「ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負」と題したこの企画、最後の3本目は軽オープンカーの2台。ダイハツ・コペンにトヨタガズーレーシングがそのノウハウを注ぎ込んだ「コペンGRスポーツ」と、ホンダS660をホンダアクセスが度重なる実走テストを経て仕上げた「S600モデューロX」のいずれもCVT車に、千葉県内のワインディングを中心として関東圏内の一般道や高速道路などでも試乗した。
なお、両車ともMT車が設定されているものの、コペンGRスポーツに5速MT車の取材車両がなく、できる限り公平に評価するためCVT車で揃えたことを、ここに注記したい。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●平野陽(HIRANO Akio)、ダイハツ工業、トヨタ自動車、本田技研工業、ホンダアクセス
私事ながら筆者は、免許取り立てで1989年式のユーノス・ロードスターを中古で購入し、その後ホンダS2000を2台10年超にわたり所有しているオープンカー乗りである。
そんな筆者の目には、1990年代のABCトリオ(オートザムAZ-1、ホンダ・ビート、スズキ・カプチーノ)はもちろん現代の軽オープンカー、2014年6月に発売された二代目ダイハツ・コペンと、2015年3月にデビューしたホンダS660も、登録車のオープンカーよりむしろ贅沢な乗り物に映る。
というのも、オープン走行時は助手席を潰さなければ仕事道具やスーパーマーケットでの買い物を積むことさえ困難で、必然的に実用的なクルマとの複数台所有が大前提となるからだ。
だからこそ軽オープンカーには、実用的なクルマでは決して得られないオープン走行時の開放感と爽快感、スポーツカーとしての速さと安心感、操る楽しさが、登録車のオープンカー以上に求められると、筆者は考えている。
今回テストしたダイハツ・コペンGRスポーツと、ホンダS660モデューロXは、いずれもスポーツカーとしての側面を突き詰めたワークスチューンドカーである。
コペンGRスポーツは、ビルシュタイン製ダンパーとモモ製本革巻きステアリングホイール、レカロ製スエード調セミバケットシートを標準装備し、BBS製鍛造アルミホイールをメーカーオプション設定(20万2400円)する上級グレード「ローブS」をベースとしつつ、ビルシュタイン製ダンパーを外して専用セッティングのダンパーを装着。BBS製鍛造アルミホイールを標準装備し、各部品のカラーや加飾をグレー基調の専用品とした。
さらに、GRシリーズ共通のテイストを持つ前後バンパーに、フロントバンパーエアアウトレット、床下スパッツを追加して、揚力を10%ダウン。アンダーフロアには専用のフロントブレース(追加)とセンターブレース(形状変更)を装着してボディの連続性をさらに高め、電動パワーステアリングも専用セッティングとしている。
さらに、専用のスプリングと、前後とも5段階の減衰力調整機構を持つダンパーを装着。剛性のバランスを重視した専用アルミホイールを採用し、ディーラーオプションの「ディスクローター ドリルドタイプ」と「スポーツブレーキパッド」を標準装備とするなど、他の「モデューロX」以上に走行性能を強化しているのが大きな特徴だ。
なお2020年1月には、ベース車とともにマイナーチェンジを実施している。モデューロXに関しては、走行性能に関わる部分は変わっていないものの、ドアミラーカバーと専用アルミホイールの色、専用スポーツレザーシートのデザインを変更。ステアリングホイールとサイドブレーキカバー、CVT車用セレクトレバーはアルカンターラ×本革巻きになった。
こうして見ていくと、両車のチューニングの方向性がほとんど変わらないことに気が付く。「より上質かつスポーティな内外装と走り」。特に走りについては、「空力と高いボディ剛性を活かしたフラットかつしなやかな乗り味」だ。
まずはS660モデューロXをオープンにし、減衰力は前後とも最も硬い「5」、アクティブスポイラーを下げた状態で一般道を走行する。
実車を目の当たりにして改めて感じるのは、その軽自動車とは思えない外装の存在感と、内装の質感だ。ベース車は要素が多いながらもコンパクトさを強調する外観と、ほぼ黒一色の室内が安っぽさを強調してしまっているが、モデューロXにはそれがない。
しかも、今回のマイナーチェンジでアルカンターラが、頻繁に操作する部位に拡大採用されたことで滑りにくくなり、機能面でも進化しているのには好感が持てる。ただし、基本的にはベース車と変わらないシートはクッションに弾力がなくサイズも小さく、それ以前に前後上下方向の空間も不足しているのは大減点だ。
では、コペンGRスポーツはどうか。
