エンジンが軽負荷の状態なら、バルブが大げさに開くといろいろと不都合がある。ならば少しだけ開くように機械を工夫したい。そのための方策がVariable Valve Lift:可変リフト機構である。

 エンジンはクルマの動力源としてオールラウンダーではない。低速から高速、軽負荷から高負荷までエンジンはつねに変動を繰り返し、さらに運転者の技量にも大きく左右される。そのような状況にあっても確実に仕事をこなす必要がある。エンジンが筒内でどのように混合気を燃やすかを定めているのが、カムシャフトのプロファイルである。運転状況によってカムのプロファイルを変えられれば理想だが、そうはいかないのでバルブ開閉の方法に工夫を凝らしたのがVVLおよびVVTだ。前者はバルブ開閉のストローク量を、後者はバルブ開閉の期間を可変させる仕組みである。

VVLを用いることで実現するカム開閉タイミング/リフトの制御の例

 VVLを用いてバルブ開閉のリフト量を変化させるのは、おもに軽負荷運転時だ。カムプロファイルは高負荷全開で高出力を得るための設定になっているが、クルマのエンジンの大半は軽負荷運転。持てる実力をフルに発揮できるシーンにはほとんど恵まれないが、いざというときにはちゃんと仕事をしなければならない。だからVVLによって低リフト状態を創出し、エンジンに二面性を持たせるのである。

クルマの走行シーンの大半は部分負荷状態である。少しでも無駄を省きたい昨今では、シリンダー休止(気筒休止)を行なうユニットが増えてきた。4気筒の場合なら2/3番、V型なら片バンク休止といったケースが多い。

吸排気バルブをそれぞれ2本備えるエンジンの場合、どちらか片方のリフトを抑える(もしくは止める)。これにより、ポンピングロスを抑えるとともに、筒内に流動(スワール)を起こし、良質な燃焼の助けとすることができる。

カムロブからの入力を一部制限することで、プロファイルの一部だけをバルブステムに伝える。ホースの先をつぶすことで水流を高めるように、低リフト状態で混合気の急激な流入を起こすことができ、筒内燃焼が良好となる。

排気バルブを排気行程中に早閉じしてしまい、完全に排ガスを筒内から追い出さない方策。熱いガスをあえて筒内に残すことで吸入する混合気の温度を高め、着火性を高めることができる。始動直後などに活用される手段である。

吸気バルブが開いている最中に排気バルブを再度開き、排気ポート中の排ガスを筒内に吸わせる。温度の高いガスを導入することで筒内温度を高めることがおもな目的。冷間時の早期触媒活性化のためなどに用いられる方策だ。

 具体的には、軽負荷運転時における適正な開閉時期(低リフト=開閉時間の短縮)によってポンピングロスを低減できる、筒内の負圧が高まってから開閉させることで混合気の流入速度を高められる、リフトさせないことで該当気筒を休止させられる、高度な複数回開閉によってポンピングロス低減や内部EGRを導入するなどの効果が得られる。ただし、VVTの高度機能化を受けて、コストに対するメリットが薄れてきてしまっているのも実情だ。

VVLを実現するデバイスの例

スイッチャブルピボット。上記プロファイル①②を実現。ロッカーアーム式での可変リフト方策。バルブそれぞれに備わるラッシュアジャスターと代替し、油圧によってユニット長を変化させることでロッカーアームの支点を動かし、力点/作用点の移動量を変化させる方式。

スイッチャブルローラーリフター。①②を実現。カムロブとロッカーアームのローラー間に、もうひとつのローラーを置き、その位置を出したり引っ込めたりすることでカムロブ入力をローラーロッカーのトラベルを変化させる方式。回転部を伴うのでロスが少ない。

スイッチャブルタペット。①②③④を実現。直打式のソリューション。タペット部に油圧式のリフト機構を設け、カムロブからの入力を制限することで低リフト状態を生み出す製品。直打式ポルシェのバリオカム・プラスはこのユニットを用いるシステム。

スイッチャブルローラーフィンガーフォロワー。上記プロファイルすべてを実現。ローラーロッカーの中にリフト機構を備え、ローラーの位置を動かす方式。マツダのスカイアクティブDは本方式を採用し、カムロブにふたつの山を設けることで二度開けの動作を生み出している。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 内燃機関超基礎講座 | 可変バルブリフト機構:VVLとは何をしている装置なのか