チャンプ読者にもきっと多いヤマハ・シグナスファン。2019年の今こそスポーツスクーターの代名詞だが、意外やデビュー当時はこんなにも大人っぽいルックスのジェントルマシンだった。




月刊モトチャンプ 2020年2月号より


語り●津田洋介/TDF


まとめ●宮崎正行

性はグラデーション!そのメッセージを読み解こう

津田 豊かなヒゲをたくわえたナイスミドル。背後にピタッと寄り添う金髪ヤングマン。そして思いっきり見切れているシグナス125。




──あくまで主役はふたり、と。




津田 服の趣味もシンクロしている。




──ふたりのVゾーンから覗く大きな胸板に注目。今回はモノクロページゆえ、80年代らしい明るいパステルカラーをお見せできないのが残念ですが、ホワイトデニムは申し合わせたようにお揃いですね。(※月刊モトチャンプ 2020年2月号ではモノクロページで紹介)




津田 ……。




── ……。




津田 ふたりは確実に、親密な仲だね。すっげえトンガった表紙のカタログだよ! キミの琴線に触れるんじゃないの?




──えーと津田さん。答え方と話し方によっては……カミングアウト方向になってしまうんですけど(笑)。そして同時に、我々のプロフィールカットの意味合いも大きく虹色に変化し、そこはかとなく「野性的なアニキと、年下のカレシ」的なものに見えてくるという。




津田 ない! 断じてない!




──そう思うと、自分の髪型もどこかソレっぽいというか。津田さんの鉢巻きタオルも筋肉質なガテン系アニキっぽいというか。




津田 もうタオル巻かない!(笑)




──にしても、これほどバイクが見えない表紙のカタログっていうのもかつてない斬新さですね。ヤマハの、時代を先取りした英断かも。




津田 ヘッドライトとシートしか見えないもんね。そう思うとフラットなタンデムシートもちょっとだけ意味深に見えてくるという。




──「シグナス」という名前のモデルはこれが最初だったんですか?




津田 いや、先行したのは1982年にデビューしたシグナス180のほう。180は当時、ながらく下火になっていた軽二輪スクーター市場に久しぶりに登場したニューモデルだったんだ。




──ルーツがあるんですか?




津田 ヤマハは1960年にSC1っていう、これまた時代の先を行き過ぎていた2スト175㏄の軽二輪スクーターを発売したことがあった。ヤマハ初のスクーターで、狙ったコンセプトも良かったんだけれども、残念、販売は芳しくなかった。




──なるほど。




津田 じつにそのSC1から22年ぶりの180㏄モデルがシグナス180。片持ちのボトムリンクサスやアンチノーズダイブ機構を盛り込むなど、なかなか気合いの入った新型車だった。無念、こちらもそれほど売れはしなかったけれどね。




──シグナス125はその流れを汲んでいる?




津田 基本コンセプトはほぼ同じって言っていいんじゃないかな。大人のオトコのためのスクーター。




──いや、たぶん「オトコ」は言ってないですね。




津田 オーソドックスというか、プレーンというか、シックというか、古風というか、そういう車体デザイン。これより前に出たいくつかの日本製スクーターが、かなりイタリアのベスパにデザインを寄せていたことを考えると、揺り戻し的な部分もあるんじゃないかなー、と。




──日本車が通ってきた外車コンプレックスですね。クールジャパンはまだまだ先の話だし。




津田 それでも初代シグナス125には充実装備がたくさんトッピングされていたんだ。フロントには制動時の浮き上がりを防ぐメカニカルアンチリフト機構、リヤには安定した乗り心地を提供するダブルガスクッションを搭載。ライダーとスペースを共有するフットスペースは前後に広くて快適だったし、8000回転で11psを発揮する空冷4ストエンジンは、同じスペックのまま95年発売のシグナス125までずっと搭載され続けていたからね。




──あッ!




津田 なになに?




──すみません……。宮崎、ある重大な事実にたったいま、気がついてしまいました。




津田 だから何だって?




──カタログの文章の中にですね。小さい文字で、でもしっかりとこう書いてあります。「父と息子」って。




津田 なに! 父のムスコ?!




──いえ、父とムスコです。




津田 どこどこ……あ、ほんとだ!なんだよ〜。なんでオレらはこんなに盛り上がっちゃったんだよ〜。




──でも「父と子の素敵な三角関係」はさすがに、ナシですよね〜。




津田 そうだよな〜。ナシだよな〜。親子の間柄に三角関係を持ち込むなっちゅうの。




──いや、待ってください津田さん。




津田 ん?




──さらに一歩も二歩も新しいセクシュアリティに踏み込んで、先進のヤマハはもしかすると近未来の新しいファミリーのカタチを……。




津田 ストップ! それ以上言わなくていいから!

カタログ中面でやっとシグナス全形が見えてホッとする。ふたりが持つのはマグカップではなく、ティーカップ。そういえば走行シーンも左側通行なので、目指しているのはアメリカンスタイルではなく英国調なのかも。「素敵な三角関係が〜」のキャッチが熱いぜ。

型式「XC125」の車重は意外と軽く乾燥で91kg。カタログのどこにもタイヤサイズの表記が見当たらないのにはちょっとビックリ。実際は3.50インチ幅の前後10インチ。

「大人には、大人な走りを」のコンセプト通り、広めのフットスペースでライダーの自由度をアップ。Fにはメカニカルアンチリフト機構、Rにはダブルガスクッションを搭載。

“正しいスクーター”感あふれるクリーンデザインは2019年の今から見ても真っ当で、端正、という言葉がピッタリだ。それほど大柄でもないのでタンデムの密着度は高い。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 シグナスの先代は、なかなか大人びたスクーターだった!「ヤマハ・シグナス125(1984)」【青春型録 第15回】 【月刊モトチャンプ 2020年2月号】