REPORT◉田中哲也(TANAKA Tetsuya)
PHOTO◉益田和久(MASUDA Kazuhisa)
※本記事は『GENROQ』2020年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
速いレーシングカーに乗るときは前日からワクワクして夜中に何度も目が覚めてしまう。実は今回の鈴鹿サーキットテストの前夜も同様の感覚に襲われた。
僕は2013年、ニュルブルクリンクでGT-R NISMOの開発ドライバーを担当していたこともあり、このクルマに対する思いが人一倍強い。だからこそ2020年モデルがどれほどの進化を遂げているのか、興味が尽きなかった。
前置きはさておき、早速レポートすることにしよう。
クルマに乗り込むと、まずはシートの進化を感じた。新開発となるカーボンシェルの専用レカロシートはホールド性に優れ、剛性感が向上している。走行前は少し座面の硬さを感じたが実際に走ってみるとまったく気にならなくなった。3点式シートベルトで鈴鹿を走っても体がしっかりホールドされるのでドライビングに集中することができる。600㎰クラスのマシンをハイスピードでドライブするにあたって、シートは非常に重要なポイントである。
注目の走りは期待以上の進化を遂げていたことに驚かされた。
コーナリングでは4輪すべてのメカニカルグリップが高くなっている。新たなセッティングが施された電子制御サスペンションは、荷重変化に対しての動きがしっとりしていて、縮み側も伸び側も非常にスムーズな動きをみせた。前後ピッチングだけでなく左右のロールもうまく抑制されており、4輪のグリップを最大限に引き出している印象だ。新開発のハイグリップゴムを採用したダンロップ製SPスポーツマックスと足まわりのバランスが良く、リヤのグリップやスタビリティも高い。特に鈴鹿のS字コーナーは切り返しもスムーズでコーナリングを楽しむことができた。低速コーナーでは立ち上がりのトラクションがレベルアップしていたのも印象深い。
2020年モデルは軽量化も走りに大きな影響を与えている。レースで培ったノウハウを注入したというカーボン製のルーフやエンジンフード、フロントフェンダーを採用したことで約10.5㎏の軽量化を実現したという。その効果ははっきりと体感できた。まるでクルマ全体が低重心になったかのようにコーナリングの姿勢が安定しており、ボディの軽さをはっきりと感じた。軽量化がもたらす恩恵はすこぶる大きい。
また世界トップレベルの制動性能を誇るというカーボンセラミックブレーキは、連続周回を重ねてもバイト感、ペダルタッチともに安定している。サーキット走行において非常に安心感のあるブレーキシステムに仕上がっていた。
2020年モデルのGT-R NISMOのコーナリング性能はこれほどまでに素晴らしくポテンシャルアップしている。だが、鈴鹿をより速く走るためにはダンロップやスプーンコーナー手前の全開でいく緩やかなハイスピードコーナーでのアンダーステアが少し抑制されれば、さらなる速さを体得できると思った。
そして忘れてはならないのが600㎰を発生する3.8ℓV6 VR38型エンジンの大幅な進化だ。ブレードの薄肉化&翼枚数削減したIHI製の専用GT3タービンを新たに採用したことで、低回転からのアクセルワークに対する反応が良くなり、気持ちのよいアクセルワークを楽しめる。高回転域もとてもパワフルだった。
すべての領域において進化を遂げた2020年モデルのGT-R NISMOだが、そのレベルの高さゆえ贅沢な悩みも出てきた。それはシャシー性能が向上したことで、さらなるエンジンパワーが欲しくなったことだ。誤解してほしくないが2020年モデルは非常に速く、非の打ち所がない走りを鈴鹿で披露してくれた。だが特に僕のようなレーシングドライバーはコーナリング性能が上がれば上がるほど「もっとパワーが欲しい」と感じてしまう。
つまりそう感じさせるほど全体のバランスが上がったスーパーマシンに仕上がっている。2020年モデルでニュルブルクリンクをタイムアタックをしたら、どんなタイムを刻むのだろうか? 非常に楽しみだ。
SPECIFICATIONS 日産GT-R NISMO
■ボディサイズ:全長4690×全幅1895×全高1370㎜ ホイールベース:2780㎜
■車両重量:1720㎏
■エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ 総排気量:3799㏄ 最高出力:441kW(600㎰)/6800rpm 最大トルク:652Nm(66.5㎏m)/3600~5600rpm
■トランスミッション:6速DCT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ255/40ZRF20 Ⓡ285/35ZRF20
■車両本体価格:2420万円