ワールドカーたるカローラは、1997年にフォルクスワーゲン・ゴルフを抜いて累計販売台数世界一となるなど、当初はより多くのユーザーに向けた「大衆車」としての地位を築いていた。しかし、それは自動車が存分に普及した欧米での話でもあった。
カローラは初代が1966年に登場したが、同年にオーストラリア、翌年に北米への輸出が開始された。併せて、マレーシアとオーストラリアでの生産を開始するなど、発売と同時に輸出展開も積極的に行なわれたモデルだ。そのなかで欧米であれば「エントリーカー」としてスタートし現在コンパクトカーとなっているものが、アジア地域においては、「中心的存在の高級車」という位置となっているように見える。
クルマのデザインは、当然ながら捉えられ方によってスタンスも変わってくる。日本のカローラが日本での使用形態に配慮した全幅の狭いナローボディであるのに対して、タイのカローラはアルティスと呼ばれ、中国で発表されたワイドなボディを持つ。実はこのワイドボディがカローラのワールドスタンダード。
ボディサイズは地域性もあり大小だけでクラスが異なるわけではないが、日本に専用とも言えるナローボディが導入されたのは、日本的特殊な事情とも言われる。しかし、タイという比較的近隣の地域でありながらも、サイズが異なるのはそのニーズの違いにも関係している。
そして、今回派生モデルとして登場したのがカローラクロスだ。そこには、新しいアジア地域としてのニーズを踏まえたデザインを纏っている。
まず目につく特徴が伸びやかなプロポーションだ。アジア地域では、かつては「小さく、背が高く、ホイールベースが短い」という専用モデルが長く存在していた。
これは安価な設定とするべく、既存の小さなプラットフォームをベースに大きな容量を得るための設計でもあるが、もはやまったくその兆候が見られなくなってきている。
例えばカローラクロスでは、上から見たリヤまわりのウインドウの面構成は、滑らかに後方に狭められる。リヤフェンダーはその下に豊かに広がり、タイヤを覆う以外の機能を見ることはできない。そしてリヤゲートは、後方にツンと張り出す。
空力性能にも配慮したこの造形を見たときに、「うお!」っと声をあげてしまったほど。もちろんタイだけでなく、これから多くの地域に進出するワールドモデルではあるとは思うが、これほどまで豊かな形を求める土壌が東南アジア地域にしっかりと固まっていることは、感動的ですらある。
しかしそれは室内容量を犠牲にしたのではなく、充分な容量を確保した上でその外側にスタイリッシュなボディを作り上げた形だ。何しろ、写真の通り大小4つのスーツケースを乗せて、まだちょっと余裕がありそうなほどの広さも持っているのだから…。
それでいて、同じプラットフォームを用いやや小さなC-HRよりも、わずかに安価な設定という点も魅力的。
攻めたデザインで世界を注目させたC-HRは、コンパクトSUVのスペシャルティとしての地位を確保したともいえる。その上で、C-HRに不足しているものをすべて揃えながら、しかもかっこいいという “いいとこ取り” を実現してしまったのもカローラクロスの魅力だ。
造形的にいえば、大きく張り出した前後フェンダーが特徴。ボディに接する面に大きくえぐるような造形を付与することによって、フェンダーの大胆さを持ちながらも、短かく抑揚を収めることができている。よって、シンプルなドアパネル面を長く確保することができるため、基本のスレンダーで切れ長なサイドビューをも印象づけられているようだ。
なかなか興味深く魅力的なカローラクロスだが、では何がカローラらしさなのだろうか? 冒頭でカローラはその価値が地域によって異なると記したが、一つ変わらないことがある。それは、不滅のセンター・ポジションということだ。
どの地域であれ、カローラがトヨタのイメージを代表することは変わらないように思う。その点では、カローラ・アルティスとともに、タイでのトヨタスタンダードのレベルを飛躍的に高める存在となった、と言ってしまっても間違いはないだろう。それだけ、マーケットが成熟してきたということでもあるだろう。