REPORT:ニューモデル速報編集部
2019年12月にフルモデルチェンジされた「ヤリス」。その1ヶ月後にはFIA世界ラリー選手権を勝ち抜くために生まれたホモロゲーションモデル「GRヤリス」を世界初公開。そして、直近ではコンパクトSUVの「ヤリスクロス」を発表と、バリエーション拡大の勢いが目を引く。
しかし、「ヴィッツ」の名で販売されていた当時は走る歓びやレジャーユースとは無縁で、クルマ=移動手段を象徴するような、お世辞にも面白みがあったとは思えない存在だった。
それが一転したのは、何故なのか? そこで、ルーツとなる「ヤリス」の開発ストーリーを振り返ってみるとしよう。
新型ヤリスは、2016年4月からトヨタが導入したカンパニー制において開発された。これまでの開発手法とは違って、「とにかくいいクルマをつくれ」を前提にクルマづくりは各カンパニーの裁量に任され、コンパクトカーカンパニーを率いる宮内一公は、先進国向けにつくったヤリスを化粧直しして新興国で販売するというプロセスを見直し、新興国向けのクルマは新興国小型車カンパニーとして独立させ、ヤリスは日本と欧州などの先進国にターゲットを絞ったという。
それを踏まえて末沢泰謙チーフエンジニアはヤリスの開発に着手。開発に際して、まずこだわったのがボディサイズだった。競合車が大型化する中で初代ヴィッツ以来の価値を議論していく中で、現在でも「ヴィッツ」に乗る人の中には“3ナンバー車に対するイメージ”や“大型化による取り回しの不安”が根強かったことから、“コンパクト”なことこそが最大の価値と考えた。
実際、新型「ヤリス」はTNGA GA-Bプラットフォームを採用したことで、先代比でホイールベースは40mm伸びているものの、全長は5mmの短縮に成功している。その上で、前席シートバックを削ったり、左右シートをそれぞれ10mmずつ外側に出すことで、従来と同等の後席や荷室を確保している。
このような従来の開発手法からの変化は、機能面だけでなく走行性能にも及んだ。最終的な性能監査の担当者に開発初期から参加してもらうことで欧州や国内での走り込みを通して出た課題や認識を、操安やパワートレーンといった垣根を超えて共有できたと振り返る。
こうして誕生した新型「ヤリス」は、クラスの枠を遥かに超えたファーストカーとして十分に足るクルマに仕上がっているという。先進国にターゲットを絞った上で、ヒエラルキーを打破し、部門の垣根を超えて課題を共有し解決していく。そうして実現したポテンシャルの高さこそが、「GRヤリス」や「ヤリスクロス」といったバリエーションの拡大へ邁進するための原動力なのではないだろうか。