REPORT●北秀昭(KITA Hideaki)
2020年9月10日に国内発売された新型モデル、カワサキNinja ZX-25R。昨今の250ccモデルは2気筒のツインパラレルが定番であり、4気筒クオーターはすでに過去のものとなっていたが、Ninja ZX-25Rは新設計の水冷4気筒250ccエンジンを搭載。「二―ゴー(250cc)市場に4気筒エンジンが復活したぞ!」と大きな話題を呼んでいる。
エンジンはもちろん、フレームや足周りも新設計。また、最新の電子制御システムや機構を導入するなど、「250ccでここまでやるかー!」と嬉しい悲鳴続出の、驚異的な超高性能スーパースポーツモデルに仕上げている。
2018年2月にフルモデルチェンジされたNinja400は、~400ccまで乗車可能な中免(普通自動二輪免許)ユーザーを中心に人気の高いスポーツモデル。
前モデルのフレームは、大柄なニンジャ650と共通だったが、現行モデルのフレーム・外装・足周りなどは、現行のNinja250と共通。車体はコンパクトとなり、クイックで扱いやすくなった。
前モデルのボディサイズは、全長2,110mm×全幅770mm×全高1,180mmのビッグサイズ。一方、現行モデルは全長1,990mm×全幅710mm×全高1,120mmまで縮小化。ホイールベースは1,410mmから1,370mmに短縮され、タイトなコーナーでも軽快な走りが可能となった。
また、重量も大幅に軽量化。Ninja 250が166kgなのに対し、Ninja 400はわずか1kg増の167kg。48馬力のパワフルなエンジンに加え、250ccクラス並みの軽量コンパクトな車体とエンジンが大きなポイントだ。
アシスト&スリッパークラッチ、LEDヘッドライトユニット、ギヤポジションインジケーターなど、現代のバイクに相応しい機能も標準装備済みだ。
■備考:400ccの「Ninja400」と、250ccの「Ninja250」の比較
【Ninja400】
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:398cc
内径x行程(ボア径×ストローク長):70.0mm×51.8mm
圧縮比:11.5:1
最高出力 35kW(48PS)/10,000rpm
最大トルク:38N・m(3.9kgf・m)/8,000rpm
【Ninja250】
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:248cc
内径x行程(ボア径×ストローク長):62.0mm×41.2mm
圧縮比:11.6:1
最高出力:27kW(37ps) /12,500rpmm
最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/10,000rpm
エンジンの仕様は、水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブと共通。どちらもエンジンの回転を上げてパワーを稼ぐ傾向の強い、ショートストローク型エンジン(ストローク長よりもボア径が大きい)。ショートストローク比(内径÷工程)は250が1.50、400が1.35で、400の方がショートストローク。
400ccー250cc=150ccという排気量の差はやはり大きく、スペック上のパワーやトルクは400が圧倒的。最高出力はライバル車の「ホンダ CBR400R」の46馬力を凌ぐ、48馬力を発揮する。
重量は250が166kg、400が167kgとわずか1kgの差。軽量コンパクトな車体に、パワフルなエンジンを搭載した400は、図太いトルクを活かした余裕の走りが楽しめる。一方、250は1万回転オーバーの領域まで難なく回る小気味良さを発揮。車検がなく、維持費が安く上がるのも250の大きな魅力だ。
フレーム、外装、足周りが基本的に共通となる250と400の外観は、まるで双子のように瓜二つ。もしも同色ならば、両車の区別は付きにくいはず。両車の外観の違いは、
・カラーリング
・右側にアップしたマフラーが、Ninja400の方が約65mm長い
・Ninja250のタイヤはダンロップ製アローマックスGT601(バイアス)
・Ninja400のタイヤはハイグリップなダンロップ製スポーツマックスGPR300(ラジアル)
・リヤタイヤはNinja 250の140/70-17に対し、Ninja 400は150/60R-17にワイド化
■Ninja ZX-25R
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:249cc
内径x行程(ボア径×ストローク長):50.0mm×31.8mm
圧縮比:11.5:1
最高出力:33kW(45ps)/15,500rpm
※ラムエア加圧時:34kW(46ps)/15,500rpm
