このような背景を踏まえ、NEDOは2019年1月にトヨタ自動車や本田技術研究所、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)らとともにFCV課題共有フォーラムを開催し、燃料電池に関する技術課題のうち協調領域の課題の抽出・共有を図ってきた。
この度、これら産業界の共通課題を解決し、2030年以降の飛躍的な普及拡大につなげるため、NEDOは燃料電池システムに関する大規模な研究開発事業を開始する。本事業では、燃料電池システム(水素貯蔵タンクなどを含む)の高効率、高耐久、低コストを実現するためのユーザーニーズに基づく協調領域の基盤技術を開発するとともに、従来以外の用途に燃料電池を展開するための技術や大量生産のための生産プロセス・検査技術の開発を支援する。このため本年2月から実施者を公募し、今般46件の研究開発テーマを採択した。
本事業の推進により、世界に先駆けて市場導入を開始した日本の燃料電池技術の競争力をさらに強化し、世界市場において確固たる地位を確立するとともに、水素社会の実現に貢献する。
事業名:燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業
実施期間:2020年度~2024年度(予定)
予算:52.5億円(2020年度)
研究開発項目〔1〕:共通課題解決型基盤技術開発
研究開発項目〔2〕:水素利用等高度化先端技術開発
研究開発項目〔3〕:燃料電池の多用途活用実現技術開発
● 固体高分子形燃料電池(PEFC)
FCVなどで使用されるPEFCのさらなる高性能化、高耐久化、低コスト化に向けた研究開発に取り組むとともに、FCVの市場投入により顕在化した基盤的な共通課題の解決を目指す。具体的には、2030年以降のFCVへの実装を目指し、水素・燃料電池技術戦略ロードマップ(2019年3月12日、水素・燃料電池戦略協議会策定)で掲げるFCVの航続距離800km以上、最大出力密度6kW/L以上、耐用年数15年以上、燃料電池システムコスト0.4万円/kW未満などの目標に貢献する技術を確立するため、高活性な低白金カソード触媒やラジカル低減機能をもつアノード触媒、高イオン伝導率の電解質膜などの開発に着手する。
また、燃料電池の材料サンプルを共通的な指標で構造評価し、その結果を研究者へフィードバックする「PEFC評価解析プラットフォーム」を構築し、研究開発の効率化・加速化を図るとともに、電気化学以外の分野を専門とする研究者の新規参入を促すことで新たな発想による技術革新を図る。
● 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
原理的に発電効率の高いSOFCにおいて、従来の電気と熱の両方を活用するコジェネレーション型ではなく、電力のみを利用するモノジェネレーション利用が期待されている。そこで本事業では、発電効率65%超(低位発熱量)、耐久時間13万時間以上に貢献する技術の確立を目指し、プロトン伝導型SOFCや燃料電池スタックの高度評価・解析技術の開発に着手する。
● 燃料電池(PEFC、SOFC)
2030年以降の社会実装を見据え、従来の延長線上ではない革新的ブレークスルーのアイデアを幅広く創出するため、研究開発項目〔1〕で開発する燃料電池の性能やコスト目標を上回る燃料電池の実現に向けた革新的な要素技術を開発する。具体的には、非白金触媒や高温運転に適合した電解質膜などの先端的な材料設計指針を検討する。
● 水素貯蔵技術
燃料電池の利活用には水素貯蔵システムが必要不可欠だが、依然として高コストだ。このため、水素貯蔵システムのさらなる低コスト化・強靭化に向けて、損傷蓄積・寿命評価シミュレーション技術の構築によるCFRP製水素タンクの効率的な設計手法や水素タンク用炭素繊維の低コスト化につながる技術を開発する。
船舶などの多様な用途で燃料電池を活用するため、燃料電池サプライヤーとユーザーの連携による実証事業を支援する。また、燃料電池システムのコスト低減を実現するために革新的な生産技術・検査技術開発を支援する。