そうして生まれた十代目アコード。日本市場への投入は他地域より後となったがその分熟成を重ねた状態で投入されることになった。
REPORT●山本シンヤ(YAMAMOTO Shinya)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2020年3月発売の「新型アコードのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
1976年にシビックの兄貴分として登場したアコード。初代から世界戦略車としての役目も担っており、二代目は日本車で初めてアメリカで現地生産を行なったモデルとしても有名だ。これまで120を超える国と地域で発売、累計販売台数は2000万台を超える販売実績からもわかるように、フィットやシビックと並ぶ「ホンダの大黒柱」の一台であることは間違いない。世界戦略車である故に、六〜八代目では仕向地に合わせてつくり分けが行なわれ、複数の車体が用意されていた。
日本市場ではリトラクタブルヘッドランプが印象的だった三代目(CA)、モータースポーツでも活躍した五代目(CD)、ホンダ製ヨーロッパ車と言われた七代目(CL)が日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、クルマとしての実力は高いレベルにあるが、どこか「地味」、「コンサバ」な印象が拭えなかったように感じる。特に直近の10年の影の薄さは販売台数にも表れていた……。
実はアコードのメインマーケットである北米/中国市場では販売台数は好調ながらも、日本市場と同じような悩みを抱えていた。開発責任者の宮原哲也氏は「ユーザー調査をするとすべての項目で80点以上を獲得していますが、評価は『それ以上でもそれ以下でもない』と。それは特長がないことの裏返しでした。またユーザーの高齢化も顕著で、このままではいずれアコードブランドが消滅してしまうという危機感も。そこで十代目はその流れを断ち切る必要があった」と語る。要するに「ベストセラー=保守的」からの脱却だ。
そこで十代目となる新型はアッパーミドルセダンという立ち位置は不変ながらも、「若返り」をコンセプトに大きく刷新された。ちなみにこの十代目、北米/カナダでは17年、中国では18年から発売されており、日本市場には遅れての導入となる。恐らく導入に至るまで紆余曲折あったと思うが、フラッグシップのレジェンドは旧態化している上に元はアキュラブランドのモデルのお化粧直し版のため立ち位置は曖昧、新参者であるクラリティだけでは荷が重い。となると、「やはり、日本市場にアコードは必要‼」という流れだったと思われる。
そんな新型アコードの若返りを最も象徴するのはエクステリアだろう。歴代モデルを振り返ると「ザ・セダン」というボクシーなシルエットのモデルが多かったが、新型は歴代モデルのクリーンなイメージを継承しながらも、ワイド&ローをより強調したスポーティな4ドアクーペルックを採用。個人的にはどことなく英国アコードこと「アスコット・イノーバ」を思い出すフォルムだ。
ボディサイズは「また大きくなったのかよ?」と言う人もいると思うが、実は全長4900(マイナス45㎜)×全幅1860(プラス10㎜)×1450(マイナス15)㎜とホイールベース2830(プラス55)㎜と全幅以外はむしろ小さくなっている。Aピラーを100㎜後方に移動したことでFFながらFRのようなプロポーションバランスを実現。この辺りはFFミッドシップ・レイアウト採用の初代アコードインスパイアの精神を受け継いだのだろうか!?
デザイナーが「走りの声に耳を傾けながら『走りの視覚化』を追求した」と語るように、スポーティで伸びやかなスタイルに仕上がっている。ただ、クロームメッキを多用するところやホイールデザインなど細部の処理は個人的にはアンマッチな感が否めない。プレミアム層を獲得したい気持ちもわからなくないが、欲張り過ぎてキャラクターを曖昧にしているような気がする……。
インテリアはコンサートホールをイメージ。水平基調でデザインされたインパネまわりとワイドな運転視界によりシンプルかつ爽快感の高い空間に仕上がっている。見やすくレイアウトしたインターフェイス、三連ダイヤルのエアコンパネルを含めた操作性の高いスイッチ類など機能性はとても高い。質感も高いレベルにあるが、どこか事務的なメーター表示、シボの使い方、カップホルダーのレイアウト、最新モデルなのに小さなナビ画面、コンサートホールをイメージしながら普通のオーディオのみの設定などなど、細部のツメの甘さは非常に勿体ない。
シートポジションは従来モデルよりもヒップポイントはマイナス25㎜、ヒールポイントはマイナス10㎜と低めになっているが、これはセダンの本質を見直した結果で安定感ある運転姿勢を実現。シートは柔らかいのにシッカリしている不思議な感覚で、どちらかというと形状ではなく身体全体を包み込む感じでホールドするタイプだろう。運転席から助手席の操作が可能なスイッチがシートバックに装着されるが、これは法人需要を見込んでいるためだろうか!?
