TEXT:山崎友貴(YAMASAKI Tomotaka)
2010年も折り返しに入ったが、相変わらずジムニーの納車待ち期間は長いようだ。都内にあるスズキ自販東京によれば、ジムニーで1年から1年半、ジムニーシエラは11カ月から1年待ちの状態になっているという。
とくに、4月と5月はコロナ禍の影響で生産スケジュールに遅れが出たとかで、おおよそ1年待ちという状況はなかなか解消に至っていない。自分自身もそうだが、自分の周りにもジムニーの購入を考えている人が何人かいる。だが納車スケジュールが明確でないことから、現在所有しているクルマの売買スケジュールが立てられず、結局諦めてしまう人も少なくない。
ただ、新車のJB64/74型を購入するのはベストだとは思うが、もうひとつの選択肢として、先代のJB23/43型の中古車を購入するのも手ではないだろうか。
先代ジムニーは1998年に誕生し、2018年までの20年間、ほぼ同じデザインで販売されていたモデルだ。形こそ20年間大きく変わらなかったが、もちろん仕様変更はされている。JB23型ジムニーは1型から10型、ジムニーシエラはJB33型のジムニーワイドを1型として数えると、次のJB43型で8型まで変更が繰り返された。
一般的にはJB23型は1型から4型が前期、5型から8型が中期、9型と10型が後期モデルとされている。一方、ジムニーシエラは前述の通り、2型からいきなり型式が変更された。前後期という判断が難しいのだが、6型の途中からフレームの形状が変更されて、さらに8型ではJB23型同様に歩行者保護性能の向上を目的に、ボンネットの形状が変更されている。
現行型と並べて眺めると、JB23/43型がデザイン的には普遍的な魅力を持っていることに気づかされる。話は先々代に遡るが、2代目ジムニーは時流の狭間で苦戦を強いられていた。90年代中期といえば、ブームが本格オフロード4WDからライトクロカンへと移り始めた時代。スクエアで無骨なジムニーは、ラウンドフォルムで洗練されたパジェロミニやその兄弟にシェアを奪われ始めていたのである。そのため、モデル末期のJA12/22/JB32型では顔をライバルに似せた「ネコ眼」にしたり、インパネを乗用車ライクな意匠にするなど、最終型で大いに迷走したのである。
そんな背景もあって、3代目(先代)ジムニーのデザインの完成度は非常に高い。残念ながら時代はさらにライトクロカンからSUVに移り、オフロード4WDのニーズが激減してしまったが、軽自動車サイズでどこかSUVっぽさもあり、オフロードも本格的に走れる先代ジムニーは、パジェロミニファミリーなき後も孤高の存在としてユーザーに根強く支持され続けてきた。
さらに20年というモデルサイクルの長さが、ユーザーにとって様々なメリットを生んだのも間違いない。例えばJB23型の9型や10型を購入すれば、完全熟成されたジムニーが手に入る。現行型ジムニーはそれに輪をかけた改良がされているとは言え、まだ1型。熟成度という点だけで考えれば、JB23型に及ぶものではない。
仮に性能面で劣っていたとしても、旧型ジムニーには1型から10型のすべてに適合する、アフターパーツが市場に出回っている。20年間という長きに渡って、ユーザーやメーカーが徹底検証した弱点を補うあらゆるパーツが、アフターマーケットには揃っているのである。
では、ノーマルの性能について考えてみよう。まずパワーユニットだが、660ccのK6A型はクルマをドライブするのが好きな人、特にオートバイを運転したことがある人にとっては面白いエンジンだ。現行型のR06A型に比べて最大トルク7Nm高い。圧縮比は0.7低く、過給も中回転あたりからいきなり始まるドッカンターボだ。
しかし、現行型がアクセルを全開にするとECUの制御が入ってトルクが落ち込んでしまうのに対して、先代はアクセルに正直に反応し、しかもピーキーでオートバイのような楽しさを持っている。ちなみに9型、10型は中回転あたりのトルク特性も変えられており、ラーボラグが嫌という人にも運転しやすい。もしECUデータの書き換えをする気があるのであれば、それによってさらに気持ちのいいエンジンにすることができる。
ボディ剛性やアライメント変化などの点では現行型が十二分に改善しているため、やはりドライブフィールは新しいクルマの方がいい。ただ、日常的に乗っている中で旧型が気になるシーンがあるとすれば、高速でのレーンチェンジくらいだろうか。グラッときて収束が遅い感じは、最初はやはり怖い。昨今は軽自動車のドライブフィールが驚くほどしっかりとしているため、やはり20年前の設計で3リンク式コイルリジッドサスペンションとなると、慣れないうちは戸惑う部分もあると思う。だが、少し走らせていれば「意外と普通のクルマだな」と思うはずである。
一方、JB43型ジムニーシエラだが、これはあまりオススメできない。とにかく、1.3ℓM13A型エンジンが非力で、かつノーマルのファイナルギアが低すぎる。平坦な市街地を乗っている分には問題ないが、上り勾配の高速道路を走ろうものなら、途端にパワーのなさを実感する。JB23型と一緒に走ると、軽の方が先に行ってしまうのだから泣けてくる。特にタイヤをインチアップした場合は、AT車は80km/h以下になることがしばしばだ。
JB23に比べてワイドトレッドなのでスラロームなどは安定しているが、ばね下重量が重く、ダートなどではどうしても脚の動きの悪さを感じてしまう(そもそもの車重の重さもあるが)。チューニングすればいいクルマに仕上がるのだが、JB23型と同じくらいの効果を望む場合、相当高額になってしまうことが多い。
税金などのランニングコストもあるので、ここは素直に660ccを選んだ方がいいのではないだろうか。ちなみに中古車市場を覗いてみると、8〜10型(2010〜2018年)だと40万円から200万円と価格帯が広い。10型の最終だと低走行距離の車両も多いので、どうしても高くなる傾向にある。そもそもジムニーの中古車はあまり値落ちしないことで有名だ。
10年くらい前の8型を安く購入し、メインテナンスして乗るというのも楽しみ方のひとつだと思う。ただし年式の古い車両は、ブッシュやステアリングギアボックスの劣化によるジャダーの発生や、それによって起こるナックルからのグリース漏れなどといった、ジムニーならではのトラブルもある。ジムニー専門店なら的確に問題点を見つけて直すことができるが、メーカー系ディーラーだと大抵はアッセンブリーごと交換してしまうことが少なくないので覚えておいて欲しい。
現行型の中古車を買うというチョイスもあるが、プレミアムの付いた価格で無理をして入手するよりも、先代の中古に乗りながらノンビリと現行型の納車を待つというのも一興だと思う。いずれにせよ、先代ジムニーはまだまだ現代の価値感から外れていない。20年間売られ続け、そして同じ年月だけ熟成させただけあって、名車の誉れ高いクルマなのだ。