月刊モトチャンプ 2019年10月号より
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
REPORT●モルツ
スーパーカブをはじめとした様々なイベントのコンテストで受賞するなど、名うてのプライベートビルダーが存在する。当の永森 諭さんから新作が完成したという一報を受け、取材班は早速現地へと向かった。
そこで待ち受けていたのはモンキーをベースにしたサイドカーだった。二輪部分のフレーム一部とエンジンを除いて全てがオリジナルだというから驚きを隠せない! この車両を含め、彼が手掛けた作品の詳細は後に紹介するとして、どれも独創的だがアメリカンの雰囲気がほのかに漂う。これについて永森さんは「小学生の時に見たSRのディガーカスタムに感銘を受け、バイクと米国文化に目覚めました。その後は〝ハーレーに乗って音楽をやれば女にモテる!〟という男子ならではの不純な動機に至りまして……まぁこれは継続中ですね(笑)」。
と笑顔で話してくれた彼の加工テクニックはひとつやふたつではなく、叩く、切る、削る、塗る、溶接、さらには彫金、革加工、縫製まで難なくこなす。職人顔負けの腕と設備はもはやプライベートの域を超えている。かれこれ20年以上もカスタムをし続け、二輪四輪問わず様々なマシンを完成させてきた彼だが、当初から一貫しているのはワンオフを多用するということ。なぜそこまでワンオフにこだわるのか?
「お金がないからです(笑)。イチから全部作れば原価だけで済みますし。それに市販品だと大量生産だから人と被ってしまいがちですが、一点モノならオリジナリティ=自分の世界を作り出せます。“餅は餅屋”がベストだと思っていますから、私自身がどの分野においても餅屋(プロ並)になって、全部自分で考えて作ったんだぜ!と胸を張って言えるようになりたいですね」。
恰好を気にしつつ機能面も一切の抜かりはなく、例えばカブに備えたスプリンガーフォークもダンパーがしっかりと効くように作られているし、今回試乗したサイドカーも安定していて、側車ビギナーの筆者でもすんなりと走ることができた。
「サイドカーは初めて製作しましたが、旋回性やバランスなどサイドカーならではのディメンションというのがあって、それに基づいて取り付け位置や剛性などを考えて設計しています」。
思慮深い永森さんだが、設計に関してパソコンは一切使っておらず、図面も引かないという。長年蓄積した“勘”を働かせ、イメージを膨らませて具現化する。それで高精度を実現しているのだから御見それする。
「昔からパソコンが苦手なんですよ(笑)。手作業の方が全く同じものにはなりませんし、味わいがあって魅力だと考えています」。
永森さんのこだわりは素材にも及び、できる限り金属パーツを使って仕上げられている。
「樹脂も軽くて良いのですが、メタルパーツの方が無機質さが浮き立ちます。速いバイクにはさほど興味がないので軽量化や補修についてはあまり考えていませんね」。
現在は全てアルミボディのカブ(!?)を製作中とのことでまた近々お披露目できるそう。新境地を目指す彼の活動に乞うご期待!