TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
「エンジンの排出ガスのエネルギーを利用してコンプレッサー(圧縮機)を作動させ、より多くの空気をシリンダー内に取り入れる」のがターボチャージャーである。通常は捨てている排気を利用するのだから効率の良い過給機と言える。
しかし、逆に排気を利用する遠心式圧縮機ゆえの欠点がある。コンプレッサーのインペラー(羽根)外周の速度によって吸入気の吐出量が決まるため、コンプレッサーが一定の回転に達しないと過給効果が得られないという点が最大の欠点である。定常運転される定置エンジンでは問題ないが、発進/加速/定常走行/減速/また加速......と、運転状態がめまぐるしく変化する公道走行中の自動車では、排気エネルギーが一定にならない。しかし、タービンの形状は固定されているから、過給が行なわれる領域がかぎられてしまう。とくに、大きなトルクを必要とする加速時には、インペラーが過給に必要な回転に達するまでに時間がかかり、その間は過給効果が得られない。これがターボラグである。
そこで、過給の立ち上がりを早くするため、タービン容量を小さめに設定し、なるべく短時間で過給効果を得られるようにする設計が一般的なターボチャージャーでは行なわれている。一定の過給圧を得るために必要な排気だけをタービンに当て、それ以上の余剰分はウェイストゲートから捨てるという方法である。ターボラグを小さくするというメリットは生むが、排気エネルギーをとことん利用することにはならない。
小さなタービンなら回転を上げやすい。軽自動車用ターボチャージャーの34mm径タービンは25~30万rpmにも達する。しかし、エンジン回転数が上昇してからもタービンをまわして過給を続けると、吸気温度が上昇してノッキングが起きやすくなる。ノッキングが発生する前にターボチャージャーを休ませなければならない。過給圧の上限を決め、その値を超えないようウェイストゲートを開いて排気を逃がすのが一般的だ。ウェイストゲートは開閉弁であり、通常は排気をタービンブレードに向かわせる通路の壁面にある。開けば排気の一部がタービンに当たらず排気管へと向かい、過給圧はそれ以上上がらなくなるという仕組みである。