REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●平野陽(HIRANO Akio)/トヨタ自動車
新型スープラはBMW Z4と多くのコンポーネンツを共用するため全長が140mm短くなり(全幅は55mm、全高は15mm拡大)、これまでの2+2から完全2シーターに。ホイールベースは70mm、86に対しては100mm短い2470mmとされ、ホイールベース/トレッド比1.55という回頭性重視のパッケージングが与えられている。
これを聞いた私は、実際に試乗するまで、ひとつの大きな懸念を抱いていた。「歴代スープラが持ち味としていたGT性能が、大幅に損なわれているのではないか」と。
今回は日産フェアレディZ 50thアニバーサリーを常に伴っての走行だった(両者の実燃費は下記記事参照)ため、往路は新東名高速道路の清水PAでMotor-Fan小泉編集長と車両を交換。東名阪自動車道・亀山ICまでの高速道路区間を試乗したが、新静岡IC~森掛川ICの制限速度120km/h区間でも、不安定になる気配は皆無。
86の2.5倍に達し、CFRP(炭素繊維強化樹脂)を多用するレクサスLFAをも凌ぐというボディ剛性は伊達ではなく、大きなギャップを乗り越えてもミシリと言う気配をまったく感じさせず、何事もなかったかのように車体の上下動を一発で収束させた。
また、ボディ形状そのものからリフトの発生を抑えることに特化してエクステリアデザインを開発したという、カタログの謳い文句も決して大袈裟ではないらしく、フロントの接地感が希薄になり、直進性が怪しくなる兆候も見られなかった。この点ではむしろ、パッケージング上の不利を補って余りある次元で、先代よりも大きく進化したと言えるだろう。
亀山ICを降りた後も引き続きスープラに乗り続け、いよいよワインディング、鈴鹿峠へ。ここは片側二車線の区間が大半を占める珍しい構造で、またそれ故に中高速コーナー主体となっているのだが、ここでの新型スープラはまさに「水を得た魚」だった。
ボディ剛性の高さと重心の低さ、ホイールベース・トレッド比の低さはここで遺憾なく発揮され、絶対的なグリップ限界が高いのは言うに及ばず、ステアリングやペダルの操作に対し、クルマが極めてレスポンス良くリニアに反応してくれる。また旋回中に大きなギャップを乗り越えてバウンドしても、素早く一回で車体の動きが収束するため、絶大な安心感を持ってコーナーに飛び込めるのだ。
なお、RZグレードには電子制御ダンパーやアクティブディファレンシャルが標準装備されているのだが、その制御に違和感を覚えることはなく、むしろ黒子に徹している印象。また、ドライビングモードを「SPORT」に切り替えても変化の幅は大きすぎず、サスペンションの硬さ、ステアリングの重さ、アクセルレスポンス、ATの変速頻度とも、ほど良くスポーティになる程度だ。
しかもATは、アクセルペダルの踏み込み量が少ない時は標準モードと同様にシフトアップを積極的に行うため、「SPORT」モードのままゆっくり走ってもエンジンノイズは少ない。燃費への悪影響も最小限に抑えられるだろう。無論マニュアルモードも実装されているため、MT車と同様に任意のギヤとエンジン回転数を選んで走ることは可能だが、これだけATの制御が賢ければ、敢えてマニュアルモードを使う必要もないように思えた。
その後は東海道にあって唯一、江戸時代の情緒を色濃く残す宿場町、関宿へ。40km/h以下の低速域で走ることが多く、かつ大きな凹凸に加えひび割れた路面も多かったこの区間では、それまでの印象がガラリと変わる。突き上げやフロアの振動が明確に強まるのは、中高速域での安定性を考えれば納得できるレベルではあるものの、同じような粗粒路を走ってもロードノイズが高速域よりむしろ大きく感じられた。
高速域では空気の流れでロードノイズを打ち消しているものと思われるが、いずれにせよ低速域での快適性は決して高くはなく、この点では先代よりも後退しているのが残念に思えてならない。
また、外観上は大きく盛り上がっているように見えるフロントフェンダーも、運転席から覗くと思いのほか平坦で、前輪の位置と左右の幅を掴みやすくする形状には決してなっていない。この点は先代スープラも同様だったのだが、全幅が55mm拡大されたうえダッシュボードが高く、またガラスエリアも小さくなった影響で、関宿の狭い道で対向車とすれ違うのは決して容易ではなかった。
翌日の帰路はとんでもない豪雨に見舞われた。限りなく50:50に近い前後重量配分と短いホイールベース、そしてフロント255/35ZR19・リヤ275/35ZR19というファットなタイヤを履いているのだから、深い轍や水たまりでは80km/h程度でもハイドロプレーニングに注意する必要があるだろう。また、斜め後方の死角が大きいため、ドアミラーやルームミラーを頼れないこうした状況では、車線変更の際に少なからず気を遣う必要があった。
そろそろ結論に入ろう。新型スープラRZは、ピュアスポーツカーの運動性能とコントロール性、GTの高速巡航時の快適性を兼ね備えた、ドライビングマシーンである。
見た目はこの上なく自己主張が激しいものの、走りや運転環境においてピーキーで気に障る点は少なく、ドライバーが余計なことを気にせず運転に集中できる環境が極めて高い純度で整えられている。
新型スープラRZの車両本体価格は700万円を超えており、頑張れば若者でも何とか手に届くような価格帯では、最早なくなっている。だがその価格相応以上の価値があることに、疑いの余地はない。
【Specifications】
<トヨタ・スープラRZ(FR・8速AT)>
全長×全幅×全高:4380×1865×1290mm ホイールベース:2470mm 車両重量:1520kg エンジン形式:直列6気筒DOHCターボ 排気量:2997cc ボア×ストローク:82.0×94.6mm 最高出力:250kW(340ps)/5000rpm 最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1600-4500rpm WLTC総合モード燃費:12.2km/L 車両価格:702万7778円