新型四代目ホンダ・フィットに設定される5タイプのなかでも異色の存在であり新機軸と言えるのが、クロスオーバースタイルの「クロスター」だ。




こちらのe:HEV FF車には一般道でのみ、ごく短時間ではあったが、前回の「ネス」e:HEVおよび「ホーム」1.3Lガソリン車と同様、千葉県木更津市内で本誌の鈴木慎一初代編集長とともに試乗した。




なお、テスト車両には、メーカーオプションのルーフレール、コンフォートビューパッケージが装着されていた。




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)


PHOTO●遠藤正賢、鈴木慎一、本田技研工業、ホンダアクセス

三代目後期型フィット用ディーラーオプションとしてホンダアクセスが販売した「クロススタイル」


 新型四代目ホンダ・フィットに設定される5タイプのうち、「ベーシック」は「13G/同F」「ハイブリッド/同F」、「ホーム」と「リュクス」は「15XL」「ハイブリッドL」、、「ネス」は「RS」「ハイブリッドS」と、先代三代目にもそれぞれのルーツと思われるグレードは存在していた。しかしながら「クロスター」にはそれがない…かと思いきや、2017年6月に行われたマイナーチェンジの際、ホンダアクセスから「クロススタイル」という名のエクステリアパーツ群がディーラーオプションとして発売されていた。

全長×全幅×全高:4090×1725×1545mm(ルーフレール込み1570mm)ホイールベース:2530mm

 だが新型の「クロスター」は、他の4タイプとは大きく一線を画しており、先代「クロススタイル」よりもさらに踏み込んだ差別化を図っている。具体的には、専用の前後バンパーやグリル、クラッディングを装着して全長を95mm、全幅を30mm拡大したほか、一回り外径が大きい185/60R16 86Hタイヤ&専用アルミホイールを装着。また最低地上高を、他の4タイプに対しFF車で25mm高い160mm、4WD車で5mm高い155mmとして、大きな段差やラフロードでも下回りをヒットしにくいよう配慮した。

「クロスター」ブラック×グレー内装のインパネ

「クロスター」ブラック×グレー内装のリヤシート
「クロスター」ブラック×グレー内装のフロントシート


 なおインテリアは、「ネス」に設定されているものと共通で、グレーをアクセント色とした撥水ファブリックシート&ソフトパッドとなっている。




 その実車を見てみると、「『用の美・スモール』は一体どこに行ったのか?」というのが率直な第一印象。シンプル・上質を良しとするはずの新型フィットが、この「クロスター」はSUVテイストをただデコレートしただけのエクステリアに退化している。言うなればこれは「引き算の美学」ならぬ「足し算の力学」だ。




 だからこの「クロスター」は、事実としては新たなモデルタイプではあるものの、先代三代目フィットの世界観を色濃く踏襲した、本質的にはむしろコンサバティブ(保守的)なモデルである。そしてこれは、要素が多く押し出し感の強いエクステリアを「カッコイイ」とする日本および東南アジアの男性ユーザー、あるいは小さく見えることが商品力として致命的なマイナスになる北米および中国市場を主眼として作られたデザインである可能性が非常に高い。

e:HEVを搭載したクロスターのエンジンルーム

 実際に試乗すると、パワートレーンおよび静粛性に関しては、その前に試乗した「e:HEVネス」と何ら変わらない。良くも悪くもハイブリッドカーらしくない、車格に対し排気量のやや大きいエンジンのような加速フィールである一方、後席を含めたノイズの少なさは「ハイブリッドだから」という次元を遥かに超えた、並みの高級車が裸足で逃げ出す水準だ。

テスト車両の「e:HEVクロスター」は185/60R16 86Hのダンロップ・エナセーブEC300+を装着

 だがハンドリングと乗り心地に対しては、外径が一回り大きいタイヤと20mmのスペーサーが、明確に悪影響を及ぼしている。それを最も強く体感できるのはやはり、車道からスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの駐車場へ乗り上げる、あるいは逆に降りていく、低速で大きな段差を乗り越える場面だろう。こうした状況で「クロスター」は、前後席を問わず乗員に衝撃を伝えるとともに、その車体と乗員を盛大に左右方向へ揺さぶった。そして旋回時も、確実にロールは大きく早く、またリニアでないのが目に付いた。




 しかしながらこうした挙動特性は、最低地上高がFF車に対し15mm高められている、他の4タイプの4WD車にも、共通して備わっている可能性が否定できない。一方、リヤサスペンションの形式が、FF車のトーションビーム式に対し4WD車はド・ディオン式となり、車重も70kg増加するため、走りが全く違うものになっていることさえ考えられる。




 ともあれこの「クロスター」は、新型フィット全体の開発コンセプトを自ら否定し、その良さを少なからず損なったモデルと言っても決して過言ではない。「このデザインが圧倒的に気に入っている」、あるいは「この高い最低地上高がどうしても必要だ」というのでない限り積極的に選ぶ理由がない、むしろ新型フィットで唯一、選ばないことを強く推奨するタイプである。

【Specifications】


<ホンダ・フィットe:HEVクロスター(FF)>


全長×全幅×全高:4090×1725×15405mm ホイールベース:2530mm 車両重量:1200kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0×89.4mm 圧縮比:13.5 エンジン最高出力:72kW(98ps)/5600-6400rpm エンジン最大トルク:127Nm(13.0kgm)/4500-5000rpm モーター最高出力:80kW(109ps)/3500-8000rpm モーター最大トルク:253Nm(25.8kgm)/0-3000rpm WLTC総合モード燃費:27.4km/L 車両価格:228万8000円
新型ホンダ・フィットe:HEVクロスター

情報提供元: MotorFan
記事名:「 最低地上高のアップがハンドリングと乗り心地に対し明確に悪影響