緩く、短所よりも長所が大きい2ストエンジンを欲した時代の流れ=ユーザーが2ストを要望した、ごく自然な結果だったともいえる。

前後ホイールは大径の18インチ。プレス鋼板とリム部で構成された、3ポイント式の軽量なコムスター型を採用している。

 軽量化と高剛性を狙い、X型に構成されたシンプルで個性的な車体デザインを可能とした「X型バックボーンフレーム」を採用。シート下まで続く燃料タンクや、電装系などを重心近くに配置するなど、独特のレイアウトが特徴。シティユースからロングランまで幅広く楽しめる1台に仕上がっている。また、




・重量物集中設計(いわゆるマスの集中化)を採用。エンジン、燃料タンク、電装品などの重量物を重心位置付近に配置し、軽快な操縦性を実現。電装品は燃料タンク前方に配置して整備性を向上




・制動性能の向上を狙い、フロントには油圧式ディスクブレーキを採用




・T型クロームメッキリムに、3ポイント式の軽量でしなやかなコムスターホイールを装備




・トップブリッジとハンドルバーを一体とした、スポーティなセパレートハンドル風のトップブリッジ一体構造ハンドルを採用




 また、ウインカーランプやヘッドランプなどのスイッチをハンドル左側に集中し、操作性向上。スピードメーターとタコメーターは一体型とし、見やすい中央部に配置。ビキニカウル、サイドボックス、リヤキャリアがオプション設定された。

写真はシックなブラックカラー。

スポーティなMB50に比べ、MB5は実用性を重視。

 1980年(昭和55年)には、MB50をベースにセミアップハンドルを装備した「MB5」が登場。MB5は市街地や長距離走行にも楽なライディングポジションが得られ、余裕ある走行が楽しめるのがポイント。便利な小物入れも新設された。

MB50をベースに、排気量を78ccに拡大。ボア×ストロークは45.0mm×49.5mm(50は39.0×41.4)に設定。

Wシートとタンデムステップを装着し、タンデム走行にも対応。

写真は落ち着いた雰囲気のブルーカラー。

 1980年(昭和55年)には、78ccの9.5馬力エンジンを搭載したMB-8(MB5に-はないが、MB-8には-あり)登場。ボア×ストロークは45.0mm×49.5mm(50は39.0×41.4)に拡大。Wシート&タンデムステップを装着し、2人乗りにも対応している。当時の価格は15万2000円。

型式名:ホンダAC01


全長 (m):1.880


全幅 (m):0.655


全高 (m):0.980


軸距 (m):1.215


車両重量 (Kg):整備:87,乾燥:78


最小回転半径 (m):1.8


燃料タンク容量 (L):9.0


燃料消費率 (km/L) (30km/h定地走行テスト値):65


登坂能力 (tamθ):0.36


エンジン形式:空冷2サイクル単気筒


弁機構:リード弁式、ピストン弁式併用


総排気量 (cm3):49


内径×行程 (mm):39.0×41.4


圧縮比:7.9


最高出力 (PS/rpm):7.0/9,000


最大トルク (Kg-m/rpm):0.56/8,000


始動方式:プライマリーキック式


点火装置:CDI


潤滑方式:分離潤滑式


潤滑油容量 (L):2.1


一次減速比:4.117


変速比:


 1速 3.083


 2速 1.882


 3速 1.400


 4速 1.130


 5速 0.960


最終減速比:3.307


フレーム形式:バックボーン式


懸架方式 (前):テレスコピック式


懸架方式 (後):スイングアーム式


キャスター (度):25°00′


トレール (mm):70


タイヤサイズ:


 (前)2.50-18-4PR


 (後)2.50-18-4PR


ブレーキ形式:


 (前) 油圧式ディスク


 (後) 機械式リーディングトレーリング


当時の発売価格:13万6000円
型式名:HC01


全長 (m):1.880


全幅 (m):0.655


全高 (m):0.980


軸距 (m):1.220


車両重量 (Kg):整備:91,乾燥:82


燃料タンク容量 (L):9.0


燃料消費率 (km/L) (30km/h定地走行テスト値):60


エンジン形式:空冷2サイクル単気筒


総排気量 (cm3):78


内径×行程 (mm):45.0×49.5


最高出力 (PS/rpm):9.5/8,000


最大トルク (Kg-m/rpm):0.89/7,500


タイヤサイズ:


 (前)2.50-18-4PR


 (後)2.50-18-6PR


ブレーキ形式:


 (前) 油圧式ディスク


 (後) 機械式リーディングトレーリング


当時の発売価格:15万2000円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 空冷、2スト、7馬力。|ホンダの2ストスポーツ初号機「MB50」を振り返る