TEXT:近田 茂(Shigeru CHIKATA)
ILLUSTRATION:熊谷敏直(Toshinao KUMAGAI)/MAZDA
ロータリーエンジン、正しくはバンケル型ロータリーエンジンは、コンベンショナルなレシプロエンジンとは異なった作動原理を持つ。ご存知の方には復習の意味も込め、あらためてその原理を解説しよう。
言うまでもなく内燃機関の原理とは、ガソリン燃料を気化してシリンダー内に①吸入(供給)し、沢山の空気とともに②圧縮を加えたところに、スパークプラグで着火して、大きな③燃焼エネルギーを得て力を出そうというもの。その一連の行程を連続的に繰り返せるよう、燃焼ガスを④排出し、再び新気を取りいれる①の吸入行程へとつながる。今さらのおさらいだが、レシプロの場合、クランク軸2回転4行程をこなす4サイクルエンジンと、クランク軸1回転毎に繰り返す2サイクルエンジンがあり、現在自動車用エンジンは4サイクルが主流となっている。
ロータリーの場合、ローターの3頂点が、ローターハウジング内に密着しながら偏心回転する。①はローターの一辺が容積拡大行程にある時、ローター 自体で塞がれていた吸気ポートが開いて、吸入行程となる。レシプロのピストンが下降するのと同様に、 シリンダー内に負圧が生じて空気と共に新しい混合ガスが吸入される。トレーリング側の頂点で吸気ポートが塞がれた後は、容積(ハウジング内の)が小さくなることで吸入された混合ガスは②の圧縮行程となる。ちなみに13B“RENESIS”の圧縮比は10.0対1。
ローターの1辺が周長方向に長いこともあって、小さなシリンダーヘッドで点火するレシプロと異なり、ロータリーは点火後の火炎伝播に時間がかかる。それに対処して、リーディング、トレーリングの2本のスパークプラグが装着されているのも特徴。レシプロの場合、大径あるいはマルチバルブがギッシリ納まる関係で燃焼室のスペースに余地はない。その点ロータリーは周方向に広いスペースがあり、ダブルあるいはトリプルなど、スパークプラグ設置の自由度が高い。
点火とともに③の燃焼膨張行程に移るが、やがて同行程のリーディング側にあるローターサイドが排気ポートを過ぎる(開ける)と中の④燃焼ガスが排出されるという仕組みである。3辺それぞれで、次々とこの4行程をこなしていく。
ローター3辺の内の1辺だけで考えてみよう。レシプロの場合クランク軸回転角の720度毎、つまり2回転に1回の爆発を得ている。しかし、ロータリーの場合エキセントリックシャフトの回転角の1080度毎、つまり3回転に1回の爆発を得ている。
ちなみに2サイクルエンジンが360度毎(1回転)に1回転の爆発を得ていることを引き合いに出せば6サイクル(?)的とも表現できるかもしれないが、実はそうではない。なにしろロータリーはローターの3辺で同様の行程が次々と繰り返されている。つまり4サイクル比較で、3分の2×3倍、結果的に2サイクルと同様に4サイクル比で2倍の爆発回数が得られているのである。
レシプロは往復運動やクランクの回転運動による振動の発生が大きいが、ロータリーでは偏心量が小さい上、遊星運動は2ローターでバランスできるので、振動面でも有利なエンジンと言われているのである。
排気量を算出するには、ローターハウジング内の作動室の最大容積から最小容積を引いたものとなる。この考え方はレシプロと同様。ただ実質的にはハウジング内壁とローター1辺およびローターリセス(燃焼室)が織り成す空間容積となる。同じローターを使う限りローター幅の変更は排気量に比例する(厳密にはローター幅はレシプロのボアに相当。ストロークに相当するのはローターハウジング内周面の曲率(トロコイド定数=K値)で、乱暴に言えばロータリーのストローク増大はエンジンそのものの大型化、ひいては生産設備の一新を意味するため手がつけ難い。これが「ボアアップしかやってきていない」という批判の源)。
レシプロのシリンダーは単純な円筒形なので、ボアの半径をRとして、πR2×ストロークで体積が計算できる。これに対し、ロータリーは複雑な空間を形成するため行程容積(排気量)の算出は難しく思われがちだ。しかし、そもそもトロコイド曲線(次ページ参照)は定数に従ったものであるため、計算式は複雑だが、上図に示した式で行程容積(VH)が計算できる。
※2008年4月に発行されたMotor Fan illustrated Vol.19「ロータリー・エンジン 基礎知識とその未来」より
ロータリーの可能性②は、「ロータリーエンジンの幾何学」をお送りします。