過去にその区役所で1台くらいラビットを登録して乗っている人がいるかと思っていた。ところが大きな誤算で、実に数年前まで遡ってもラビットのラの字も出てこないというのだ。役所では原付のデータをコンピューターに入力しているようだが、以前の手書き時代から移行する時にラビットの登録者がいなかったのだろう。「ええと、どこのバイクですか?」と聞かれ「今はスバルと名乗ってますが、製造時は富士重工業でした」と答える。それでも担当者は「?」という顔を崩さない。スバルがバイクを作っていたこと自体、忘れ去られているのだ。と言っても担当者は筆者より上の世代。それでも、こんな調子だったので、ラビットをこれから登録しようとするのであれば、事前に資料を持参するなど対策を練ることをオススメする。
何度か富士重工業が1960年代までバイクを作っていたことを説明し、わからないまま「スバルのバイクですね」と担当者も納得してくれた。と思ったのだが、席を立った担当者はしばらく戻らない。どうやらネットか何かで調べていたようだ。10分ほどして戻ってくると「分かりました、当時の富士重なんですね」と。普段ならナンバーの交付に30分もかからないのだが、今回は1時間弱もかかってしまった。
調子を取り戻したラビットを走らせるには、まずバッテリーを用意しなければならない。古いバイクなので6Vなのかと思うが、実は12V仕様。面白いのは6Vバッテリーを2つ並列に繋いで12Vにしている点だ。指定バッテリーはパーツリストによると「6V-11AH」というもの。品番で検索すると確かに存在するし現在でも購入可能。ただし、その値段は安価なはずのネット通販でも2万円を超える。うむむ、高い……
ということで別の方法を検索すると、ラビットのバッテリー置き場にジャストなサイズで、かつ12Vバッテリー1つにしてしまう方法が見つかる。これだとばかりにバッテリーを探すと、台湾ユアサで製造している「YTX7L-BS」がちょうどいいらしい。これならネット通販で4000円以内。納得である。
恐る恐るバッテリーをコードに繋ぎ、セルスイッチを押す。するとセルダイナモ特有の静かな回転音とともにエンジンは目覚めてくれた。灯火類も正常に作動している。これでまともに路上へ繰り出せるというもの。
ところでこのバッテリー、フレームに固定するため純正でゴムバンドを採用している。ラビットを手に入れた時点でそんなバンドなくなっている。というわけで、フレームにあるフック状の場所に収まる割りピンと市販のゴムを組み合わせてバンドを自作している。
走り出すと、とても遅い。125ccクラスとしてはダントツに遅く、今の路上では50ccの原付でも遅い部類に入るくらいの出足の悪さ。ということで流れの速い幹線道路では後のクルマが強引に抜いていくことも多いので、注意が必要。だが、一度速度が乗ってしまうとソコソコに加速する。だから幹線道路でも走行中は普通にクルマの流れに乗っていける。これはトルコン仕様のためで、3速モデルならもう少しマシだろう。
気になるのは「何キロくらい出るの?」だろう。明確に記すことは控えるが、法定速度を数割超えるくらいは出る。だから実用上不便だと感じるのは信号スタートくらい。そして特筆できるのが直進安定性の高さと乗り心地の良さだ。ラビットは大柄な車体のほとんどが鉄でできているので重い。そのため加速や出足が悪いのだが、ホイールベースが長いので直進性に優れている。これは最高速近く出しても不安を感じないくらい素晴らしいもので、基本設計の良さを感じられるところ。
そして特筆すべきもうひとつは、乗り心地の良さ。ホンワカしたクッション性を備えているので、路面状態の良い道を走っていると快適そのもの。路面が荒れているとガタピシいうのだが、それでもソフトな足回りは変わらない。またシートがブ厚いのでお尻が痛くならないことも美点。全バラにしたラビットだがシートだけは手に入れた時のまま。それなのに、だ。ブ厚いので足つき性を悪くしているのだが、そんなことよりお尻が痛くならないことを評価したい。乗り手に優しいバイクがラビットなのだ。