ただ、疑問というほどのものではないにしても、なぜこのふたつの効能が連動しているのか、気になっている人は少なくないだろう。「アシストクラッチ」「スリッパークラッチ」ではなく、必ずアシスト機構とスリッパー機構がふたつセットになっているのだ。
その理由は、意外と簡単だ。
話の順番としては、スリッパー機構が先に来る。
まずは上の左の図をご覧いただきたい。右側の黄緑のクラッチ板がエンジン側で、左側の深緑のクラッチ板がホイール側だ。シフトダウン時に回転がうまく合わせられず、エンジンの回転スピードに対してホイールの回転スピード(つまりバイクそのものの速度)が速すぎる場合、ホイール側から強いバックトルクがエンジン側にかかる。
しかしエンジンはホイールの回転スピードに見合うだけの速度で回っていないわけで、強烈なエンジンブレーキが掛かり、ホイールがロックしたりチェーンが暴れたりしてしまうのだ。
ただしスリッパー構造の場合、お互いのクラッチの圧着面に断面が斜めになるような溝が刻まれており、ホイール側の速度が速すぎる場合にはズレるように力を逃がしてくれるのだ。
逆に加速時には、斜めの溝が食い込むように噛み合うため(上右図)、クラッチ同士を押さえつけるためのスプリングのレートを弱めることができる。だから結果的にクラッチ操作が軽くなるのだ。
つまり、もともとバックトルクを逃がすために考え出されたものが、結果的にクラッチ操作の負担軽減ももたらしたというわけだ。
このふたつの機能はライダーにとってとても有用で、いったん慣れてしまうとアシスト&スリッパーなしのクラッチには戻れない。数年前に1000ccや600ccクラスのスーパースポーツから導入されはじめたが、普及が進むにつれてコストも下がってきたのか、最近は250ccクラスでも珍しくない装備になってきている。複雑な機構や電子制御を必要とせずに大きな効果をもたらす、すばらしいシステムなのである。