STORY:國政久郎(KUNIMASA Hisao) TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)
RX-8のサスペンションは、完全な新規設計となった。一見、FD3S型RX-7と同じように見えるフロントも、アクスル位置をオフセットしてトレッド変化を最適化するなど、細部に渡って作り直している。リヤが新規であることは一目瞭然だが、やはり「大原則」は受け継いでいるようだ。
「大原則」とは、まず「運動性能」の高さを測る基準として、ヨー慣性モーメントの低減に重きを置いていること。次に、フロントのロールセンターとリヤのロールセンターを結んだロール軸が前下がりの設定になっていること。最後に、リヤのトー/キャンバーを積極的に変化させ、制御することで、運動性と安定性の高い次元での両立を目指していることだ。RX-8においても、そのことは、新車発表時のプレス向け資料中にも「コンプライアンストー/キャンバーコントロール」として示されている。
コンパクトなロータリーエンジンの特徴を活かし、エンジンが車室側に大きくめり込むパッケージによって生じるスペースを活用して、フロントサスペンションはダブルウィッシュボーンの理想的な配置を実現している。アーム長を可能な限り長く取り、アライメント変化を抑制。ハブ側ピボットは若干前方にオフセットして入力によるトレッド変化を抑え、タイロッドはロワーアームと平行に配置してバンプステアを排除。またFD3Sの弱点だったサブフレームならびにマウント類の剛性も改善し、ステアリングラックケースの結合剛性を高めるなど、基本に忠実に、ていねいに磨き上げられている印象だ。
ダンパーはガス封入式モノチューブタイプ。ピストン径は45mm、ロッド径は12.5mmもしくは14mm。アッパーアームはダブルウィッシュボーンのお手本のようなきれいなA字型を描く。アーム長は215mmというロングスパンを確保している。ロワーアームもきれいなΓ字型を描く。アーム長は339.3mm。ダンパーピボットのすぐ隣に見える凸部分は、アンチロールバーリンクのピボットになっている。
ステアリングラックケースのサブフレームへの締結ポイントは上下4点で、ほぼ左右対称位置。締結部のブッシュも最低限のものに留めて剛性に配慮している。タイロッドは前方から見て、ロワーアームとほぼ平行の位置にある。これも、まさにお手本のようなレイアウト。
フロントサブフレームは、スチールのプレス成形品を溶接で組み立てて構成。設計と製法しだいで、コストを抑えつつ、重量や局部剛性確保などの面でメリットを見出せる、マツダの得意分野である。このクルマの場合も、アッパーアームマウント部分などに意欲的な試みが見て取れる。マウント箇所は8点。タイプRSや記念限定車などには、メンバー内部に硬質発泡ウレタンを充填し、ねじり剛性を向上させるチューニングを施している。
複雑なリンク構成で、イラストを一見しただけでは、いったい何がどうなっているのか理解に苦しむかもしれない。基本的には、アッパー側もロワー側も2本のリンクで構成するダブルウィッシュボーン+トーコントロールリンク。AUDIの「トラベゾイダル」と同様の構成と考えてもいいだろう。リンク長確保の努力も見て取れる。フロント同様、サブフレームの剛性確保に最大限配慮されている点にも注目したい。国産車でここまで手をかけている例は希有で、開発陣の真摯な姿勢が伝わってくる部分である。
ダンパーはガス封入式モノチューブタイプ。ロワー側ピボットは、ナックルの凸部に直留めし、レバー比を1:1としている。コイルスプリングは床下配置とし、ダンパーロッドに対する横力を低減させ、フリクションを低減させている。ラテラルリンクのアッパーのリンク長は289.6mm、ロワーは529mmを確保している。
フロントと同様、スチールのプレス成形品を溶接で組み立てて構成。マウント箇所は6点となっている。おそらくは後席用スペースを確保する目的から、サスペンション全体の高さを抑えることを念頭に置き、その上で多くのリンク類をマウントするため、少々複雑な形状となっている。たとえばサイド側のメンバーはブーメラン形状としている。また、前側クロスメンバーが、左右端に向かって大きく落とし込む形状となっているのも、後席乗員のレッグスペース確保が目的だろう。