トヨタ・スープラの走りは、しっかりした造りと選び抜かれたデバイス、そして考え抜かれた配置によって裏付けられている。サスペンションの作り、エンジン、空力処理、どれも、なるほどと唸る細部の処理が見える。トヨタとBMWの合作とも言えるFRスポーツ、スープラをモータリングライターの世良耕太が試乗した。




TEXT&PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

ボンネットフードを開けてみる

エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:B48型 排気量:1998cc ボア×ストローク:82.0mm×94.6mm 圧縮比:11.0 最高出力:258ps(190kW)/5000rpm 最大トルク:400Nm/1550-4400rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) 使用燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク容量:52ℓ

 GRスープラはパワートレーン(エンジン/トランスミッション/デフなど)や前後サスペンション、車体骨格をBMW Z4と共有する。アッパーボディと内装はスープラ独自の設計だ。アルミ合金製のボンネットフード(フロントフェンダーと左右ドアもアルミ製)を開けると、トヨタのバッジが付いたエンジンの化粧カバーが目に入る。

トヨタのバッジが付いたエンジンの化粧カバー。その向こうに見えるのが、アルミ鋳造製のサスタワー。リブの入れ方も美しい

 カバーを外して確認すればよかったのだが(忘れることが多い)、左右サスペンションタワーとの位置関係から、縦置き搭載されたBMW製直列4気筒ターボエンジンは、ほぼ前車軸の後方に搭載されていることがわかる。

カバーがあってわかりづらいが、縦置き直4エンジンはフロントアクスルより後ろに搭載されている。前後重量配分50対50はBMWのこだわり

エンジンルームを覗き込む

フロント、ロワーアームの車体側取付点

 エンジンが後方に搭載されているおかげで、エンジン〜ラジエーターコアサポート間はかなり距離があり、開いた区間から下を覗き込むことができる。「はて、何が見えるかな」と首を突っ込んでみると、ペイントされていない状態のアルミ骨格の一部が見える。補強部材が溶接されたコーナー部に見える円盤状のパーツは、マクファーソンストラット式フロントサスペンションのロワーアーム(アルミ鍛造品か)を車体側に取り付ける部分だ。ずいぶんしっかりした造りであることがわかる。

電動ファンはヴァレオ製

 ステアリングラックとアシスト機構もよく見える。よく見えるということは、ステアリングラックを前車軸より前に配置した前引き(前車軸より後ろは「後ろ引き」)である証拠だ。縦置きエンジン搭載車かつ、縦置きエンジンを搭載するBMW車のセオリーどおりである。「前引き」なので、ブレーキキャリパーは前車軸より後方に配置できる(前後重量配分の観点で有利)。

ステアリングラックは、いわゆる「前引き」。縦置きエンジンのBMW車のセオリー通り

 ステアリングラックの手前にモーターを平行配置しているのも、はっきり確認できる。パワーアシスト用のモーターで、ラック平行軸アシストタイプ(ラックケース内部のボールスクリュー機構を、モーターからベルトを介して駆動)であることがわかる。ラックアシストタイプは高出力にしやすく、フィーリングに優れているのが特徴で、重量級のクルマに使われることが多い。

電動パワーステアリングはラック平行軸アシストタイプ

 アルミダイキャストを使ったサスタワーといい、ラック平行軸タイプのステアリングパワーアシスト機構といい、GRスープラは贅沢な造りや機構を採用していることがわかる。ステアリングラックにはBMWと記してあるし、ESCのコントローラーにはBMWのロゴマークがあり、メカの数々はBMW製であることを訴え掛けてくる。ステアリングを切ってフロントサスペンションのロワーアームを確認したら、そこにもBMWの文字があった。エンジン排気側の遮熱板(ターボチャージャーはハネウェル製)にもBMWの刻印がある。

ESCユニットにも「BMW」のマークが
ユニット自体はコンチネンタル製を使う


ツインスクロールターボはハネウェル製。遮熱板に「BMW」も文字が見える

フロントサスペンションのロワーアームにもBMW。

よく見てみると空力処理は、各部にこだわりがわかる

右フロントタイヤを目一杯切ってみる。ホイールハウス内に注目

左フロント、エアカーテンの出口

 フロントホイールハウスの中を確認したら、四隅を丸めた長方形のダクトが目に入った。空力アイテムのひとつだ。筆者は新しいクルマに対面すると、近年採用例が増えているエアカーテンを確認することにしている(エンジン化粧カバーの脱着と一緒で、ときどき忘れるが)。エアカーテンはフロントバンパー前面もしくは下部のインレットから取り込んだ空気を、ホイールハウス前側かつ外寄りの端から排出するのが一般的だ。タイヤ+ホイールのサイド部を空気のカーテンでシールして、ドラッグ(空気抵抗)を低減する考えである。

入り口はどこかと探すと

ここ

寄ってみると・・・

 スープラの場合もソコにあるのだろうとあたりをつけて覗き込んでみたところ、開口部は見あたらなかった。「なんだ、ないのか」と一旦は決めつけてしまったのだが、奥にあった。どちらにどの程度軸足を置いているのかは定かではないが、ホイールハウス内の流れを制御することで、ドラッグ低減だけでなく、フロントタイヤの接地性向上を狙っているものと推察する。空気の入口はどこかと前に回り込んで確認してみたところ、ダイヤ状のメッシュで覆われたバンパーの隅から取り込んでいるのがわかった。

これがフロントのストレーキ

 空力に力を入れていることは、他の部位を観察することでも感じ取ることができる。フロントバンパー下面を覗き込むと、フロントタイヤの前方にストレーキがあり、回転するタイヤが引き起こす乱流を低減しようとする意図を確認することができる。また、エンジンの下部はアルミ合金製のカバーでしっかり覆われている。

 リヤに回って下部を覗き込んでみると、マルチリンク式リヤサスペンションのロワーリンク(鋼板プレス成形のよう)の下側に整流目的のパネルが装着されているのが見える。後車軸中央にあるデフは、独特な意匠の放熱フィンが目立つ。(6気筒版のRZと撮影車両の)SZ-Rは、湿式多板クラッチで差動制限力を制御する電子制御デフを搭載する。

中央に見えるのが電子制御デフ

 GRスープラをあちこち覗き込んで実感したのは、しっかりした造りと、考え抜いた末に選択したことをうかがわせる機構やデバイスだ。だから走りがしっかりしているのか、と感じさせる説得力がある。

左フロントホイールハウスにも
ここにエアカーテンが


トヨタ・スープラSZ-R


全長×全幅×全高:4380mm×1865mm×1295mm


ホイールベース:2470mm


車重:1450kg


サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式


トレッド:F1595mm/R1590mm


最低地上高:118mm


室内長×幅×高:970mm×1460mm×1060mm




エンジン形式:直列4気筒DOHC


エンジン型式:B48型


排気量:1998cc


ボア×ストローク:82.0mm×94.6mm


圧縮比:11.0


最高出力:258ps(190kW)/5000rpm


最大トルク:400Nm/1550-4400rpm


過給機:ターボチャージャー


燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)


使用燃料:無鉛プレミアム


燃料タンク容量:52ℓ




WLTCモード燃費:12.7km/ℓ


 市街地モード 13.7km/ℓ


 郊外モード 13.1km/ℓ


 高速道路モード 14.7km/ℓ


車両価格○600万9259円

情報提供元: MotorFan
記事名:「 トヨタ・スープラSZ-R:「走りはディテールに宿る?」普通は見えない部分を覗き込んで注目してみる