2020年2月18日、筑波サーキットにて谷口信輝選手がタイムアタックを行った。供されたのはニュルブルクリンク・ノルトシュライフェで7分40秒1という市販車FF最速記録を達成したルノー・メガーヌR.S.トロフィーRだ。メガーヌR.S.トロフィーをベースに、リヤシートを取っ払い、虎の子の4CONTROL(4輪操舵システム)も外すという徹底ぶりで130kgもの軽量化を果たした本気のマシンである。本記事では、谷口選手のコメント形式でレポートをお送りする。目標は1分2秒台というが、果たして……。

え! あんなに良くできた4CONTROLを外しちゃうの?

 先日、メガーヌR.S.トロフィーRで筑波サーキットを走らせてもらったら1分3秒台が出せたんです。感触が良くて手応えもあったので、今回は目標タイムを1分2秒台としました。リヤタイヤを早めに温められればいけると思っていたので、今回はタイヤウォーマーを使ったんですけれど、結果的には1分3秒984でした。

 目標タイムには及びませんでしたが、今回は条件が悪かったですね。2月にしてはとても気温が高かったですし、なにしろ風が強すぎました。




 レーシングドライバーとしてはとても悔しいのですけれど、それにしたってメガーヌR.S.トロフィーRはすごいクルマだということが再確認できました。とにかく旋回性能が高く、マシン全体のバランスがいい。条件が悪かったのに、タイムはほとんど毎ラップ1分4秒0台で安定していました。もうひと伸びさせたかったですけれど、逆にこの安定っぷりには感心させられました。

 印象的だったのはブレーキですね。筑波はアンジュレーションが出やすくて、ABSが介入しがちなんです。でもトロフィーRのブレーキですとそんなことはなくて、安心して奥まで突っ込めます。ターンインには少し気を遣う必要があって、イン側の荷重を抜きすぎるとスライドの兆候が出ますが、そこさえクリアできれば、あとは駆動をかけてグイグイ曲げていけるので、ボクはとても楽しめました。

 トロフィーとトロフィーRの違いは、言うまでもなく4コントロールの有無ですね。




 4コントロール、みなさんもご存知かもしれませんが、あれスゴイですよ。あの旋回性能は驚異的です。




「おおっ、曲がる! じゃ、もっとやったらどうだろう? おおおおっ、もっと曲がる!」ホント、こんな感じですよ。FFであれほどコーナリングが楽しいクルマはありません。

 ですからトロフィーRでは4コントロールを外すと最初に聞いたときは驚きました。「なんで? 絶対にあったほうがいいよ」って。




 でも、ロラン・ウルゴンさん(ルノー・スポールの開発ドライバーにして、ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェの市販FF車世界最速タイム保持者)たちは軽さを選んだんですね。130kgですもんね。理解できます。




 4コントロールは「曲がる」ことに関しては助けてくれる。




 でも軽さは「走る(加速)」と「止まる」を助けてくれるんです。あとは「曲がる」を開発陣が頑張ればいい。そのほうが「サーキットでのタイム短縮」という目的の達成にとってはアドバンテージが大きい。そういう判断でしょうね。

開発陣がどんなに苦労しようと知ったこっちゃないけれど、彼らの仕事は称賛するしかない

 とはいえ、ルノー・スポールが自信をもって送り出してきた4コントロールを外すという判断にはビックリしましたね。英断って言うんですかね。




 もちろん運転支援は減りますよ。先ほども言いましたが、ターンインでギリギリまで攻めるとリヤがナーバスになるときがあります。でも限定車ですし、ウデに覚えのある人だけが乗ればいいんです。




 逆に、トロフィーRのシビアさに不安を覚えたとしても、まったく気にする必要はありません。4コントロールのついたトロフィーに乗ればいいだけですし、メーカー側もそのほうが多数派だと判断しているはずです。

 どちらが速いかと聞かれれば、そりゃあトロフィーRのほうが速いはず。同じ場所で、同じ時に比べていませんので断言できませんが、300psのクルマにとって130kgのアドバンテージはあまりに大きいのです。




 助手席にひとり乗せただけですごくクルマの挙動が変わるのはみなさんも経験ありますよね? 70〜80kgの大人ひとりでもね。そこへ130kgの巨漢ひとりでしょ。

 まぁ、仮に同じ車重で4コントロールが付けられたら、絶対にアリのほうが速いでしょう。もはやABSのブレーキングには人間は勝てませんし、いくら稲妻シフトなんて言って張り切ったってDCTには敵いません。4コントロールもそれと同じです。

 最後にトロフィーとトロフィーRの両方に共通した感想を言わせてもらえれば、まぁとにかくこのクルマをセッティングした人は神ですよ。トロフィーRは、こんなにソリッドな感触なのに気持ちよく攻められますし、トロフィーは誰が乗ったって楽しめます。




 クルマってね、自分が乗りたいようにセッティングするだけなら簡単なんですよ。ウルゴン専用スペシャルを作るのって、実はそんなに難しいことじゃありません。でも、どこの誰が乗るかわからない市販車でここまで楽しめるように仕上げるのって、本当に大変なんです。




 自分、ルノーの人間じゃありませんので、彼らがどんなクルマを作ろうが、どんなに苦労しようが知ったこっちゃない。でもルノー・スポールの開発チームはスゴイですよ。感心するしかありません。

■ルノー・メガーヌR.S.トロフィーR


全長×全幅×全高:4410×1875×1465mm


ホイールベース:2670mm


車両重量:1330kg ※1


エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー


総排気量:1798cc


ボア×ストローク:79.7×90.1mm


圧縮比:8.9


最高出力:221kW(300ps)/6000rpm


最大トルク:400Nm/2400rpm


トランスミッション:6速MT


サスペンション形式:ⒻマクファーソンストラットⓇトーションビーム


ブレーキ:ⒻベンチレーテッドディスクⓇディスク


タイヤサイズ:ⒻⓇ245/35R19


ホイールサイズ:ⒻⓇ8.5J×19


ハンドル位置:右


乗車定員:2名


JC08モード燃費:13.0km/L


車両価格:689万円※2




※1:カーボン・セラミックパックは1320kg


※2:カーボン・セラミックパックは949万円(完売)

情報提供元: MotorFan
記事名:「 レーシングドライバーがメガーヌR.S.の限定車で筑波を攻めたら、すごいことになった