REPORT●山下博央(YAMASHITA Hirohisa)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)/株式会社ホンダモーターサイクルジャパン
ホンダのCBR1000RRはスポーティな走行も楽しめるスーパースポーツモデルとして人気を博してきたモデルである。1992年に登場したCBR900RRから発展し、2004年には排気量を1000ccへとアップ。さらに当時のホンダのMotoGPマシン、RC211Vのレプリカとしてセンターアップマフラーやユニットリンクサスなどが採用され、よりレーシーな外観となった。もちろん、CBR1000RRは一般公道を走れるバイクであるため、街乗りやツーリングなどでの扱いやすさ、使いやすさとの両立も図られていた。しかし、新型となったCBR10000RR-Rは秘められた性能を存分に引き出せるよう、保安部品は装備しつつもサーキットで本領を発揮するマシンへと生まれ変わっているのだ。
CBR1000RR-R(以下RR-R)では、エンジン、フレームともに一新されているが、外観でひときわ目を引くのはアッパーカウル下に設けられた“ウイングレット”であろう。これはMotoGPマシンで使われるようになり一時話題となったが、主な目的としてはウイングによりダウンフォースを発生させて、発進時やコーナー立ち上がりなどの加速時に起こるウイリーを抑制することにある。また、フロントを路面に押し付ける働きもあり、ブレーキング時やコーナー進入時などの車体姿勢の安定化にも大きく寄与しているのだ。最近のバイクでは電子制御によりウイリーの抑制も行うことができるが、この場合は電気的に出力をコントロールするために一時的に出力が低下してしまうことにもなる。1秒を争うレースでは出力低下は避けたいものであり、そのためウイングレットが用いられるようになった。
カウリングに関しては新たにヘッドライトの間に大きなラムエアダクトが設けられているのがCBR1000RRと大きく異なる。このラムエアダクトは走行時にエアクリーナーにエアを効率的に導入するものであり、最も効率のいいアッパーカウル先端に設けられた。さらにRR-Rでは開口部の面積はMotoGPマシンのRC213Vと同等で、空気の圧力を保つために入口からフレームのヘッドパイプ、エアクリーナーまでをストレート化。これを実現するために、RR-Rでは従来のトップブリッジにあったキーシリンダーを排除し、クルマで用いられているようなスマートキー、Honda SMART Keyシステムを採用している。
そして、RR-Rで驚くべきはカウルに隠れたエンジンのスペックである。エンジンの形式自体は前モデルのCBR1000RRと同じ水冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒だが、そのボア×ストロークは81mm×48.5mmのビッグボア×ショートストロークとなり、高出力型エンジンとなっている。最高出力は160kw/14,500rpmとなっているが、これを馬力に換算すると、なんと217.5PSとなり、国内4メーカーの1000ccスーパースポーツモデルではダントツのトップパワーとなる。
エンジンに関してはこのほかにもフィンガーフォロワーロッカーアームや、セミカムギアトレインシステムなど、新しいテクノロジーが投入されているが、これらについては改めて紹介していく。
車体はCBR1000RRと見比べるとホイールベースが長くなっていることに気づく。これは加速時の車体安定性を向上させる狙いでホイールベースを1,455mm伸ばしている。エンジン自体は前後長が短くなっており、これは車体の搭載位置の自由度を上げる狙いもあり、RR-RではCBR1000RRより、エンジン搭載位置を車体中心位置近くに移動し、前後輪分担荷重を理想的な50:50を実現している。また、キャスター角は24°、トレールを102mmに設定し、CBR1000RRよりキャスター、トレール量を増やしてセルフステアが働きやすくし、安定性を向上させている。