外観は、ワイド感を強調する「GR」シリーズ共通テイストの前後バンパーが功を奏し、軽自動車らしさは顔を潜めている。だがS660モデューロXは全高1180mmのミッドシップ車なのに対し、コペンGRスポーツは全高1280mmのFF車ということもあり顔が分厚く、良くも悪くもボーイズレーサーの雰囲気が濃厚だ。
またグレーを基調としたGRスポーツ専用インテリアは、ベース車に設定されているベージュまたはレッドのインテリアと比べて華がなく、カーボン調やピアノブラック調の加飾パネルもそれに拍車をかけている。モモ製ステアリングホイールの本革は硬く安っぽいもので、レカロ製セミバケットシートはサイズとホールド性、フィット感こそ申し分ないものの着座位置が高めなのが気になった。
だがベース車の時点で、コペンがS660に対し明確に勝っている所がある。それは、荷物の積載能力と、オープン走行時の爽快感だ。
コペンには電動開閉式ルーフを格納してもハンドバッグが、展開すれば9インチのゴルフバッグ1個を斜めに積めるトランクがあるものの、S660にはトランクそのものが存在しない。強いて言えば脱着式ソフトトップの収納BOXがそれに当たるが、背の低いスーパーマーケットの買い物袋なら辛うじて3個ほど入るか、という程度の“ウナギの寝床”だ。
そしてコペンは、着座位置に対しドアパネル上端が低く平らで、後方のロールバーも小ぶり。ウィンドウフレームは傾斜こそ強いものの眼前に迫るほど近くはないため、開放感は大きい。また、サイドウィンドウを上げれば風の巻き込みが減り、高速域でも爽快なオープンエアモータリングを楽しめる。
しかしながらS660は純粋なオープンカーではなく、ロールバーを兼ねたBピラーが明確に存在するタルガボディだ。しかもそのロールバーが乗員の頭上にあり、S2000より低い重心高を実現するため全高が1180mmに設定されている影響で、身長176cm・座高90cmの筆者では後頭部が常に当たる。
そのうえドアパネルは高く後ろ上がりで、目の前にあるウィンドウフレームは傾斜も強いため開放感は皆無。そして何より、サイドウィンドウを開けても閉めても、走行中の風の巻き込みは強烈だ。
これでは一体、何のためのオープンカーなのか。S2000も現役当時しばしば「限界領域でなければ楽しめない」「クーペで良かったのでは?」などと評価されたが、10年以上S2000に乗り続けている筆者はこれらに対し「No」だと断言できる。しかしS660は、限界領域でなくとも楽しめるが、オープンカーである必然性はゼロと言っていい。むしろクローズドにした方が空力に優れ、より運転に専念できるのは間違いない。
身長170cm以下、座高85cm以下で、かつオープンエアモータリングと最低限の積載能力を求めない読者には、迷うことなくS660モデューロXをオススメする。だが、前述の四条件を一つでもクリアできないならば、コペンGRスポーツの方が良いだろう。そして、四条件を一つもクリアできない筆者が選ぶのは、やや消去法的ではあるものの、やはりコペンGRスポーツの方だ。ただし、LSDが標準装備される5速MT車の方ではあるが。
■ダイハツ・コペンGRスポーツ
全長×全幅×全高:3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車両重量:870kg
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6400rpm
最大トルク:92Nm/3200rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:165/50R16 75V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:19.2km/L
市街地モード燃費:15.2km/L
郊外モード燃費:20.5km/L
高速道路モード燃費:20.6km/L
車両価格:238万円
■ホンダS660モデューロX
全長×全幅×全高:3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車両重量:850kg
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6000rpm
最大トルク:104Nm/2600rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前後:マクファーソンストラット
ブレーキ 前後:ディスク
タイヤサイズ 前/後:165/55R15 75V/195/45R16 80W
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:20.0km/L
市街地モード燃費:15.2km/L
郊外モード燃費:21.1km/L
高速道路モード燃費:22.3km/L
車両価格:304万2600円