最大トルク:21N・m(2.1kgf・m)/13,000rpm
■Ninja 400
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:398cc
内径x行程(ボア径×ストローク長):70.0mm×51.8mm
圧縮比:11.5:1
最高出力 35kW(48PS)/10,000rpm
最大トルク:38N・m(3.9kgf・m)/8,000rpm
どちらもレーシーなショートストローク型エンジン(ストローク長よりもボア径が大きい)を採用。ショートストローク比(内径÷工程)はNinja ZX-25Rが1.57、400が1.35でショートストローク比は高い。
250ccクラス最強であるNinja ZX-25Rの最高出力は、400ccクラス最強である48馬力のNinja 400に迫る45馬力(ラムエア加圧時は46馬力)を発揮。この時点でNinja ZX-25Rの凄さが窺い知れる。
Ninja ZX-25Rは超高性能な小排気量4気筒エンジンならではの、超高回転型仕様に味付け。1万5500回転でMAXパワーを出力し、レッドゾーンは1万7000~2万回転というレーシングマシン並みの驚異的な数値を示す。大袈裟ではなく、限りなくレーサーに近いテイストに仕上げられているわけだ(一般公道用のため、もちろんストリートで多用する低中回転域での扱いやすさも吟味されている)。
一方、Ninja 400は1万回転でMAXパワーを発揮し、レッドゾーンは1万2000~1万5000回転。Ninja ZX-25Rよりも、5500rpm低い回転数で48馬力を絞り出すのが特徴。別の言い方をすれば、余裕を持って走行できる万人向けの仕様に設計されている。
超高回転域でMAXパワーを発揮するNinja ZX-25Rは、Ninja 400よりも最大トルクの数値が大幅に低いのが特徴(この点は、小排気量4ストハイパワーモデルの特徴だといえる)。
一般的にこのタイプのバイクを速く走らせるためには、一定のパワーバンド(もっともパワーの出やすい回転数)をキープする必要があるため、適格・適切なミッション操作やスロットルワーク(つまりテクニックや経験)が要求される。具体的な事例として、登り坂が連続するタイトな峠道の走行を想像して欲しい。トルクの薄い(低い)超高回転型エンジンは、パワーバンドから外れる(回転数が下がる)と、たちまち失速。これを防ぐためには、パワーバンドのキープ=最適な(車種によっては神経質な)シフトチェンジが要求される。
その点、パワーがあってトルクも図太いNinja 400のようなタイプは、たとえラフなシフトチェンジで多少エンジン回転数が下がっても、ひとたびヒョイっとスロットルを開けてあげれば、持ち前の深いトルクでグングン登ってくれる。基本的に神経質なシフトチェンジは不要であり、のんびりと走行できるわけだ。
一方のNinja ZX-25Rは、低回転トルクが細くて扱いづらい……ということはなく、小排気量車ながらも扱いやすさを考えて調教されているので、思った以上に普通に街乗りも楽しめる。
超高回転型エンジンならではの上記の性質も意識したのか、Ninja ZX-25Rには、250ccクラス初となる「クイックシフター」を採用。これにより、クラッチ操作なしのシフトアップ&シフトダウンがOK。ライディングに不慣れなビギナーでも、スムーズな加速とクイックでイージーな減速ができ、超高回転エンジンの特性を楽しめるよう工夫されている。
諸元の数値で見た場合、Ninja ZX-25Rは高回転域まで気持ち良くエンジンを回して楽しむタイプ=限りなくレーサーに近い(繰り返すが、下記の試乗インプレでは低中回転域での乗りやすさも吟味されていることを体感済み)。
一方、余裕のパワー&トルクも図太いNinja 400は、高回転を多用するスポーツ走行にも使えるし、低中回転域メインの街乗りでも非常に扱いやすいオールラウンドなタイプ。Ninja ZX-25Rがヤンチャな体育会系の下級生ならば、Ninja 400は文武両道の、やや大人の雰囲気が漂う頼りになる上級生といったところかも。
■Ninja ZX-25R(SE KRT EDITION)
全長x全幅x全高:1,980mm×750mm×1,110mm
軸間距離:1,380mm
最低地上高:125mm
シート高:785mm
キャスター/トレール:24.2°/ 99mm
車両重量:184kg
最小回転半径:2.6m
燃料タンク容量:15L
■Ninja 400
全長x全幅x全高:1,990mm×710mm×1,120mm
軸間距離:1,370mm
最低地上高:140mm
シート高:785mm
キャスター/トレール:24.7°/ 92mm
車両重量:167kg
最小回転半径:2.5m
燃料タンク容量:14L
