マツダ・ロードスターは、ソフトトップの「ロードスター」と電動リトラクタブルハードトップの「ロードスターRF」のふたつのモデルがある。RFの魅力は、トップを上げていれば、よく出来た2シータークーペ、下ろせばオープンエアを気軽に満喫できる二面性だ。この二面性、真夏の東京ではどうなるか? 1週間、通勤とドライブで試してみた。


TEXT &PHOTO◎鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi)

オープンカーのベストシーズンは冬である。では夏は?

試乗車はオプション込み428万5600円 Brembo製ブレーキ(対向4ピストンキャリパー レッド塗装)205/45R17 17×7JインチBBS社製鍛造アルミホイール 33万円 2トーンルーフ(ピアノブラック)5万5000円

オープンカーのベストシーズンは冬である。




と個人的に思っている。もちろん、春も秋もオープンエア・モータリングは爽快だ。それでもベストは真冬(東京の気候で)。マフラーを巻き、ヒーターを効かせ、場合によってはシートヒーターをかけてドライブするのは素晴らしい。頭寒足熱は頭が冴える。ピンと張り詰めた空気が心地いい。




オープンカーのワーストシーズンは真夏である。




と個人的に思っている。これ、もう、どうにもならない。とくに最近の猛暑日は。エアコンをどんなにフルでかけようと、体温より高くねっとりした空気が顔の周りにまとわりつく。エアコンの風を足下から出しても、頭熱足寒でどうも調子がよろしくない。




わかっていてマツダ・ロードスターを8月のお盆の時期にかり出したのは、「RF」なら真夏もアリなのではないか、と思ったからだ。

ボディカラーはポリメタルグレーメタリック

RFは、リトラクタブル・ファストバックの略で、電動のリトラクタブルハードトップを持つモデルだ。お借りしたのは、RSグレードだ。ハードトップを閉じていれば、コンパクトな2シータークーペとなるRFは、ソフトトップのロードスターよりも上級なスポーツカーという位置づけだ。エンジンもロードスターの1.5ℓ直4DOHC(SKYACTIV-G1.5 132ps/152Nm)ではなく2.0ℓ直4DOHC(SKYACTIV-G2.0 184ps/205Nm)を搭載する。電動ハードトップを積む分、車重も80kgほど重い(ロードスターRSが1020kgなのに対してRF RSは1100kg)。ちょっと大人のロードスターなのだ。

形式:直列4気筒DOHC 型式:PE-VPR[RS](SKYACTIV-G2.0) 排気量:1997cc ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm 圧縮比:13.0 最高出力:184ps(135kW)/7000pm 最大トルク:205Nm/4500rpm 燃料供給:DI 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:45ℓ

RFが搭載するSKYACTIV-G2.0は、2018年夏の改良で燃焼から吸排気まで手が加えられ、最高回転数のリミットが700rpm引き上げられた。自然吸気の高回転型のエンジンは、もはや絶滅危惧種。RFのエンジンは回して楽しい性格の持ち主だ。

筆者はかつてNAロードスターを所有していたこともある、オープン好きだ。実際、雨の日以外は夏も冬もほとんどオープンにしてドライブしていた(90年代前半の東京の夏はいまほど酷い暑さではなかったような気がする)。


RFは、「基本はクローズド、ここぞという時にオープン」というクルマだと思っている。今回のテーマは、「真夏に”ここぞ”というタイミングがあるか?」である。




お盆休み前にマツダのR&Dセンター横浜でクルマを預かり、比較的空いた首都高速で新宿の編集部まで走る。気温は30度をゆうに超えている。から、クローズドでマニュアル・トランスミッションの感触を確かめながら流す。54kmほど走って燃費計は15.6km/ℓと表示していた。


お盆期間中の空いている都内をロードスターRFで気持ちよくドライブする……つもりだったのだが、今年の夏はいつもの夏とは違っていた。存外に道が混んでいた。6速が直結(1.000)となるMTの操作は、道が混んでいてもまったく苦痛ではない。都内でも6速まで普通に使えて走れる。けれど、まぁ楽しくはない。なにせ、ほとんどストップ&(ちょっと)ゴーなのだから。

