TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)
e-tronは前後に2基の電気モーターを搭載する。主にリヤモーターのみを使用して走行するが、状況に応じてフロントモーターも駆動する。この新世代のquattroシステムにより、高効率と高い動力性能、優れたハンドリングを実現する。
当サイトは2018年4月21日、鈴木編集局長執筆による現地取材記事を公開した。「アウディ e-tron EVの成功の鍵は充電技術が握る@ベルリン Part2」という記事では、e-tronのバッテリー技術に関して詳しく報じている。e-tronの復習を兼ねて、以下に一部編集しつつ転載しておこう。
「アウディは、e-tronにおける充電機会の85%が家庭で行なわれると想定している。標準となるのは最大11kW出力に対応するコンパクトチャージングシステムと呼ばれる交流(AC)充電だ。満充電まで8.5時間を要する。これでは長すぎるとなると、オプションのコネクトチャージングシステムを使用できる。最大22kWのAC充電ができ、満充電までの時間が4.5時間に短縮される。
次は充電ステーションのHPC(High Power Charging)と呼ばれる高電圧DC充電=急速充電。ご存知のように、欧州における高電圧急速充電の規格はCCS(Combined Charging System)であり、e-tronはもちろんCCSを搭載する。CCSの特徴は、AC/DCをひとつの充電口で行なえることだ。CCSの現在のスタンダードは50kW。これだと満充電までに80分かかる。アウディが見据えているのはさらなる充電器の高出力化だ。そのために、アウディとポルシェを含むVWグループ、BMW、ダイムラー、フォードによるジョイントベンチャーで「Ionity(アイオニティ)」を設立した。Ionityは最大150kWで1カ所平均6基の充電ポイントを備えたステーションを2018年中に約200カ所、2020年末までにさらに200カ所、合計400カ所のステーションを高速道路、幹線道路に120km間隔で設置する計画だ」
とある。家庭でもフル充電まで4.5時間であれば不都合はない。HPCによる急速充電であれば30分で充電が完了する。2018年の時点で、アウディはそんな時代を予測し、インフラ整備にも力を入れていた。
さて、今回の公式リリースである。そのタイトルは【実際の充電時間は、理想的な充電曲線に大きく依存する】。以下に要約する。
e-tronは充電時間の大部分で最大150kWの充電容量を利用できるため、高速充電のメリットをフルに享受できる。EVの日常の使いやすさを評価するためには、ドライバーはバッテリー容量だけでなく、充電速度も考慮する必要がある。
多くの場合、EVの充電は自宅または職場で行われる。そこでは充分な充電時間があるから、時間的要因は重要ではない。対照的に長距離ドライブにおいては、高速充電が不可欠となる。短い休憩の後、車は再び次のステージの準備ができていなければならない。そのため多くのドライバーは、EVのバッテリー容量を重視している。ただしその評価は、高速充電ステーションにおいて迅速な充電が可能な場合においてのみ適用できる。短い充電時間には、充電プロセス全体に渡って高い充電速度を維持することが不可欠である。e-tronは、まさにこの特性を持っている。
現在の厳しい市場環境において、e-tronよりもスペック上は高性能なモデルが既に市場に出現しているが、実際的な性能ではe-tronがリードしている。充電時間の大部分において、バッテリー側の大電流消費は重要である。一般的に、比較的短い時間に最大出力で充電して、その電力を早く下げる必要がある場合、充電速度も同時に大きく低下する。そのため長期間に渡り最大出力が得られる理想的な充電曲線を持つことが、充電速度を高めることとなる。
150kW出力のHPC端末でのe-tronの充電曲線は、その高レベルでの連続性が際立っている。理想的な条件下では、インテリジェントなバッテリー管理により、最大出力で70%まで充電できる。一般的なシステムでは短時間でフル出力に達するものの、70%の閾値に達する前に電力を大幅に低下させてしまう。e-tron55であれば、約30分後に80%充電に達する。残念ながら技術的な理由により残りの20%を満たすには長い時間がかかってしまうが、それでも完全充電(5%から100%の充電状態)は約45分である。
e-tronのバッテリー容量は95 kWh(正味86.5 kWh)であり、長いライフサイクルを誇る。その精巧な熱管理システムが、上述の充電性能を含めたパフォーマンスと高耐久性とを保証する。
高いストレスレベルや低温においても、e-tronは優れた液体冷却によりバッテリーの温度は25~35℃の最適な範囲に保つことができる。22Lの冷却剤が、四つの冷却剤回路の合計40mの冷却ラインを循環する。150kWでの直流充電中、クーラントはバッテリー内で発生する熱を奪う。冷却システムのコアは押し出し材で構成されており、下からバッテリーシステムに取り付けられている。新開発した熱伝導性の接着剤が、冷却ユニットをバッテリーハウジングに接合する。ハウジングと、その中に配置されたセルモジュールの間の接触を形成するのはギャップフィラーだ。ギャップフィラーとは、セルモジュール下のハウジングまでのスペースを埋める熱伝導性ゲルである。このゲルは、セルで発生した熱をバッテリーハウジングを介して冷却剤に均一に伝達する役割を果たす。そのうえ空間的に分離することで、システム全体の安全性も向上する。この手の込んだ設計により、クラッシュ時の高い復元力を得ることができるのだ。
このリリースでアウディが主張するのは、e-tronが持つ以下の特徴である。
・e-tronは充電時間の大部分で150kWに近い最大充電容量で充電する。
・e-tronは独自の充電曲線を有する。バッテリー容量の80%を超えても充電時間が短い。
・急速充電ターミナルを使えば約45分で完全に充電される。
一方で、当サイトでは、興味深い論考「充電側の都合からEVの適性電池容量を考えてみた——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第50弾」を掲載している。車のバッテリー性能ではなく、電力グリッドごとの供給能力からの視点でEVの適正電池容量を考察している点が興味深い。以下に要点を編集して転載する。
「電池が高性能化して、充電受け入れ性能が大幅に高まったとしても、供給する側が追いつかなければ、大出力による充電はできない。例えば、テスラの急速充電機は最高出力250kW、ポルシェの急速充電機は270kWである。一方で、一般家庭の契約アンペア数は、平均約35A(100Vなので3.5kW)すなわち、テスラやポルシェの急速充電機を稼働させると、70軒以上の家庭が出現した程度の電力負担がそのグリッドに生じることになる。
これだけ見ても、特定の電力グリッドに、そうたくさんの急速充電機を設置するわけにはいかないことがわかるだろう。となれば、電力グリッドが破綻しない範囲でしか、急速充電機は設置できない」
となると、今後も充電の基本となるのは家庭での充電である。これはアウディの想定(充電の85%が家庭)とも合致する。だからアウディは家庭用充電にコネクトチャージングシステムを用意することで容量95 kWhのバッテリーを4.5時間でフル充電でき環境を整えた。これで家庭での充電性能は万全。さらに、車両の特徴として長距離ドライブを想定する必要があるが、それに向けても高い急速充電性能を与えることに成功した。これらより、スペック上ではなく、実用面において、e-tronが優れていることが浮かび上がる。