REPORT:宮崎正行 PHOTO:山田俊輔
カブは自由だ。カブは原付バイクだから車検がないし、カスタムパーツも豊富。車体も小さくて扱いやすいし、維持費もたいしたことない。燃費だってバツグンだ。でも……今回紹介するカブはそういうことじゃまったくない。乗り物としてのカブまわりの通説と、痛快なくらい遠く離れた価値観でメイクされている。いったいどんなカブなのか?
鈍色に輝く重めのメタルグレー、と言えば少しは伝わるかもしれない。低く構えるチョッパースタイルのフォルムもさることながら、ボディを彩る稀有なカラーリングのインパクトがまず強烈だ。そのフォルムの中心にある「これ、どうやって作ったの?」と見るものを惑わせるネジネジのフレームは、この作品のキモとなる部分。車名『ツイスター』の由来もここにあるという。
ビルダーであるハラペコモータースの堀之内忠雄さんに話を聞いてみた。
「今回の出品車に関しては、いかに“カブ感”を残せるかをテーマにしてカスタムを進めました。前回のショーのときは徹底してカブであることを消そうとマシンを製作しましたが、それとはまったく逆のコンセプトということになります。
カブであること、カブらしさをあえてアピールしようと決めたときに、あらかじめ考えたことが2つあります。ひとつはメインフレームを触らないこと。もうひとつはシート下の燃料タンク部分のフォルムをキープすることです。この2つのポイントにカブらしさを求めたことで、結果的に『ちゃんとルーツがわかるから面白いね』というコメントをいただくことができたので、とてもうれしかったですね。
カブの車体構成を説明するときは『アンダーボーンフレーム採用』が決まり文句ですが、実際にはエンジン下のアンダーというよりかは車体の中心であるミドルな位置にフレームが通っていますよね。これもカブらしさのひとつだと思ってそのまま活かしました。ぜんぜんアンダーじゃないじゃんと静かにツッコミつつ(笑)」
車体を真ん中で支えるフレームの捻り、この“ネジネジ”はどうやって形作ったのだろうか?
「フレーム自体はまったく触らずに、じつは単純にパテを盛りつけただけなんですよ。もちろんそれほど簡単じゃありませんが、技術的にものすごく難しいというわけではありません。パテをていねいに成型させながら、自分のイメージに徐々に近づけました。このテクスチャーはジョッキーシフトのロッド(リンク)やホイールのスポークにも反復させて使っています。つまりネジネジ部分が車体に3ヵ所あるというわけです。
僕はふだん鈑金塗装が専門なので、とくにペイントには人に真似できないスペシャルさを盛り込みたいと思っています。特別なペイントでさらに個性を際立たせようといつも試行錯誤していますが、『これは満足のいく出来栄え!』というところまではなかなかたどり着きませんねえ(笑)。まったくもって奥の深い世界です」
過去にメイクしたカブでの経験を踏まえつつ、見るものがどこに“自由を感じる”のかをきちんと見極めている堀之内さん。そのクールな視点によってデザインされた「ツイスター」に、かつてない新しさをショーの来場者は感じたことだろう。何をやってもOKなのが自由であれば、「あの実用車がここまでぶっ飛んだチョッパーになっちゃうの!?」のもまた別アプローチの自由の表現だ。バイク好きはそんな堀之内さんの“こだわり”にきっとリアリティを感じてしまうはずだ。
うーん、このカブはありきたりのカスタム車なんかじゃない! その領域をはるか飛び越え、見たものをゾクゾクさせるこのスペシャルカブはもう、ひとつのアートワークと言っていいと思う。
堀之内さん、今年は何を作って僕らを驚かせてくれますか?