Ninja 400の外装、フレーム、足周りは、基本的にNinja 250と共通。Ninja 400もNinja ZX-25Rもコンパクトにまとまっており、車体は両車ともほぼ同格といえる。
フルカウルを装備した外観は、どちらもサーキットが良く似合うスポーティなもの。ハンドルとステップのレイアウトは写真で見る限り、Ninja ZX-25Rの方がやや前傾姿勢で戦闘的(ハンドルの位置が低い)。
前後ホイールはどちらも徹底的に肉抜きされた、軽快なイメージの5スポーク型17インチ(ただし前後ともリム幅は異なる。詳しくは下記参照)。軸間距離(ホイールベース)はロングスイングアームを装備したNinja ZX-25Rが10mm長く、全長はNinja ZX-25Rが10mm短いのが特徴。
キャスター/トレールの数値は、両車とも直進安定性と旋回性を吟味した、大型のNinjaシリーズを踏襲したスポーティな設計となっている。
2気筒エンジンを搭載したNinja 400の重量は、400ccながら、4気筒エンジン(エンジンの総面積やエンジンの総部品点数が多くなるため、総じて重量が重くなるのが特徴)を搭載したNinja ZX-25Rよりも、17kg軽量化した167kg。ライバルのホンダCBR400R(2気筒エンジン搭載)が194kg、弟分のNinja 250が166kgだから、いかにNinja 400のエンジンがシェイプアップされているのかが分かる。この軽さは、ストリートでの取り回しはもちろん、サーキットでも強みを発揮するはず。
Ninja 400は、2気筒250cc搭載車並の軽さに加え、軸間距離(ホイールベース)が10mm短く、最小回転半径も0.1m狭いので、Ninja ZX-25Rよりも街中での取り回しは上。また、Ninja 400の全幅は40mm狭く、ハンドル幅も狭いので、渋滞路の走りやすさも、Ninja 400に軍配が上がりそうだ。
■Ninja ZX-25R
フレーム形式:トレリス
フロントフォーク:倒立型 ※インナーチューブ径:37mm
スイングアーム:ホリゾンタルバックリンク
Fホイール:5スポーク 17M/C×MT3.50
Rホイール:5スポーク 17M/C×MT4.50
Fタイヤ:110/70R17M/C 54H(ダンロップ GPR300 / ラジアル)
Rタイヤ:150/60R17M/C 66H(ダンロップ GPR300 / ラジアル)
Fブレーキ:シングルディスク 310mm (外径) +ラジアルマウント式モノブロック型・異径(上側ø32mm / 下側ø30mm)対向4ピストンキャリパー
Rブレーキ:シングルディスク 220mm (外径) + 片押し1ピストンキャリパー
■Ninja 400
フレーム形式:トレリス
フロントフォーク:正立型 ※インナーチューブ径:41mm
スイングアーム:スタンダード
Fホイール:5スポーク 17M/C×MT3.00
Rホイール:5スポーク 17M/C×MT4.00
Fタイヤ:110/70-17M/C 54H(ダンロップ GPR300 / ラジアル)
Rタイヤ:150/60-17M/C 66H(ダンロップ GPR300 / ラジアル)
Fブレーキ:シングルディスク 310mm (外径) + サイドマウント式片押し2ピストンキャリパー
Rブレーキ:シングルディスク 220mm (外径) + 片押し2ピストンキャリパー
両者ともトリレスフレームや17インチホイールを採用。前後のディスクブレーキ径も同サイズだが、ハイパワーなNinja ZX-25Rは
・ショーワのSFF(セパレートファンクションフロントフォーク)とBPF(ビッグピストンフロントフォーク)のコンセプトを組み合わせた、250㏄クラス初採用の倒立型φ37㎜SFF-BP(セパレートファンクションフロントフォーク-ビッグピストン)フロントフォークを採用
・ショックユニットとリンケージをスイングアーム上方に配置し、マフラーに大容量チャンバーの搭載が可能となり、マスの集中化にも貢献する「ホリゾンタルバックリンクリヤサスペンション」を採用。こちらも250㏄クラス初採用
・過酷なブレーキング時にも安定した制動力を確保する、異径対向の4ピストンを備えたモノブロック型キャリパーを採用。また、取り付けはサイドマウント式ではなく、レーシングモデル定番のラジアルマウント式(進行方向にボルト固定したキャリパー)を導入
など、Ninja 400の遥か上を行く、Ninjaシリーズの大型スポーツモデルにも採用のゼイタクな装備を、惜しげもなく導入。前後ホイールは、Ninja 400よりもリム幅を1サイズアップしているが、タイヤは同サイズをチョイス(この点に大きな意味があるのかは不明)。両車ともハイグリップなラジアルタイヤ「ダンロップ GPR300」がチョイスされている。
Ninja ZX-25Rのハンドル位置は、見た目ほど低すぎず、ヒザの曲がりも緩めで見た目以上に楽なポジション。サーキット走行はもちろん、街乗りもOK。785mmのシート高と絞り込まれたスリムな形状により、足着き性も良好。
