しかし実際に見ていると、それはまったく気にならない。というのは、フロントノーズはかなり低く、先端は膝の高さ程度。その下にグリルがあるので立った目線では、グリルの存在はほとんど意識されないことになる。
ようやく会えたZを目の前にして、最初に思ったのは「低い!」ということだ。前述のように膝の高さにあるノーズ先端。その先端につく新しいNISSANエンブレムは、クローム仕立て。ここには残念ながら、ちょっと失望。クルマとしてのバランスは絶妙だが、新しさはない。
あの新ロゴが掲げられたときの高揚感、エンブレムをどういう造形でトライしてくれるのか? といった気持ちにはまだ答えてもらえなかった(本音を言えば、エッジの鋭い型押しでの表現くらいのことを希望していたいだが、それは叶わなかった…)。
また、冒頭のグリルについても単に四角というのではなく、Zは基本的に直線などをはじめとしたシンブルなラインで構成されている。グリルの左右ラインはボンネットのオープニングラインにつながるものとなっているなど、きっちりとしたラインのなかで成り立っている。これは初代から持ち合わせたグラフィックであり、また単に情感だけに走らない、冷静でジオメトリックな構成要素として、極めて重要な側面でもあるようだ。
フロントからゆっくりとサイドに回ると、徐々に見えてくるのがフェンダーを分断して斜めに下がっていく折り目。これはボディサイドのキャラクターラインになっていく。フェンダー上部からのラインの発祥は目立たないのではあるが、あまりに大胆な考え方だ。サイドビューだけで見れば、リヤに下がっていく典型的な初代Zらしい、さらに言えばスポーツカーらしい合理的なプロポーションに貢献するラインだ。プロポーションの狙いを整理する上で素晴らしいラインだが、その先端がフロントフェンダーに上がってくるとは、大胆すぎる。
普通は全体を意識して、キャラクターラインの全体を下げてフロントのホイールアーチに刺さって消えていくとか、角度を水平に近く変えてせめてヘッドライト上端を狙う、などフェンダーのなめらかな面には干渉させないのが一般的だ。
しかし、それをやらなかったのはすごい。このラインは消えながらも先端のNISSANのエンブレムに向かっていく、というストーリーのようだが。
普通は全体を意識して、キャラクターラインの全体を下げてフロントのホイールアーチに刺さって消えていくとか、角度を水平に近く変えてせめてヘッドライト上端を狙う、などフェンダーのなめらかな面には干渉させないのが一般的だ。
しかし、それをやらなかったのはすごい。このラインは消えながらも先端のNISSANのエンブレムに向かっていく、というストーリーのようだが。
そして、日本刀を意識したという、ウインドウラインに走らせたクロームシルバーのアクセント。アリアにも用いられているもので、ルーフをブラック化するには良いラインとなる上に、ブラックアウト化によって全高をさらに低く見せることができるようだ。
リヤに回ってわかるのが、ブラックアウトがマットではなく艶のあるブラックである理由だ。それはスモークガラスと一体化させる意図もあるように感じられる。さらに、ウインドウ上端に走らせたクロームラインが、アリア同様にキャビンエリアをその前後長で定義していることもわかる。サイドウインドウと併せたブラック化で、キャビン部分をキャノピー状に表現しているのが共通項だ。
この手法によって、ウインドウの形状に左右されずにキャビン部分を表現できる。それによってボディ造形との分離を自在に行なうことができるようだ。
新型Zの場合、リヤゲートのウインドウは歴代Zのなかでは比較的短めの上下長となるが、その違和感を払拭する効果もあるようだ。もしブラックアウトのルーフ&リヤゲートがボディ同色であったら、狙った造形とはちょっと異なる印象を与えるかもしれない。現状ではコンビの仕様のみだが、もし同色バージョンがあるのならば、ぜひそのバランスを見てみたい。
リヤウインドウ下からテールエンドまでの面の流れは、ブラックアウトされなければ相当に叙情的でロマンチックな面を見せているはず、と勝手に思い込んでいるので……。
そして最後にお伝えしたいのが、リヤコンビランプの形状だ。これもZにとっては象徴的。リヤエリアを独立したパネル化として、そこにランプ類を配列するというZスタイル。歴代Zでは、左右に回り込ませない流儀が続いたが、4代目のZ32あたりで少しずつ回り込むようになり、それ以後は左右が別れることになった。
明らかにZ32を意識したデザインだが、どれだけ左右に回り込ませるかは非常に苦労しただろう。大きく回り込ませると、もはやZには見えなくなってしまうはず。初代や2代目の叙情的なフェンダーラインを活かすには、できるだけフェンダーサイドには干渉したくないところだと思う。
他方で、できるだけ下げたリヤ部分を、よりキュートに見せるのは小さなリヤコンビランプだ。その苦心が、細く長いリヤランプを生んだのだと思う。
新型フェアレディZは、最新のデザインを纏いながら、じっくり見れば作り手の熱量をすごく感じる形だ。そのなかには、軽量化やローコスト化からの提案も多く含まれたものではあるが、それは初代からして持った、同じ苦悩を生きてきている。だからこそ、北米では「ポルシェの半分の値段で、同等のパフォーマンス」と言わしめた。
社内的命題にきっちり答えながらも、骨格の魂を持ち続けて生まれるのが日本的デザインなのだと思う。そんな実感を、今もしっかりと受け止めさせてくれたのが、この新型Zだ。