搭載されるエンジンは1.2ℓのガソリンエンジンを発電用として搭載するe-POWERのみという意欲的モデル。
全長が4.2mということで、サイズでいうならばトヨタC-HRよりやや短く、ダイハツ・ロッキーよりやや長いというところ。さまざまなサイズが乱立するSUV市場だが、そのなかでもエントリークラスに近い位置にありながら、ちょっとリッチなサイズといったところだ。
さてそんな製品にあって、日産はどんなデザインを与えたのだろうか。
最初に気がつくのは、日産のアイコンとなっているフロントのVモーショングリルだ。Vモーショングリルとは、ラジエーターグリルにローマ字のVをモチーフとした形状で、元来、SUVで採用されていたものが、多くのモデルに採用されることになった。
当初はその力強く、やや荒々しさを感じるテーマでもあったことから、本当にすべての車に採用できるのか? と思ってしまうものだった。しかしここにきて、かなり咀嚼(そしゃく)されたものとなってきている。特に海外仕様として登場している2代目ジュークの造形は、小さくなったLEDヘッドライトの採用とともに弾けつつも洗練されたアイデアによって表現されている。
また、セレナでは細いメッキのV字モチーフに沿って、ブラックのライナーを合わせるなど、意表をつく展開も試みられた。
そしてキックスでは、これがちょっと特別。セレナのようにブラックのライナーを添えながら、さらにその外側をメッキのラインで支えるもので、ダブルVモーショングリルとも呼ばれるようだ。
このVモーショングリルの面白いところは、レクサスのスピンドルグリルと違って、解釈の幅が広いところだ。車格やボディスタイルによって、さまざまなアイデアが活かされている点だでもあり、またこれから先はより立体的になってくるのでは? との期待も高まる。
キックスのグリルの艶ありブラックのライナーはあまりに唐突なようにも思われるところ。しかし、意外にもすんなりとバランスしていると感じられるはず。
グリルやフロントとセンターのピラーやフェンダーライナーやサイドシル部分のブラックアウトがつや消しであることからも、本来ならば違和感があるはず。ところが、バンパー左右のインテーク部分やサイドミラー、そしてリヤピラー中央のガーニッシュ、さらにいえば後席以降のウインドウに与えられたブラックが艶を持っていることから、トータルバランスが取られているようだ。
さらにグリルを左右のバンパーが、深く絞りながらグリルを支える形になることから、突出したグリルを印象付けることによって途中でバンパーが消えてしまうような違和感がない。
ところで気になるのは、キックスの全体のフォルムだ。
サイドから見てわかることは、FFフォルムによってキャビン(室内)が本当は長く、室内重視のパッケージを持っているにもかかわらず、伸びやかでパワー感あるフォルムを作り出していることだ。
ボンネットの小さいレイアウトながら、フロントとセンターのピラーのブラックアウトによってそれを感じさせないのは定番的手法。加えてフロントノーズをやや高めてボンネットの存在感を強調。前後のドアハンドルを通るキャラクターラインとボディ下部のサイドシルの前傾したブラックアウトのガーニッシュによって、クラウチングスタイルを表現している。
また、ルーフの後傾化、リヤピラーの部分的なブラックアウトによって、リヤ周りに力が集中したような力感を表現。カラーリングの絶妙さが、フォルムの狙いをより明確化した。
余談となるが、キックスにはルーフもブラックアウトした、ツートーンも選択可能だが、キックスのデザインのメッセージはどちらかというとノーマルカラーの方が伝えていると思う。
また造形上で特徴的なのは、前後フェンダーの造形の違いだ。
フロントが極めてシャープなエッジを持ったフェンダーラインを持つのに対して、リヤは緩やかに膨らむブリスタータイプとしている。
印象としては、シャープなフロント周りに感じられるのは、メカニカルな緻密さで、同様にシャープなヘッドライトとVモーショングリルから始まる先進の造形を受ける形になっている。ヘッドライト上からボンネットサイドに流れるラインも、フェンダーからフロントドアでは深く削り込んだような強いエッジを持つなど同様のテイストとなっている。
よく見てみると、シャープな部分はグリルからフロントフェンダーを抜け、リヤピラー付け根から上の部分に共通の印象があることがわかる。そしてリヤフェンダーの柔らかな面構成は、ボディの下部分を覆う形だ。
このふたつのテイストの融合が、繊細な最新の技術と野生の融合を感じさせると思うのだが、どうだろうか。
加えて面白いのが、リヤフェンダーの面を後部でキュッと引き締めることで、コンパクトでつんと持ち上がったテールエンドを演出している。またリヤゲートのオープニングラインも興味深いもので、ヘッドライトのところで一度絞られるが下部でまた広げている。ハード面の制約を避けながらできるだけ広い開口部を求めた結果で、開発者の誠意を感じる部分でもある。
このシャープな直線的造形と勇気的な造形という真逆の形が、不自然さなく融合できているのは、そのなかでの絶妙な緩急をつけたつなげ方にあるのかもしれない。これはまさに、デザイナーとともに実際にリアルな世界に形を生み出す ”モデラー” の功績でもあるのではないだろうか。