全長×全幅×全高:3915mm×1735mm×1245mm ホイールベース:2310mm

トレッド:F1495mm/R1505mm 最低地上高:145mm 最小回転半径:4.7m
車重:1100kg 前軸軸重560kg 後軸軸重540kg

エアコンを内気循環にして24度に設定。外気温計が42℃を示していると、アイドルストップもほぼしなくなる。こんな具合で通勤を含めて230kmほど混んだ市街地を走った燃費は9.8km/ℓだった。燃費的に最悪の条件下の数値だから、これがロードスターRF(6MT)の燃費の下限だと思う。

クローズドだとこう。

トップを格納すると、こうして青空が見える。ソフトトップのロードスターほどの開放感がないが、これでも充分に気持ちいい。

2トーンルーフ(ピアノブラック)5万5000円
トップを格納するとこうなる。
電動リトラクタブルハードトップの開閉はこのスイッチひとつ。
ルーフの状態はメーター内のディスプレイい表示される。

試乗車は、ピアノブラック塗装の2トーンルーフ(5万5000円のオプション)装着車だった。炎天下のドライブでも室内で天井を触ると熱くない。音もそうだがRFは断熱もばっちりだ。エアコンもよく効く。




前述のとおり、RFはトップを閉じていれば、美しいシルエットをもつクーペそのものだ。”ここぞ”というときは、信号待ちの短い時間(約13秒)でもスイッチひとつでオープンに変身できるのが、RFの魅力。そしてオープン/クローズドでスタイルが変わらないのもいい。

編集部の地下駐車場でトップを下ろしてみた。

とはいえ、東京の8月は、なかなか”ここぞ”というタイミングがない。22時くらいに編集部を出たときが、その時だと思って、地下駐車でトップを下ろしてみた。地上に出る。22時を過ぎても外気温計は33℃を示しており、期待していた爽快感は残念ながら味わえなかった。と思ったら次の信号待ちですぐにクローズドにできるのがうれしい。

NAロードスター時代は、左右のリトラクタブルヘッドライトがボディ前端の目安となっていたが、ND型ではフェンダーアーチの盛り上がりがその役目を担う。

灼熱の都内を這い回って燃費9.8km/ℓ、暑くてトップも下ろせないままRFを返却するわけにはいかない、と思って。お盆休み中の水曜日の午後に、新宿から三浦半島の先端、城ヶ島にでかけることにした。




首都高〜横浜横須賀道路で南へ。さすがに空いている。ロードスターRFは、100km巡航で6速2400rpmほど。6速トランスミッションのギヤ比はファイナルも含めて1.5ℓエンジンのロードスターと同じである。ボーズサウンドシステム+9スピーカーの音もクローズドなら楽しめる。

RSのシートはアルカンターラ/ナッパレザー。素晴らしい出来だ。

室内長×幅×高:940mm×1425mm×1040mm。オーディオはボーズサウンドシステム+9スピーカーを装備する。

シートも素晴らしい。アルカンターラ/ナッパレザーのシートは形状も座り心地も満点。アンチ本革シート派(車両価格800万円以下の場合)を標榜する筆者にとって、アルカンターラ/ナッパレザーのコンビは最強だ。




高速道路を流している時の燃費は17km/ℓ+α。ほぼWLTC高速道路モード(18.3km/ℓ)で走ってくれる。エアコンがフル稼働する酷暑でなければモード燃費以上も可能だろう。




横横道路を降りたところで、満を持してトップを下ろす(格納すると言った方がいいか)。コロナ禍で海の家もない三浦海岸沿いを軽く流す。気温も都内よりは3℃くらい低いし、青くきらめく海が左手に見えるだけで、気分はだいぶ違う。……とはいえ、やっぱり暑い!

