現行インプレッサは、デビュー時に試乗・取材をさせていただいている。そのときに、内装の質感がグンと良くなったのと、SGPの素性の良さに感心した覚えがある。
とはいえ、それから3年半、インプレッサが戦うCセグハッチバック市場には、トヨタ・カローラスポーツ、マツダMAZDA3など手強いライバルが登場してきた。今回は、スバル・インプレッサの現時点での競争力を測ってみたい。
インプレッサは、19年10月(発売は11月)に大幅な商品改良を受けている。最大のトピックはアイサイト・ツーリングアシストを全車に標準装備したことだ。
アイサイトについては、上の記事に詳しい。
久しぶりにインプレッサと対面すると、シンプルでクリーンな造形に好感が持てた。個人的には、次期レヴォーグなどのデザイン(ちょっと強そうでゴチャゴチャした感じ。あくまでも個人的な感想です)よりも、このインプレッサのさりげないデザインが好きだ。水平対向エンジンをフロントに搭載することでフロントオーバーハングがどうしても長くなってしまう、ちょっと変わったプロポーションも嫌いじゃない。
ボディサイズ全長×全幅×全高:4475mm×1775mm×1480mm ホイールベース:2550mm。全長はMAZDA3と同じ。ホイールベースは55mm短く全幅も20mm狭い、「ちょっと細長い」プロポーションである。
乗り込んで見てまず感じたのは、インテリアの質感だ。これは最新のMAZDA3がカテゴリー平均を大きく上げてしまったので、登場年次が古いインプレッサはちょっと不利。登場時に「スバルもここまで質感が上げてきてアベレージを超えたな」と思ったが、今見るともうひと息、上質であってほしいと思った。
とはいえ、インプレッサの主要マーケットはアメリカだ(インプレッサに限らずすべてのスバル車にとってアメリカが最大のマーケット)。
ちょっと販売台数を調べてみた。
北米スバル
2017年:8万6043台
2018年:7万6400台
2019年:6万6415台
日本
2016年:4万2423台
2017年:7万3171台
2018年:5万4194台
2019年:4万3780台
さて、そのメインマーケットであるアメリカで、インプレッサがどんなクルマかといえば、手頃なサイズと価格で、それ以上の走行性能とデザインを持った「ブレッドアンドバターカー」と捉えられている。ブレッドアンドバターカーとは、いい意味で「普通」ということだろう。ここでは水平対向エンジンだのシンメトリカルAWDだのという技術の話ではなく、ちゃんと走る丈夫な相棒的な意味合いのほうが強い。
ちなみに、北米ではインプレッサよりクロストレック(XV)の方がずっと売れている。
クロストレック(XV)
2017年:11万138台
2018年:14万4384台
2019年:13万1152台
こう考えると、スバルにとっての重要度はXV>インプレッサということなる。余談だが、現行のXVはインプレッサベースのクロスオーバーだが、次期インプレッサはXVベースのハッチバックになるということだろう。
そういう目で見れば、現行インプレッサの内装も悪くない。175cm(標準体型)のドライバーがポジションをとり、そのまま後席に座ると膝元にはこぶし2個分の余裕がある。充分広い。スポーツバック的な出自もあるからラゲッジルームも広い。今回の試乗では味わえなかったが、AWDの安心感もある。価格も最上級グレードで270万6000円だ。コストパフォーマンスは高いのだ(だからアメリカでも売れている)。
さて、2.0ℓ水平対向4気筒直噴エンジン(FB20型)はどうか? 154ps/196Nmは、ごく平均的なスペック。ハイブリッドでもターボでもない「素のままのボクサー」だ。かつての不等長の排気管が奏でる独特のボクサーサウンドもいまはしないから、普通に乗っていると、とくに水平対向らしさは感じない。組み合わせるトランスミッションは、ご存じリニアトロニックCVT。チェーン式CVTだ。リニアトロニックも熟成が進み「CVTだからなぁ」的なネガは払拭されている。今回の試乗車は、走行距離2500kmほどの新車状態だったからか、ごく低速域でややギクシャクするように感じた。不満はないが最近のトルコンATの進化を思うと、もう少しダイレクト感やタイト感があってほしいと感じた。
これも新車だから、なのかもしれないが、轍や大きな継ぎ目を通過したときに、ボディの上下動が一発で収まらずに何度かバウンドするようなシーンがあった。
インプレッサは、信頼できる相棒、雨でも雪でもどこへでもいつでも走っていける安心感。それでいて手頃な価格、(好き好きはあるかと思いますが)スッキリしたデザインが魅力だ。SGPも登場から4年経って、SGP2ともいえるような進化をしている。まもなく登場する新型レヴォーグは、おそらくボディ剛性も上がり、もっと走りの質も上げてくるだろう。
とはいえ、インプレッサが物足りないか、といえばそんなことはない。ブレッドアンドバターカー、いや日本だから美味しい「ご飯とお味噌汁」的なクルマとしての魅力は健在だ。
最後に、「それを言っちゃおしまいよ的」「それは言わない約束じゃあないか」的な話を付け加えると……。
フロントに積むのが水平対向エンジンでなく普通の直4エンジンだったらどうなるか? そしたらスバルを選ぶ意味はなくなるか? と言えば(あくまでもスバリストではない筆者にとってはだが)、そんなことはまったくない。「スバル的なクルマ作り」に水平対向エンジンが不可欠でないとなったら、インプレッサのプロポーションも変わる。独自の水平対向エンジンを使うがゆえに、他のメーカーが安価に調達できる部品がすべて「スバル専用」となって高コストになるというジレンマからも解放される。電動化ももっと効率的にスピーディに対応できるようになる。そもそもエンジンを搭載しないEVになったら「水平対向エンジンのスバル」ではなくなる。
北米のユーザーは水平対向だからスバルを選んでいるわけではないだろう。スバル的なクルマ作りに対する信頼とコストパフォーマンスの高さでスバルブランドが認められているのだ。
などというとスバル・ファンから叱責を受けそうだが……筆者がインプレッサを選ぶとしたら、それは水平対向エンジンだから、ではなく「スバル的なクルマ作り」でできあがったクルマだからだ。
とりあえず、次期(いつ登場するかはわからないが、2022年頃か)インプレッサ/XVは1.5ℓと1.8ℓ水平対向4気筒直噴ターボを搭載することになるだろう。その先は? インプレッサに乗って、2020年代後半のスバルの姿を夢想した。世界中のCセグカーに直4と直3しかなくなるのも味気ない。やっぱり水平対向エンジンは生き残ってほしい……。うーん、さて、どうだろう。
スバル・インプレッサ2.0i-S EyeSight
全長×全幅×全高:4475mm×1775mm×1480mm
ホイールベース:2550mm
車重:1400kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式
駆動方式:AWD
エンジン形式:水平対向4気筒DOHC
エンジン型式:FB20
排気量:1995cc
ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm
圧縮比:12.5
最高出力:154ps(113kW)/6000rpm
最大トルク:196Nm/4000rpm
過給機:×
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:50ℓ
JC08モード燃費:15.8km/ℓ
車両価格○270万6000円