週末に200kmドライブしただけ、ではあるが、いきなり結論からいうと、この1.5ℓモデル、とてもよかった。「これで充分」ではなく、積極的に「これがいい!」と感じた。
マツダ横浜R&Dセンターで対面した15S Touringは、外観からはエントリーグレードとはまったくわからない。18インチのアルミホイールを履いているから足元に弱々しさもない。1.5ℓエンジンを搭載しているからといってMAZDA3のカッコよさは、いささかも損なわれることはない。
現在のMAZDA3の販売は、当初の目標月販台数をクリアする水準で推移しているという。そそれを支えているのが、この1.5ℓモデルなのだ
ドアを開けてコックピットにおさまる。ステアリングは上級車種と変わらない本革巻きだし、フロントウィンドウ投射タイプのHUD(ヘッドアップディスプレイ)も付いている。「これはオプションだろう。いくらどうか?」と思ってスペックシートを見てみると、
車両価格○231万5989円
試乗車はOP(360°ビューモニター+ドライバーモニタリング8万6880円)込みで240万2869円
と書いてある。つまり、もともとの231万5989円でもうフル装備状態なのだ。オプションで追加するものがないほど充実した装備である。
この15S Touringで設定がない装備は
クルージング&トラフィックサポート
交通標識認識システム
前側方接近車両検知
アダプティブヘッドライト
パワーシート
くらいで、そのどれも(アダプティブヘッドライトは欲しいけれど)なくても不自由しない装備だといえる。だって、231万円のクルマですよ。
イグニッションスイッチを押してエンジンを始動する。エンジンは、1.5ℓ直4DOHCのSKYACTIV-G1.5である。パワースペックは
最高出力:111ps(82kW)/6000rpm
最大トルク:146Nm/3500rpm
である。たかだか111ps。車重が1340kgだからパワーウェイトレシオは12.1kg/ps。これでは力不足で我慢できないほど遅いかも、と思ったが、乗り出してすぐに感じるのは、爽快な加速感だ。絶対的な加速はもちろんたいしたことはない。しかし、加速「感」はとても気持ちのよいものだった。アクセルペダルとスピードの上昇、変速のタイミングが絶妙にチューニングされている。ひと言で説明しにくいが、アクセルペダルの踏み応えがみっしり、しっとりしていて妙な軽さがないので、欲しい加速感にぴったりあった踏み込み量でぴったりきまる。いわゆるアクセルペダルの踏み込み過ぎ(オーバーシュート)が起きないのだ。
1.5ℓ111ps/146Nmのエンジンだから、加速したいときには深くアクセルを踏むことになる。そして踏めば元気に吹け上がる。それが心地よいのだ。大パワーのエンジンのごく一部の性能を使って走るのではなく、エンジンをガンガン回す楽しさがこの15Sにはある。
エンジン回転数は
90km/h巡航で約2000rpm
100km/h巡航で約2200rpm
110km/h巡航で約2400rpm
だった。
最終減速比は4.605(MTモデルは4.388)だから、回転数が最近のダウンサイジングターボ+7速・あるいはそれ以上のトランスミッションと組み合わせるクルマと比べるとやや高いがまったく気にならない。SKYACTIV-D1.8やSKYACTIV-Xでは、6速ではなくて、ライバルのように7速、8速があったら、と思うシーンがないではなかったが、15Sと6ATの組み合わせは完璧。ちなみにステアリングに変速用のパドルは装備しないが、それもまったく問題ない(231万円のクルマですよ)。
それよりも高速巡航時の風切音の低さ(小ささ)にちょっと感動する。CX-30でも同じ感想を抱いたが、マツダの新世代商品群は風切音を含めたNVの扱い方が一段階上がっているように感じた。
ファブリック地のシートもとてもいい。お尻は滑らないし、一度ポジションが決まればその後お尻を動かす必要はなし。変に本革シートにするより、ファブリックのシートの方が「ドライバーが座る」という機能に関しては高い性能を発揮すると思う。
乗り心地はどうか? 今回の試乗はひとりで行なったため、後席の乗り心地は確認できなかった。MAZDA3の初期に「リヤが跳ねるような気がする」「後席のノリ心地が悪い」という感想を抱いたが、今回の15S に関しては、そういうネガは感じなかった。175cmのドライバーが前後に座ると、後席膝周りにはちょうどこぶし1個分ほどの余裕があった。
もうひとつ、書いておきたいのはマツダ・ハーモニック・アコースティックス+8スピーカーという標準オーディオ(つまり追加の費用はゼロ)の出来の良さである。
CDを聴けるオーディオを搭載しているクルマに乗る際には、その日の天候と気分、クルマのキャラクターに合わせてお気に入りのCDを2、3枚選んで乗ることにしている。今回は1970'sの名盤2枚をチョイスした。
オーディオ設定のメニューでリスニングポジションを「運転席」にすると、非常によい音が楽しめる(フル乗車で全員が音楽をじっくり楽しむシチュエーションではこの設定では不満がでるだろうが、フル乗車することがあれば、それは会話を楽しむべきではないか)。このMAZDA3の前に試乗したMAZDA6ワゴンのBOSEより、MAZDA3の15Sの標準オーディオの方が良い音が楽しめた(オーディオ評論家ではないので、あくまでも個人の感想です)。
価格をざっと見てみると(FFモデル)
15S Touring 231万5989円
20Sプロアクティブ251万5741円
XDプロアクティブ279万741円
Xプロアクティブ 319万8148円
となっている。
この価格を見ると15S Touringのコストパフォーマンスの高さが際立つことがわかるだろう。200万円前半で買えるクルマでは、いまMAZDA315S Touringがベストと言っていい。かっこいいデザイン、爽快な走り、何不自由ない装備、ハイブリッド車には敵わないまでもかなりいい燃費がこの価格で手に入るのだ。隣により大きなエンジンを積んだMAZDA3が並んだとしても、まったく引け目に感じることはなし(だって外観からわからないし)。あえて1.5ℓを選ぶという通(ツウ)な感じもいい。いわゆるクルマ好きの人が、あえて1.5ℓエンジン+6MTを選んでいると聞いて、なるほどと思った。
新型トヨタ・ヤリスのハイブリッドモデル(たとえばハイブリッドGは233万8000円)、新型ホンダ・フィットのe:HEV(たとえばLUXEのFFモデルは232万7600円)とほぼ同価格なのだ。
いいコンパクトカーが欲しい、という人は、ぜひ一度MAZDA3 15S Touringに試乗することをお勧めします。個人的な結論。
「MAZDA3を買うなら、15SかSKYACTIV-Xの6MTだな」である。つまりエントリーかトップグレードか、を筆者なら選ぶ(価格差は大きすぎるけれど)。
MAZDA3 FASTBACK 15S Touring
全長×全幅×全高:4460mm×1795mm×1440mm
ホイールベース:2725mm
車重:1340kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:P5-VPS型
排気量:1496cc
ボア×ストローク:74.5mm×85.8mm
圧縮比:13.0
最高出力:111ps(82kW)/6000rpm
最大トルク:146Nm/3500rpm
過給機:なし
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:51ℓ
WLTCモード燃費:16.6km/ℓ
市街地モード 13.7km/ℓ
郊外モード 16.5km/ℓ
高速道路モード 18.4km/ℓ
車両価格○231万5989円
試乗車はOP(360°ビューモニター+ドライバーモニタリング8万6880円)込みで240万2869円