TEXT●塚田勝弘(TSUKADA Katsuhiro)
自動車メディアに携わるようになって一番びっくりしたのは、フェラーリでもポルシェでもなく、レンジローバーだった。巨体なのに驚くほど扱いやすく、アクセルを踏み込めば即座に反応するレスポンス、地上から隔絶されたかのような静謐な車内。ドライバーに全能感をもたらす最高のクルマだと思う。上質な乗り心地なのにコーナーでは思いのほか踏ん張ってくれる。
目隠しして車内に乗り込んだら音・振ではおそらく気がつかないほど静かなディーゼルエンジンもいいけれど、どうせ乗るなら565ps/700Nmを解き放つ5.0L V8スーパーチャージャーの「SVオートバイオグラフィー ダイナミック」で、ロンドンの最高級ホテル「サヴォイ・ホテル」に乗り付けたい(通訳付で)。
先日、久しぶりに2日ほど乗る機会があった。走り出した途端、「ステイホーム」で鈍っていた身体には、重めのクラッチや車外の振動やノイズがそのままダイレクトに伝わってくる感覚は、「キツイなぁ」と思わせた。不思議なもので、1時間も走っていると、クルマそのものが自分の手足の延長線上にあるような感覚を味わえる。オーダーメイドのシャツを着ているような感覚。
3台を選ぶのならオープンカーは外せない選択肢で、718ボクスターにも惹かれるけれど、もう少しトルクやパワーが欲しいかな、と思わせるくらいのロードスターのさじ加減がちょうどいいのかも。街中の交差点1つ曲がるだけで楽しいのは、初代から受け継がれた美点で、日本人なら一度は乗りたい。
日本車の判断基準からすると、インパネの操作性やポケッテリア、ナビの操作性などツッコミどころもあるけれど、走りに不安感を抱かせない。足がよく動き、コーナーではボディの傾きも大きくなるけれど、粘っこいから安心できる。人生最後に、ゆったり走るのに向いているキャラ。
イザという時は、高速道路でそこそこの速度で巡航できるし、アダプティブクルーズコントロール、レーンキープだって付いている。一見、普通に見えるシートも1日で300km走破してもまったく疲れを誘わない。商用車なのでシトロエンに求めたくなる、とろけるような乗り心地ではないけれど、意外に快適で静か。今秋にもカタログモデルが導入されるから、積む物、乗せる者が多い今欲しいくらい。
■塚田勝弘(つかだ・かつひろ)
中古車の広告代理店に数か月勤務した後、自動車雑誌2誌の編集者、モノ系雑誌の編集者を経て、新車やカー用品などのフリーライターになって約17年が経過。現在の愛車は、デミオの最終型(1.5LガソリンMT)で、新車1年で3500kmしか乗っていない。
選んだのはあとどれだけクルマに乗れるだろうか。一度きりの人生ならば、好きなクルマのアクセルを全開にしてから死にたいもの。ということで、『乗らずに後悔したくない! 人生最後に乗るならこの3台』と題して、現行モデルのなかから3台を、これから毎日、自動車評論家・業界関係者の方々に選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)