TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎RedBull
1988年鈴鹿・日本GP セナプロ決戦のレースでイヴァン・カペリが駆ったマーチ881
ニューウェイが最初に取り入れたアイデアはF1界のトレンドになり、そして一般化していく
| |
誰も気づかないことにいち早く気づき、自ら設計したマシンに取り入れ、スピードに転化する。ニューウェイが最初に取り入れたアイデアはやがてF1界のトレンドになり、一般化していく。その繰り返しが30年以上続いている。09年のレッドブルRB5もニューウェイらしさを象徴する1台だ。リヤサスペンションはそれまで長い間プッシュロッド式が一般的だったが、ニューウェイはタイヤの内側を通り抜ける空気の邪魔になるからと、プルロッド式を採用。この方式の利点に気づいた他チームが相次いで追随し、20年の現在でもリヤサスペンションの標準になっている。ニューウェイ自筆の解説図も本書の魅力で、多数収録されている。
| |
FRIC(フリック)と呼ぶ前後連結・連携サスペンションが話題になったのは、11年から13年にかけてのことだった。筆者は13年に書いた記事に「メルセデスが搭載しているとされるFRICが注目を集めている」と書いている。
実は、ニューウェイが設計した10年のレッドブルRB6は、のちにFRICと呼ばれることになるサスペンション機構を搭載していた(レッドブル内では別の名称で呼ばれていた。どう呼ばれていたかは、本書で確認されたい)。メルセデスにばかり注目が集まっていたので、当時のニューウェイはしめしめと思っていたことだろう。RB6は前後のヒーブ(左右同相の動き)を制御するダンパーをつなぎ、例えばリヤが10mm沈むごとにフロントが3mm伸びるような仕組みを成立させていたのだ。
その開発の内容が本書に詳しく記されている。○○システムと呼ばれていたレッドブル版FRICの狙いは、静止状態での車高を低くし、車両全体の空力効率を高めるためだ。レッドブルが一歩先を行ったシステムを搭載していることを他チームが知らないために、この年の日本GPでは、「レッドブルはフロントウイングに違法なことをしているに違いない」と疑いの目を向けられ、車検で厳しいチェックを受けることになった……。
『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR 空力とレーシングカー スピードを追いかける』は、こうした裏話も満載だ(そして、マシン設計とは関係のないバカげた失敗談も)。ぜひ手に取ってお楽しみいただきたい。