あるいはスカンジナビアンテイスト溢れるモダンなデザインか?
近ごろは、先進的パワートレインに代表されるハイテクなイメージも強い。
だが、もうひとつ忘れてはならないことがある。雪道性能だ。
北欧生まれのボルボの雪道性能を確かめるべく、真冬の北海道へ向かった。
REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
今さら言うまでもないが、ボルボは北欧のスウェーデンの生まれだ。スウェーデンで作られ、多くの人々に愛用されているクルマが、雪道性能に重点を置いて開発されるのは当たり前だろう。
そんなわけで、ボルボで真冬の北海道を走ってみたのである。試乗に供されたのは、V60クロスカントリーだ。DセグメントのステーションワゴンであるV60をベースに最低地上高を65mm引き上げて210mmとすることで悪路走破性を高め、バンパーやフェンダーに樹脂製プロテクターを追加することでSUVテイストを強調したモデルである。
こうしたステーションワゴンをベースとしたSUVモデルの利点は、オンロードでの基本性能や扱いやすさを犠牲にすることなく、プラスアルファの悪路走破性を得られることにある。その一方で、悪路走破性能そのものに限ってみれば当然ながら本格的なSUVやオフローダーには敵わない。
しかしながら、そんなステーションワゴン系SUVのなかにおいて、V60クロスカントリーはかなり本格オフローダー寄りのキャラクターを持っている。
たとえば最低地上高である。V60クロスカントリーは210mmだが、ライバルのアウディA4オールロードクワトロの170mm、VWパサート・オールトラックの160mmと比べると圧倒的に高い。背の高いSUV専用ボディのレクサスUXも160mmしかなく、スバル・アウトバックですら200mmだと聞けば、V60クロスカントリーの本気度がわかるというものだろう。
アプローチアングルは17.0度、ランプアングルは18.4度、デパーチャーアングルは22.8度で、これは一般的なドライバーが「クルマで行ける」と判断するほとんどの急坂や障壁をクリアする。これ以上の各アングルを必要とするような場面では、そもそも多くのドライバーはクルマで入り込むことを断念するだろう。クルマが音を上げる前にドライバーが参ってしまうのだ。
まずは一般道を常識的なペースでドライブする。今シーズンの北海道は暖冬の影響で雪が少なく、交通量の多い幹線道路ではアスファルトが露出している。そこで雪深い脇道や林道に果敢に突入していったのだが、少なくとも「道」の体を成していれば、V60クロスカントリーでは進退窮まるということはなかった……どころか、安心感がすこぶる高い。
V60クロスカントリーには第五世代のAOC(アクティブ・オンデマンド・カップリング)が採用されており、ドライ路面では実質的にフロントホイールにすべてのトルクを伝達することで燃費に貢献し、必要とあらば最大で50%のトルクをリヤホイールにも分配する。
その一方で、静止時には発進加速に備えてAWDの状態になっている。だから雪深さに躊躇して停止し、やはり行けると判断して再発進するといった場面で、タイヤの空転を感じることがほとんどない。雪道に慣れていないドライバーにとって、発進時のスリップのようなちょっとした緊張の蓄積は、やがて大きな疲労感につながる。
だがそれ以上にV60クロスカントリーのアドバンテージだと感じたのは、視点の高さや乗車姿勢に違和感がなく、普通のセダンやステーションワゴンと同じように操れることだ。平常心で運転できるから、自ずと安心感も高まる。
雪道で最も重要なのは高い悪路走破性能ではなく、いかにドライバーが落ち着いて運転できるかどうか、である。どんなに運動性能や動力性能が高くても、ドライバーが引き出せなければ宝の持ち腐れなのだから。
一般道での試乗を終え、今度はクローズドの特設コースを走る。
まずは30度はあろうかというバンクを走り、同じく30度から35度ほどの急坂を下りる。
写真をごらんいただければわかるとおり、徒歩でもまともに進めないような傾斜だが、V60クロスカントリーはあっけなくクリアする。うっすら見える筆者の緊張感に欠けた表情からも、その容易さがご想像いただけるはずだ。
雪道性能からは話がずれるが、急坂を下りる瞬間にまったく車体の腹を擦らなかったことに感心した。なにしろ坂に差し掛かる直前は路面がまったく見えず、特設コースでなければ絶対に進もうとは思わないほど急激に下り坂が始まるのである。前述の210mmの最低地上高と18.4度のランプアングルが活きた結果だ。