フレームはもちろん新設計となり、高精度な剛性チューニングを可能とするために薄肉GDC製法を採用し、もっとも薄いところで肉厚最低2mmに成型した軽量アルミダイヤモンドフレームとなっている。CBR1000RRと比較すると、フレーム剛性は縦剛性を18%、ねじれ剛性を9%アップさせて、横剛性は11%ダウンさせている。これらによりRR-Rのハイパワーを効率よく路面に伝えるとともに減速時の荷重にも耐える剛性としている。スイングアームはCBR1000RRよりスイングアーム長を30.5mm延長し、縦剛性を維持しながら横剛性を15%ダウンさせスイングアーム全体の剛性バランスを見直している。フレーム、スイングアームともに横剛性をダウンさせているが、これは旋回性をアップさせる狙いもある。RR-Rのハイパワーをしっかりと受け止めるよう縦剛性はアップさせ、コーナリング時はタイヤのグリップを活かして旋回性を上げられるように横剛性をダウンさせているのだ。なお、スイングアームの製法はRC213V-S同様のアルミプレス製となり、全18ピースからなる部位ごとに異なる板厚設定がされている。これにより長くなったスイングアームの剛性を確保しつつ、重量増を抑えているのだ。
前後サスペンションは、RR-Rが前後SHOWA製で、フロントサスペンションがSHOWA BPFを、リアサスペンションにはSHOWA BFRC-liteを採用。そして、RR-R SPでは、OHLINS製の電子制御NPXフロントフォークと電子制御TTX36リアサスペンションが採用させている。RR-R SPは第2世代となるOHLINS Smart ECが採用され、ユーザーによる調整を可能とするとともに、よりきめ細かく設定できるようにしている。ブレーキはフロントブレーキディスク径をφ330mmとして制動力の向上を図り、厚みを5mmとして放熱性をアップさせている。ブレーキキャリパーはRR-RがNISSIN製の対向4ポットラジアルマウントキャリパーを採用し、リアブレーキキャリパーはRC213V-Sと同じBREMBO製を採用している。なお、RR-RはフロントブレーキキャリパーにBREMBO STYLEMAを採用するとともに、ブレーキレバーもBREMBO製となっている。
前モデルのCBR1000RRから充実した電子制御関係もRR-Rではさらに進化している。制御関係はフルカラーのTFTメーターや左ハンドルのモードスイッチ操作などで、3つのライディングモードの選択が可能となるが、それぞれでパワー、エンジンブレーキ、そしてトラクションコントロールとなるHondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)の個別調整が可能となる。このほかにもステアリングダンパーやウイリー挙動制御、クイックシフター、ABS、さらにレースで効果を発揮するスタートモード制御まで装備され、これらの調整も可能となっている。また、RR-R SPではさらに前後サスペンションの減衰特性の変更も行える。かなり細かい設定が可能となるが、はじめのうちはライディングモードの切り替えだけでも十二分に楽しめそうだ。なお、スロットルはワイヤーを介さない電気式のスロットルバイワイヤシステム(TBW)を採用している。
現時点で発売時期や車両価格などに関しては正式なアナウンスはないが、劇的な進化を遂げたCBR1000RR-Rの登場は2020年の大きな話題となることは間違いないだろう。
●ホンダ CBR1000RR-R FIREBLADE/SP 主要スペック
エンジン:水冷4ストローク16バルブDOHCインライン4
排気量:999cc
ボアストローク:81mm x 48.5mm
圧縮比:13.0
最大出力:160Kw(217.5PS)/14,500rpm
最大トルク:113Nm(11.5kgf・m)/12,500rpm
オイル容量:4.0L
燃料システム:PGM-DSFI
燃料タンク容量:16.1L
燃費:16.0km /リットル
バッテリー容量:12-6 YTZ7S/12-2リチウムイオン
クラッチタイプ:アシストスリッパー・湿式マルチプレート油圧クラッチ
ミッション:6速
フレーム:アルミニウム複合材ツイン
全長x全幅x全高:2100mmx745mmx1140mm
ホイールベース:1455mm
キャスター角:24°
トレール:102mm
シート高:830mm
最低地上高:115mm
車両重量:201kg
フロントサスペンション:Showa BPF/オーリンズ NPX Smart-EC
リヤサスペンション:Showa BFRC lite/オーリンズTTX36 Smart-EC
フロントホイール:17インチx 3.5
リヤホイール:17インチx 6.0
フロントタイヤ:120 / 70-ZR17(ブリヂストンRS11/ピレリディアブロスーパーコルサSP)
リヤタイヤ:200 / 55-ZR17(ブリヂストンRS11/ピレリディアブロスーパーコルサSP)
ブレーキ:ABSシステムタイプ(2チャンネル)
フロントブレーキ:NISSIN 4ピストンキャリパー・330mmディスク/BREMBO4ピストンキャリパー・330mmディスク
リヤブレーキ:ブレンボ製2ピストンキャリパー・220mmディスク
ヘッドライト:LED
テールライト:LED