居住性はエクステリアを見ると悪そうに見えるが、実際はボディ骨格の変更やホイールベース延長も相まって、後席まわりの足元や膝まわりのスペースはクラストップレベル。さらに視覚的な広さ感はそれ以上だ。頭上は筆者(身長170㎝)が座ってもこぶしひとつ分のスペースが確保されている。さらにトランクルームはハイブリッドセダントップクラスとなる573ℓを実現している。
パワートレーンは海外向けには2.0ℓ直噴ターボ+10速ATも用意されるが、日本向けはハイブリッド「e:HEV」のみの設定だ。従来モデルでは「スポーツハイブリッドi-MMD」と呼ばれていたシステムだが、新型フィットの導入を皮切りに名称が一新されている。
このシステムをあらためておさらいすると、基本はエンジンが発電した電力でモーターを駆動させるシリーズ式ハイブリッドだが、高速巡航などモーターよりエンジンの方が効率が良い場合はエンジン直結クラッチを用いてエンジン走行を行なうホンダ独自のシステムだ。
直列4気筒2.0ℓアトキンソンサイクルのDOHC i-VTEC(145㎰/175Nm)エンジン+2モーター内蔵CVT(184㎰/315Nm)の組み合わせは従来モデルから不変だが、新型ではモーターに使われるローターはレアアースを用いないネオジム磁石を採用、パワーコントロールユニット(PCU)のサイズを15%削減、インテリジェントパワーユニット(IPU)の32%小型化で後席下への配置を実現することによるラゲッジスペースを拡大、制御の最適化といったアップデートが行なわれている。
アクセルを踏んだ時の応答の良さや滑らかなフィーリングはモーターならではの特徴だが、巷のEVや日産のe-POWERのように、「内燃機関とは違うだろ‼」といったエンターテイメント的な力強さはなく、あくまでもドライバーのペダル操作に合わせて必要なだけ力強さが増す自然なフィーリングだが、V6-3.0ℓ並みというトルクは実感できるレベルだ。ちなみにEV走行→ハイブリッドの切り替えは「お見事‼」と言え、普通に乗っていると気が付かないレベルである。
もちろん、アクセル開度が増えるとエンジン音はそれなりに聞こえてくるが、全開走行をしない限りは軽やかで雑味のないサウンドかつ車体側の静粛性の高さも相まって車格に恥じないレベルに収められている。
ただ、ひとつ気になるのは従来モデルより改善されてはいるが、車速とエンジン回転数がリンクしないフィーリングがまだ残っている点だ。実は先日試乗した新型フィットはその制御が実に良く出来ていたので期待をしたのだが……。この辺りは設計年次の違いが影響しているのだろうか? ぜひとも早いタイミングで改善を希望したいところである。
ちなみにパドルシフトはアクセルOFF時の減速度調整(4段階)に使うが、日産の1ぺダルドライブのように完全停止はしない。
フットワーク系は低重心/低慣性、高剛性/軽量設計にこだわった新開発プラットフォームに加えて、サブフレーム、サスペンション(形式は踏襲するが構造は一新)、ステアリングシステム(デュアルピニオンEPS&VGR)とすべてを刷新。ボディ/シャシー領域の一体開発に加え、数値だけの判断ではなくテストドライバーの感性も重視した設計により、「剛性」と「しなやかさ」のバランスにも考慮した自信作だと言う。
ちなみにダンパーはアコード初採用となる減衰力四輪独立制御の「アダプティブ・ダンパー・システム」を設定。加えてダンパー/パワーステアリング、パワーユニット/アジャイルハンドリングアシストをシーンに応じて3タイプ(コンフォート/ノーマル/スポーツ)に選択可能な「ドライブモード」のスイッチがシフトボタンの下側に用意される。
先代比25㎜下がったというヒップポイント。実際に座ってみるとちょっとしたスポーツモデル並だ。驚くのは後席スペースの広さで、膝前は余裕で足が組めるほど。前後方向の余裕はミニバンの2列目にも匹敵すると言っても過言ではない。
