REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro)
PHOTO●星野耕作(HOSHINO Kousaku)
ZX-25Rのメディア向け試乗会は九州のサーキット、オートポリスで開催された。カワサキの開発者の話では「2気筒勢を突き放す圧倒的な走り」を狙ったマシンとのこと。つまり、クラス最強はもちろん、目指している次元が違うということだ。ワンメイクレース開催もアナウンスされるなど、その意気込みが伝わってくる。
25Rのパフォーマンスを裏付ける理由は次の3点だ。
一つ目はエンジン。完全新設計の水冷直4エンジンは軽量アルミ鍛造ピストンによる高回転化や挟角大径バルブ化による燃焼効率アップなどにより、クラス最強の45ps(ラムエア過給時46ps)と17,000rpm以上の高回転を実現。電子制御スロットルバルブやスリッパ―クラッチを採用するなど、ZX-10Rのテクノロジーが還元された最先端のユニットである。
二つ目がシャーシ。メインフレームには高張力鋼トレリスフレームを採用しているが、これは簡単に言うと鉄パイプを格子状に組んだもの。ただ、ひと口にトレリスといってもH2のようにヤグラ型もあれば、ニンジャ250のようにブリッジタイプもある。そして、25Rはというと、異なる径と厚みのパイプとモナカ状のスイングアームピボット部を組み合わせた複雑な作りだが、よく見るとZX-10Rのツインスパーフレームとよく似た構造になっていることが分かる。スチールとアルミの違いはあるが、ステムからピボットまで一直線に伸びたビームでエンジンを挟み込むレイアウトなどはそっくりだ。事実、重心やピボット位置、キャスター角などのディメンションは10Rを参考にしているという。前後サスもSFF-BP倒立フォークやホリゾンタルバックリンク式リヤシッョクを採用、フロントブレーキもラジアルモノブロックを奢るなど足まわりも10R譲りだ。
そして、三つ目が電子制御。クラス初となる3段階のトラクションコントロール(KTRC)や2段階のパワーモード、アップ&ダウン対応のクイックシフター(KQS)などを装備。ABSもニッシン製の高精度な最新タイプが採用されている。なお、電子制御のアルゴリズムについても10Rから多くをフィードバックしているという。つまり、ZX-25Rはその名の通り、ニーゴー版の10Rなのだ。
まずはストリートで試乗。阿蘇山周辺の雄大なワインディングは25Rにとっても絶好のテストコースだ。走りはじめは一瞬トルクに線の細さを感じたが、よく考えるとニーゴーなのだ。普段から大排気量マシンに乗り慣れている人はそう思うかも。これは良い悪いではなく、排気量と直4エンジンの特性がそういうこと。
なにしろレッドゾーンは17,000rpm以上だ。その半分ぐらいからが本当に楽しいところではあるが、ひとつ美味しいゾーンを見つけた。25Rには実は2つの顔があって、6000rpm~8000rpm辺りの中速トルクを使って流すのも平和で気持ちいい。トルクフルで扱いやすい低中速は開発者がこだわった部分という。ヒューンという吸気音と直4ならではのクリアな高周波サウンドが織りなす管楽器のような響きは聞いているだけで心躍る。
ハンドリングは完全にスポーツ志向で、やや回転数を上げて直4エンジンのクランクの慣性力をうまく引き出してやるほどに操っている実感が強くなる。たとえばコーナーではステップを踏み込みつつ、上体をイン側に入れて体重移動するなど、積極的にマシンに働きかけるほどよく曲がってくれるし、実際に楽しい。もちろん、なんとなくも乗れるが、もっとイージーに乗りたいのであれば、ニンジャ250のほうが向いているかもしれない。その意味では玄人好みと言っていい。
ライポジは思ったほど前傾はきつくなく、シートも低くスリムで足着きも良いなど見た目に反してフレンドリー。特にシートのクオリティは特筆すべきで、薄いのにホールド感があってしかも快適。峠道を中心に100km以上走ったが、尻が痛くなることはなかった。また、倒立フォーク+セパハンなのにハンドル切れ角が大きく、安定した極低速トルクのおかげでUターンも楽にこなせるのが好印象だった。
25Rが本領を発揮するのはサーキットだ。エンジンは回すほどにパワーが盛り上がってくる典型的な高回転高出力型。アクセルを開けていくと、低中速域はちょっと待つ感じだが、1万rpmを過ぎた辺りからタコメーターの針が跳ね上がる。この感じはかつての4ストレプリカ、ZXR250に通じるものがある。思わず「これだよな、コレ!」と、懐かしくも新鮮な感じだ。
さらに本当に美味しいのは1万2000rpm以上で、そこからレッドゾーンまでの1万7000rpmまでがパワーバンド。その回転域をいかにキープできるかが、サーキットで25Rを楽しむポイントだ。ラム圧とともに高鳴る吸気音と金切り声のように絶叫するエキゾーストノートの織りなすハーモニーに包まれながら、高速コーナーを全開で駆け抜ける快感は4気筒ならではだ。シングルにもツインにも良さはあるが、サーキットに一番似合うのはやはりコレ。直4サウンドには本当に惚れ惚れしてしまう。
高速サーキットのオートポリスではヘアピン以外はほとんどアクセル全開。そんな走りができるのも最新のシャーシ性能のおかげだ。前述したようにメインフレームはスチール製だが、構造は10Rのアルミツインスパーフレームを模した形状で、重心位置や車体各部のディメンションなども10Rを参考にしているそうだ。前後サスペンションも減衰力が効いたサーキット向きのセットで、モノブロック&大径シングルディスクは180km/hオーバーからのフルブレーキングでも十分な制動力を発揮。しかもABSも握り込んだ奥の奥で効くレースタイプに近い設定で、サーキットでも申し分のない性能を発揮してくれた。
そして、昔のマシンと最も違うのは電子制御があること。クイックシフターは加速ではアクセル全開のまま左足だけでシフトアップできて、コーナー手前ではブレーキをかけながら何も考えずに同じくシフトダウンもできる優れモノ。操作も極めてスムーズだ。サーキットでは実際にタイムを縮めるのに有効だし、コーナリング中にギヤチェンジしてもトラクションが途切れることがないので安心だ。さらにKTRCのおかげで、フルバンクでアクセル全開にできる。ちなみ3段階の真ん中のに「モード2」に入れてみたが、ヘアピン立ち上がりなどで車体が寝ているうちにアクセルを開けていくと、たしかにインジケーターが点滅してトラコンの介入を教えてくれる。そのときも、従来のトラコンのように失速している感じてはなく極めて自然なフィーリング。そして、何といっても安心感が違う。特にグリップ感が分かりづらいハーフウェット路面などは威力絶大だ。慣れてくると、トラコンに任せてアクセル全開、という走り方もできてしまう。その意味でも新しい次元のマシンなのだ。