前回はCBR1000RR-Rのエンジンについて紹介したが、今回は車体に関してお伝えしていこう。エンジンとともに一新された車体まわりは、MotoGPマシンからのフィードバックもあり、今までのCBR1000RRとは全く違うものとなっている。今回も開発者の方のインタビューを交えて紹介していこう。




REPORT●山下博央(YAMASHITA Hirohisa)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)/株式会社ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダCBR1000RR-R FIREBLADE SP/CBR1000RR-R FIREBLADE

ハイパワーを受け止める車体も大きく進化

 鈴鹿サーキットで行われた新型CBR1000RR-R(以下RR-R)の記者発表会でその全容が明らかとなったが、今回は車体まわりについて紹介していこう。車体まわりに関しては、RR-Rの開発に携わった本田技術工業株式会社、二輪事業部ものづくりセンターの石川譲さん(完成車開発部 完成車統括課 課長)に話を伺うことができた。




筆者:RR-Rのコンセプトはかなりトラック、サーキットを意識したものとなり、エンジンはかなりハイパワーなものになっていますが、車体も当然大きく変わっていると思いますが、そのあたりはどうなっていますか。




石川譲さん(以下石川さん):“Total Control”for the TrackというRR-Rのコンセプトに沿って、車体諸元はレーサーを参考にしてホイールベースを伸ばして重心を高くしています。車体全体の剛性に関しては、適度なしなやかさを持たせてバランスさせています。どういうことかというと、RR-Rではスリックタイヤの装着までを見据え、スタートや加速時など、出力を掛けて走るシチュエーションで、フレームがパワーに負けてしまうと安定して走ることができませんので縦剛性は高めています。しかし、フレーム全体の剛性を上げ過ぎてしまうと、手ごたえが感じられないため、フレームの横剛性をダウンさせてしなやかさを持たせているのです。

RR-Rの車体に関しては、本田技術工業株式会社、二輪事業部ものづくりセンターの石川譲さん(完成車開発部 完成車統括課)にお伺いした。

こちらがRR-Rの車体ディメンション図となるが、ホイールベースは前モデルのCBR1000RRが1,405mmだったのに対し、RR-Rでは1,455mmと伸ばされている。スイングアーム長は622.7mmと長くなり、キャスター角は24°、トレールを102mmに設定しており、CBR1000RRよりキャスター、トレール量より増やし、セルフステアが働きやすくすることで安定性を向上させている。

筆者(身長177cm、体重70kg)が実際にまたがった状態がこちらとなる。シート高は830mmでCBR1000RRより10mm上がっているが、両足のかかとまで着いた状態で車体を支えられた。ポジションはハンドルが低くかなりレーシーなポジションとなる。ステップ位置がここ最近のスーパースポーツとは違い後方かつ上方となっているが、これは深いバンク姿勢での操作性を考慮したものだという。

筆者:車体諸元はレーサーを参考にしているとのことですが、それはRC213VやRC213V-Sなどのことになりますか。また、スリックタイヤの装着までを見据えているのはなぜですか。




石川さん:そう思ってもらっていいと思います。また、スリックタイヤへの対応は世界的にみて、最近のロードレースでは市販車の状態から最低限度の改造でレースを行うストッククラスが中心となっています。2019年からはアジアロードレース選手権シリーズでもASB1000クラスが始まりましたが、これもタイヤはスリックタイヤを装着していますが、マシンに関してはほぼストックです。そのため、ストックは市販車の状態でのポテンシャルがとても重要になります。




筆者:スイングアームは伸ばされているためか、かなり変わっている印象を受けますが、どのように変わっているのでしょうか。また、メインフレームはどのようになっているのでしょうか。




石川さん。スイングアーム長がかなり長くなったことで剛性を保つことが難しくなり、必要な剛性を持たせるためには重量が重くなってしまいます。そのため、RR-Rではそれまでの鋳造から、RC213V-Sと同じようにアルミプレス製としています。これは板厚の異なる18ピースから構成しており、縦剛性をキープしたまま、横剛性を15%ダウンさせて剛性バランスを適正化しています。これにより前モデルのCBR1000RR同等のスイングアーム重量となっています。


フレームは高精度な剛性チューニングを可能にするためにGDC製法を採用して軽量なアルミ製ダイヤモンドフレームとしています。こちらもRR-Rのパワーに負けないよう、縦剛性は18%、ねじれ剛性を9%アップさせています。横剛性は11%ダウンさせていますが、これらのバランスにより狙いとする運動性能を実現しています。

前モデルのCBR1000RRとRR-Rの実車で比較してみると、ホイールベースがRR-Rで距離が広がっているのが分かる。その中でもスイングアームの長さが目立つ形となっている。
CBR1000RR-R


