「R32」のスカイラインといえば、やはりGT-Rの存在感が強いが、大音安弘さんがベスト国産車にセレクトしたのは、R32スカイラインでもGT-RではなくGTS-t タイプM。品のあるクーペボディが大のお気に入りだったという。
TEXT●大音安弘(OTO Yasuhiro)
ややマニアックとかもしれないが、3位は、初代アテンザスポーツだ。2000年頃の国産車は、強化された排ガス規制のため、国産のFRターボのスポーツカーがほぼ絶滅。エコカーやミニバンばかりがもてはやされる、クルマ好きにとっては、まさに暗黒時代だった。若き日の私でさえ、「もう国産車は、面白くなくなってしまうのか」と思っていたほど。そんなモヤモヤした気持ちを打ち砕いてくれたのが、新生マツダの星、アテンザだったのだ。
乗ったのは、眩しい「カナリーイエロー」の23S。欧州車風のスポーティなスタイリングには、黄や赤といったスポーツカー的な色が物凄く映えた。
23Sは、2.3Lの直列4気筒DOHCを搭載。最高出力178ps、最大トルク215Nmと特筆すべきスペックではなかったが、滑らかな回転フィールのエンジンとサイズを忘れさせる軽快な身のこなしを備えており、とにかく走りの気持ちよいクルマで、FR派の私に、FFでも面白いクルマは作れることを教えてくれた。
あの頃、感じた「日本車も、まだまだ面白くなる」と気持ちが、クルマの視点を変えてくれたとも思う。まさに思い出の一台だ。
今、失われつつある価値のひとつが高回転型NAエンジンの存在だ。90年代に一世を風靡したホンダのVTECエンジンは、世界に誇る名機といっても良い。冗談半分で、「ホンダはエンジンを買ったんだ!」と言ったもの。これは、ボディ剛性などの弱点があるものの、皆がホンダのエンジンに惚れ込んでいたことを象徴する懐かしのエピソードだ。
そんな私にも、中古のホンダ車を買うチャンスが訪れる。それが少しくたびれた丸目4灯のインテグラで、知人が所有するものだった。そのクルマには、スポーツマフラーが装着されていて、エンジンが高回転に突入すると、まるで脳みそがとろけそうな刺激的なサウンドを奏でた。どこかで聞いたことあるような...。そこで連想したのは、ホンダF1マシンである。同じスピリットが、このクーペにも流れていることを実感させてくれた。
残念ながら、このクルマは、決断前に不具合が見つかり、オーナーの勧めで購入を断念。しかし、暇はある学生時代、少し苦労してもVTECと付き合っておけばよかったと思う。油圧式だったVTECは、まさにホンダらしい、そして神った存在であった。
最も好きな国産車と聞かれたら、やはりスカイラインを挙げる。そのなかでもナンバー1といえばR32だ。
しかし、私が最も愛すべき一台は、GT-Rではなく、FRターボのGTS-tである。性能面では飛びぬけたRよりも、スタイリッシュで品のあるナローボディのクーペが好きだった。GT-R人気に押されて当時もR顔が流行ったが、個人的には、ナンセンス。シャープなノーマルマスクが最高だった。
私がハンドルを握れるようになった頃、スカイラインは、ラスト・スカGともいえるR34の時代。周りの友人には、R32ターボに乗る人が何人もいた。あの頃、若い走り屋には、価格もこなれたS13かR32が人気だったのだ。
そんな友人たちのR32に乗せてもらう機会も度々あった。もちろん、ボロいクルマもあったが、とにかく、どれに乗っても運転は楽しく、何よりも直列6気筒エンジンの回転フィールとサウンドが最高だった。
大好きな一台だけに、良い状態のR32を手にしたかったが、当時は、予算や縁もあり、2.0Lターボの180SXを最初の愛車に選んだ。この車も良かったが、正直に告白すれば、R32よりは劣る。ただあの頃の日産車は乗れるだけで幸せを感じられるモデルがたくさんあったことが、ただ懐かしい。今でも、R32ターボは、私にとって、特別な存在だ。
【近況報告】
在宅ワーク中心の生活の楽しみのひとつとして、始めたのが映画DVD収集。クルマに関する映画を中心にしていますが、もう数万円が飛びました(汗)。でも改めてみると、色々と半発見もあり、楽しい。いやぁ映画って、本当に良いですね(笑)。
【プロフィール】
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『モーターファン.jp』のほか、『ベストカーWEB』『webCG』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』『ゲーテWEB』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。