6MTのシフトフィールは良好。渋滞でもシフト操作がいやになることはなかった。

海岸線からキャベツ畑の間を縫うように走る気持ちの良い道を、6MTを操りながらドライブするのは、本当に素敵な時間だ。暑いけれど、空の青と海の色、畑の緑に囲まれると、頭上が抜けているのはやっぱり気持ちが晴れる。いいなぁ、ロードスター。


ビルシュタイン製ダンパーを装着するスポーツグレードのRSだが、乗り心地はしなやかだ。

1.5ℓロードスターRSが1020kgだから2.0ℓRFの車重1100kgは80kg重いことになる。

個人的な話で恐縮だが、NAロードスターを手放してからほぼ四半世紀。「いつかは再びロードスターを」とずっと思っている。現行NDロードスターは、乗るたびにその想いを強くさせてくれる。NDの登場は2015年春だから、丸5年が経過しているが、そのデザインはいささかも魅力を失っていない。ナビがどうの、コネクティビティがどうの、ACCがどうの、というのがクルマの魅力の本質じゃないことを再確認させてくれるのがロードスターだ。

フロントサスペンションはダブルウィッシュボーン式。ステアリングは、いわゆる「前引き」である。

リヤサスペンションはマルチリンク式。RSはビルシュタイン製ダンパーを使う。

タイヤは205/45R17のブリヂストン製ポテンザS001を装着。17×7JインチBBS社製鍛造アルミホイールとブレンボ製対向4ピストンキャリパーレッド塗装は33万円のオプション。タイヤの指定空気圧は前後とも200kPa

なんて思いながら、試乗車のスペックシートを見ると「車両価格390万600円、試乗車はオプション込みで428万5600円」と書いてある。なかなかのお値段だ。その価値は充分あるとは思うが、400万円は400万円だ。オプションのブレンボ製フロント4ピストン対向ブレーキ+17インチBBS鍛造ホイールは魅力的(かっこいいし)だが、つけなくても、筆者の場合不都合はなさそうだ。それでも390万円か。




城ヶ島から新宿へ戻るのは、今度はせっかくだからトップを開けたままにしてみた。ロードスターのいいところは、速度が高くなくても楽しいし、速さを体感できることだ。100km/h出せば、もう充分”速い”。城ヶ島往復205km走った燃費は、16.1km/ℓだった。これが実力通りというところだろう。

トランクは思ったより深くて容量もある。

夏の三浦の海をフロントガラス越しに見る。

都内に戻り、トップを上げて考えた。やっぱりロードスター、いいな、と。手に入れるなら、どのグレードにするか。何色にするか。そもそもロードスターにするか、RFを選ぶか?


想像するのは、楽しい。


個人的な話(この記事は「個人的な話」ばかりですいません)で恐縮だが、このテーマは、いつも妄想し、いつも同じ結論に至る。




買うなら、RFじゃなくてロードスター、トランスミッションは6MT、グレードはベーシックな「S」(あるいは、RS)だ。




リトラクタブルハードトップを選ぶか、ソフトトップを選ぶかは、好みにとライフスタイル(のようなもの)による。RFは完璧だ。完璧なクーペにもオープンにもなる。まったく文句はない。手動のソフトトップを選ぶのは、純粋に「好きだから」である。


ボディカラーだけは、魅力的な新色が登場しているので、今日のところは、今回の試乗車の「ポリメタルグレーメタリック」を選ぶ。




酷暑のなかでのマツダ・ロードスターRFのドライブは、オープンエア・モータリングの真髄からはほど遠かったけれど、ロードスターが依然として魅力的なスポーツカーであることを再確認できた。




いいなぁ、ロードスター。

マツダ・ロードスターRF RS(6MT)


全長×全幅×全高:3915mm×1735mm×1245mm


ホイールベース:2310mm


車重:1100kg


サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式


駆動方式:FR


エンジン


形式:直列4気筒DOHC


型式:PE-VPR[RS](SKYACTIV-G2.0)


排気量:1997cc


ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm


圧縮比:13.0


最高出力:184ps(135kW)/7000pm


最大トルク:205Nm/4500rpm


燃料供給:DI


燃料:無鉛プレミアム


燃料タンク:45ℓ


燃費:WLTCモード 15.8km/ℓ


 市街地モード11.8km/ℓ


 郊外モード:16.0km/ℓ


 高速道路:18.3km/ℓ


トランスミッション:6速MT


車両本体価格:390万600円


試乗車はオプション込み428万5600円

情報提供元: MotorFan
記事名:「 マツダ・ロードスターRF 外気温42℃。酷暑のオープンエア・モータリングは爽快か? ロードスターの魅力を再確認する