自動車メーカーの開発テストコースにあるような、左右交互に凹凸が設けられたモーグルコースもなにごともなかったかのようにクリア。運転している本人にとしては、まったくたいしたことをやっている感覚がなかったのだが、あとで写真を見てみると、気持ちいいほどにサスペンションが伸び縮みして車体をフラットに保っていることに感心させられた。
続いて、フラットなスペースで定常円旋回や全開加速からの急制動などを体験する。
ドライブモードを「コンフォート」から「ダイナミック」へ、ESCを通常モードから「ESCスポーツ」へ切り替える。普段だったら雪道では絶対にやらないが、ここはクローズドのテストコースなので……。
というわけでスウェディッシュラリーを頭に思い浮かべながらドリフトの真似事のようなことをやってみたのだが、ESCを完全オフにはできないにもかかわらずかなりのドリフトアングルを許容してくれる。上級者であれば綺麗なドリフトを維持することも可能らしい。
ボルボのイメージからして、これは意外だった。ちょっとしたスリップでもすぐに制御が入り、ヤンチャなお遊びは許してくれないような気がしていたからだ。
当然、ちゃんと制御はしてくれている。「ドリフトアングルを許容……」などとカッコつけて書いたが、もしもESCが完全にオフされていたらクルンッとスピンしていたはずだし、ヘタをすれば2〜3回転くらいして雪壁に激突していたかもしれない。
モダンでスポーティな最近のボルボのキャラクターは、ESCの制御にまで見て取れるのだ。
もちろん、通常モードであればちょっとでもスピンやスリップの兆候が出た瞬間に制御が入り、車両の姿勢を乱すことはないのでご安心を。
一方でボルボらしいと感じたのは、緊急時にシートベルトの締め上げるテンショナーの働きっぷりだ。
ドリフト状態に入ると緊急事態と判断してテンショナーが作動するのだが、最初は弛みを取る程度で、とくに驚くこともない。しかしそれでもドリフト状態を続けると、どんどん締め上げる強さが増し、最強状態になると、もう本当に痛い! そんなに締め上げなくても大丈夫だろって思うほど痛い。容赦ない。高校大学とアメフト部に所属し、柔道部の寒稽古にも参加していた───つまりボディコンタクトや絞め技には一定の耐性のある筆者がそう思うのだから、華奢な女性ではアザができるかもしれない。まぁ、ガラスを突き破って大怪我を負うよりもアザですんだほうが百万倍マシだ。V60クンありがとう。
もうひとつ感心させられたのが、エマージェンシーブレーキの存在だ。
これは電子制御式サイドブレーキのスイッチを引き上げ続けると、ABSを介入させながら素早く車両を止めてくれるもの。ドライバーに体調の異変などが起きた場合、助手席のパッセンジャーがクルマを停止させることができるのだ。作動中にドライバーが一定の強さでアクセルを踏み続ければ「運転できる状態に戻った」と判断されて解除される。
昔ながらの機械式サイドブレーキであれば、いざというときに助手席の人間が引くことができたが、最近の電子制御式サイドブレーキでもそれを可能としたのはボルボらしい。しかもABSを介入させながらの作動なので、雪道でも驚くほど短い距離で完全停止させることができた。
言うまでもなく雪道での運転にはリスクが伴う。長きに渡って安全性に注力し続け、なおかつ北欧生まれのボルボは、やはりこの分野において一日の長がある。ハードの優劣だけではなく、ドライバーが何を望んでいるか、そしてどうすれば安心して運転してもらえるのか、といったソフトの部分も含めての話である。
■ボルボ V60クロスカントリー T5 AWD Pro
全長×全幅×全高:4785×1895×1505mm
ホイールベース:2875mm
車両重量:1810kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:1968cc
ボア×ストローク:82.0×93.2mm
圧縮比:10.8
最高出力:187kW(254ps)/5500rpm
最大トルク:350Nm/1500-4800rpm
トランスミッション:8速AT
サスペンション形式:ⒻダブルウィッシュボーンⓇインテグラルアクスル
ブレーキ:ⒻベンチレーテッドディスクⓇディスク
タイヤサイズ:ⒻⓇ235/45R19
ホイールサイズ:ⒻⓇ8.0J×19
駆動方式(エンジン・駆動輪):F・AWD
ハンドル位置:右
乗車定員:5名
最小回転半径:5.7m
JC08モード燃費:11.6km/L
車両価格:664万円