では、肝心な走りはどうなのか?一般道では走り出した瞬間から剛性の高さを感じるボディ、無駄な動きは抑えるが動かすところはシッカリ動かすサスペンション、滑らかで芯のあるステアリングなど「プレミアムセダン」の領域に入っている。快適性もとても高く、ドライブモード「コンフォート」はともかく「ノーマル」でもしなやかな足の動きやアタリの優しさ、ギャップ乗り越え時のシットリとした足の動かし方などはレジェンドを超えホンダ最良の仕上がりで、同クラスのライバルと比較してもトップレベルと言っていい。
高速道路では抜群の直進安定性の高さを実感したが、これはフットワーク系の進化に加えて空力性能の改善も大きく寄与しているはずだ。むしろ、ホンダセンシングのACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とLKAS(車線維持支援システム)の制御の甘さの方が気になってしまったくらいである。静粛性の高さも印象的で、遮音材/吸音材の最適配置はもちろん、ロードノイズ低減はタイヤ(レグノGR-EL)やノイズリデューシングアルミホイールも大きく貢献している。
ワインディングでは新型アコードのもうひとつの顔を知ることになった。FFとは思えない前後バランスの良さ、無駄な動きを抑えたボディコントロール、四輪の接地性の高さなどが相まって、まるでボディサイズや車両重量がひと回り小さくなったかのような「軽快感」と「一体感」を備えているのだ。フロントはアンダー知らずでグイグイとノーズが入るのにリヤは四駆のような鉄壁の安定感と、「意のまま」と「安心感」が高度にバランスされたハンドリング。ちなみにドライブモード「ノーマル」でもスポーティセダンを超えるレベル、「コンフォート」は姿勢変化が若干大きくなるものの、ワインディングレベルでもまったくへこたれない。
驚きはブレーキで、回生協調ブレーキながらもタッチ、コントロール性ともにメカニカルブレーキと錯覚してしまうくらいの自然なフィーリングで、ストローク感がやや少なめな以外は何も知らされなければわからないレベルだろう。
ドライブモード「スポーツ」を選ぶと、ステアリングはダイレクト感重視、サスペンションやアジャイルハンドリングアシストは俊敏性重視、パワートレーンはアクセル操作に対する加速レスポンスのアップに加えて、アクティブサウンドコントロールにより控えめながらマルチシリンダーエンジンのような勇ましいサウンドがプラスされる。その走りはノーマルグレードでありながらもかつて歴代アコードに設定されていた「Si」「SiR」「ユーロR」「タイプS」など走りにこだわりのあるモデルの流れを組んだ末裔と言ってもいいレベル。ズバリ、「快適性を備えたスポーツセダン」の走りを高いレベルで実現している。
実は乗る前は「見た目はスポーティでも、北米メインのモデルだから走りは大味だろうな」と思っていたが、いい意味で裏切られた。個人的にはシーンに応じて「プレミアム」と「スポーツ」、どちらにもなれる走りのキャラクターの二面性こそが、新型アコードにおける「ホンダらしさ」だろう。
宮原氏は「走りに関してはグローバル1スペックで開発。ボディサイズを感じさせない『一体感』と『軽快感』が特長です。欧州プレミアムに負けない走りだと自負しています」と語るが、それには偽りはなかった。
総じて言うと、セダンとしての完成度はとても高いレベルにある。スタイリッシュなエクステリア、機能的で高品質なインテリア、そして欧州プレミアムに匹敵する走りと快適性は、歴代アコードの「変わらない良さ」と十代目としての「変わった良さ」が上手く〝調和〟した一台である。価格は465万円と決して安くはない。なかには「若返りといいながら、若者はそんな高価格では買えない」という声も出るだろう。ただ、アコードの若返りとは「無理に若づくりすること」「若者に媚びること」ではなく、「若い人が見て『おじさんカッコいいよね‼』といったような憧れの存在になること」だと考える。
ちなみにすでに発売中の北米/中国ではユーザーの平均年齢は下がっていると聞くが、日本ではどう評価されるのか? 日産スカイライン「400R」は「走り屋オヤジ」に向けた商品企画を行なった結果、若い人からも注目度が上がっていると聞いている。「セダンは売れない」と言われる時代だが、売れるセダンは存在する。アコードはそんなモデルになれる素性はある。十代目にしてアコードの「新たな挑戦」が始まった‼