Ninja 400のシート高は、弟分のNinja250より10mm低い785mm。Ninja ZX-25Rと同じく、乗車部分となるシートやガソリンタンクが中央に向かって絞り込まれており、足着き性もGOOD。
両モデルとも、アナログ式タコメーターを中央に配置したレーシーなコックピット。液晶パネルにギヤポジションを表示、その右側に多機能ディスプレイを配置したレイアウトは、兄貴分のNinja ZX-6Rと共通。
■Ninja ZX-25R
燃料消費率(km/L)※1:
24.0km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時)※2
18.9㎞/L(WMTCモード値 クラス3-2、1名乗車時)※3
■Ninja 400
燃料消費率(km/L)※1:
32.0km/L(国土交通省届出値:60km/h・定地燃費値、2名乗車時)※2
24.8㎞/L(WMTCモード値 クラス3-2、1名乗車時)※3
※1:燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状況などの諸条件により異なります。
※2:定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
※3:WMTCモード値とは、発進・加速・停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。
諸元表を見る限り、Ninja ZX-25Rに比べてNinja 400の燃費は、400ccながらまずまず。2気筒の燃費の良さが如実に出ているのが特徴だ。実燃費でどのくらいの差が出来るかが気になるところ。
Ninja ZX-25RにはNinja 250にはない、最新の電子制御システムが盛り込まれている。
1:KTRC(カワサキトラクションコントロール)
250ccモデルとして初めてトラクションコントロールを搭載。このカワサキの先進システムは、3つのモードで幅広いライディング条件をカバーすることが可能。滑りやすい路面など、様々な状況において安定した車体の挙動維持をサポートするとともに、スポーツライディングでのパフォーマンスを強化してくれる。
2:パワーモード選択
フルパワーモードまたはローパワーモードの選択が可能で、ライダーの好みや条件に合わせた出力特性を設定することができる。
3:QS(カワサキクイックシフター) ※SEは標準装備 / スタンダードはオプション設定
250ccクラス初となるクイックシフターを装備することで、クラッチ操作なしのシフトアップとシフトダウンが可能。スムーズな加速とクイックでイージーな減速を実現し、爽快なエンジン特性をより楽しむことができる。
車検がなくて維持費も安い250cc。250ccよりも維持費はかかるけれど、余裕の走りが楽しめる400cc。
Ninja ZX-25Rは250ccながら、大型車に採用の電子制御システムがフル投入され、レーシングエンジンを彷彿させる45馬力の超高回転型&高出力エンジンを搭載。価格もNinja 400より10万円以上高く、SE/SE KRT EDITIONならば20万近くまで跳ね上がる。
Ninja ZX-25Rは、Ninja 400が甘んじて受け入れた妥協を省き、究極の市販スーパースポーツ250ccを目指して作られた稀有なモデル。スポーツ走行から街乗りまでオールラウンドにこなせ、燃費も良好なツアラー色も持たせたNinja 400とは、似ているようで実は違う。一言でいえば、両車はNinjaなんだけれど、「性格の違うもの」「別物」として位置づけられている。
大型のNinja群は、公道はもちろん、たとえクローズドされたサーキットでも、素人には全パワーを使い切って走るのは基本的に不可能。しかし250ccのNinja ZX-25Rは、4気筒エンジンが持つポテンシャルを、250ccという排気量がゆえ、フルに体感できる余地がある。ココが最大の魅力だろう。
筆者的には、大型車に採用の電子制御システムがフル投入され、レーシングエンジンを彷彿させる45馬力の超高回転型&高出力エンジンを搭載したNinja ZX-25Rを、82万5000円(SE/SE KRT EDITIONは91万3000円) というバーゲンプライスともいえる価格でリリースしたカワサキには、大きな拍手を贈りたい。
Ninja ZX-25Rの魅力は、ズバリ、感動的ともいえるレーシーな超高回転エンジンが体感できること。そして官能的な4気筒サウンドが味わえる。加えてそれらをフォローする強靭なフレーム、足周り、優れた電子制御システムが揃っている点。実用性、万能性、経済性よりも、何より走ることに感動を呼ぶモデル。ここがNinja 400との決定的な違いであり、Ninja ZX-25Rの“使命”でもあると感じる。