こちらはそれぞれの車体を前方から撮影したもの。RR-Rはアッパーカウルが横に大きくなりウイングレットがあることで少しずんぐりして見える。全幅はハンドル絞り角がひらいているためRR-Rがわずかに広い。
CBR1000RR-R


筆者:車体まわりではウイングレットなども特徴となりますが、これは市販車でも必要なものなのでしょうか。




石川さん:RR-Rのコンセプトからしても、ウイングレットありきで開発は進めてきました。RR-Rはエンジンパワーを上げているのでウイリーしやすくなりますが、これを電子制御で抑えようとするとパワーを落とす形となってしまいます。パワーダウンせずにウイリー抑制を目的としたときにウイングレットは有効で、これはモトGPでも証明されています。ただ、ウイリー抑制を目的としていましたが、開発段階ではテストライダーからのコメントで、コーナリング中のフロントの接地感が上がっているというのが多く、その点も踏まえて開発を行ってきました。減速時の車体安定性の向上にも効果的であり、一般ライダーの方にもサーキット走行でその効果を体感していただけると思っています。

RR-Rの外観上の特徴となっているウイングレットは空気抵抗となる前面投影面積の拡大を抑え、かつ突起物とならない形態としている。ウイングレット内の3枚のウイングでダウンフォースを発生させてウイリーを抑制し、ブレーキングやコーナー進入時の車体姿勢の安定化にも貢献する。


足まわりも充実の装備

 RR-Rでは足まわりも最新のテクノロジーが投入されており、RR-RではフロントサスペンションがSHOWA BRFサスペンション、リアサスペンションはSHOWA BFRC-liteを採用し、バネ下重量軽減に寄与している。なお、RR-R SPではフロントサスペンションがOHLINS電子制御NPXフロントフォーク、リアサスペンションに電子制御TTX36リアサスペンションが採用されている。フロントサスペンションは前モデルのCBR1000RR SPのNIXフロントフォークに加圧ダンピングシステムが追加されており、サーキット走行における安定した減衰力とバンプ吸収性を向上させている。なお、RR-R SPでは第2世代となるOHLINS Smart ECが採用され、メーターパネル上でよりきめ細かいセッティングを可能としている。


 タイヤ、ホイールではホイールは新設計のもので、サーキット走行での必要な剛性は確保しながらハブ形状を見直して軽量化を行っている。タイヤではリアタイヤに200/55/ZR17M/Cを標準で装備し、レース用タイヤへの交換による車体姿勢変化を最低限に抑えている。ブレーキはフロントブレーキディスク径をØ330mmの大径ディスクを採用し、制動力をアップさせている。フロントブレーキキャリパーはRR-Rが新設計のNISSIN製対向4ポットラジアルマウントタイプを採用。RR-R SPはBREMBO製STYLEMAとなる。リアブレーキキャリパーはRR-R、RR-R SPともにRC213V-Sで採用されたBREMBO製としている。


 エンジン、車体、そして足まわりと大幅なポテンシャルアップが図られているRR-RとRR-R SP。気になる国内販売の開始時期や価格はまだ発表されていないが、UKホンダのサイト上にはすでに価格が掲載されており、これによるとCBR1000RR-R SPで£23499(単位はポンド)となっている。それを12月26日現在の為替(1ポンド=141.64)で計算すると333万円となっている。あくまでこれは海外での販売価格となり、さらにRR-R SPとなるが、果たして国内での販売価格も近い値にになるのだろうか。



新設計のフレームは高度な剛性チューニングを可能とする薄肉GDC製法が採用されている。肉厚を最低2mmに成型したアルミ製ダイヤモンドフレームとなっている(写真はCGイメージ)。

リアサスペンションはCBR1000RRのユニットプロリンクからプロリンクに変更されたが、リアショック上側はブラケットを介してエンジンブロック後部に締結する構造がとられた。

RR-RはフロントフォークがSHOWAのBRFサスペンションとなる。ブレーキはØ330mm、5mm厚の大径ディスクローターにNISSIN製ラジアルマウントキャリパーの組み合わせだ。

RR-RではSHOWA BFRC-liteをリアサスペンションに採用する。伸側、圧側の減衰調整が可能となるが、かなり奥まったところにあるため、専用の工具が必要になりそうだ。

RR-R SPでは加圧ダンピングシステムが新たに追加されたOHLINS電子制御NPXフロントフォークが採用されている。フロントブレーキキャリパーはBREMBOのSTYLEMAとなっている。

リアサスペンションは電子制御TTX36リアサスペンションが搭載される。細かなサスペンションのセッティングはメーターパネルで変更を行うことができる。

RR-R SPではフルカラーのTFTメーターでOHLINS Smart ECを使ってメーターパネル上でよりきめ細かいセッティングを可能としている。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ホンダCBR1000RR-Rにさっそく跨ってみた。|車体性能の詳密解説と価格予測