2019年12月23日、名機EJ20を搭載したスバルWRX-STIの注文受け付けが終了する。そこでMotor-Fan.jpでは、結果的に最終モデルとなった現行WRX STIを振り返る短期連載をお届けする。第四回は、世界の揚力ライバルとの比較試乗だ。




REPORT●高平 高輝(TAKAHIRA Koki)


PHOTO●中野 幸次(NAKANO Koji)/平野 陽(HIRANO Akio)




※本稿は2017年7月発売の「新型WRX STIのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。

 1990年代初頭、グループAラリーカーによる世界ラリー選手権(WRC)華やかなりし頃は、日本からターボ4WDのスポーツモデルが大挙参戦し、互いに覇を競ったものである。スバルがまずレガシィRSで、続いてインプレッサWRXでWRCに本格参戦したのもちょうどその頃。まもなくチャンピオンシップを獲得し、ラリーの世界で確固たる地位を築き上げたのはご存知の通りである。だが時代は流れて、今やハイパフォーマンスを追求している日本車はほとんど見当たらず、スバルが孤軍奮闘しているのが実情だ。




 日本勢はミニバンやハイブリッドに流れ、本格的なスポーツカーから手を引いたため、ライバルといっても輸入車にしか見当たらない。そこで、価格差があるのは承知のうえで、それぞれに個性が際立つ有名ブランドの2,0ℓターボ4WDを相手に指名した。スバルにとっては最初から苦しい勝負かと思いきや、実は意外にそうでもない。

今どきの“指名リスト”は昔と違う

 値段が倍も違うクルマとの比較が確かにフェアではないことにいささか気が引けるが、実際にはドイツ車からスバルに乗り換えるユーザーも存在するという。反対に、近頃ではかつてランサー・エボリューションやインプレッサWRXを所有していたカスタマーが、メルセデスAMGに買い替えたという話をインポーターから聞いたこともある。個性的な高性能モデルを、いわば「指名買い」する顧客にとって、ある程度の価格差はそれほど大きな問題ではなく、それよりも自分たちが重視する条件を満たしたモデルを考える時、スバルWRX STIやS4はもはや有名輸入ブランドと当たり前に並べて検討する車なのかもしれない。新しいWRX STIとS4がより大人向けに、洗練された方向へ改良されたのは、そのあたりの環境の変化を感じ取ったともいえる。宿命のライバルだったランエボはもういないが、代わりに新たな手強い競争相手に挑まなければならないというわけだ。




 小型ハッチバックの代名詞であるVWゴルフは、現行モデルで7世代目を数えるが、つい先日ビッグマイナーチェンジを受けたばかりで、通称「ゴルフ7.5」というらしい。その最強版がゴルフRである。「R」もスタンダードモデル同様、フルデジタル式のメーターや最新のインフォテインメントシステムを採用したうえに、エンジン出力が強化されている。ゴルフRに搭載される2ℓ・4気筒直噴ターボは、従来型に比べて30㎰と、約2㎏m増しの310㎰/5500〜6500rpm、40.8㎏m/2000〜5400rpmを発生、さらにデュアルクラッチ式DSGはこれまでの6段から7段に進化している。ゴルフ一族最強のパワーを受け止めるために「R」はハルデックス・カップリングを使った4WDシステム(4モーション)を装備、加えて可変ダンパーや電子制御ディファレンシャルロックの「XDS」など電子制御技術満載のトップモデルである。




 ボディ形状はハッチバックとステーションワゴンのバリアントがあり、ハッチバックには最近めずらしい6速MT仕様もラインナップされている。今回は都合でバリアントを採り上げたが、VWゴルフRバリアントの価格は569.9万円、ハッチバックのほうは559万円である(ともに7段DSG)。

 一方のメルセデスAMG CLA45 4マチックは、メルセデスで最もコンパクトなFWDハッチバックであるAクラスをベースしたCLAクラスのAMG版である。メルセデスはそのスタイルゆえにCLAをクーペと称しているが、実際は4枚ドアを持つFWDのセダンであり、そのステーションワゴン版は「シューティングブレーク」と呼ばれている。




 なかでもAMG CLA45は、いまではダイムラー・ベンツのグループ会社のメルセデスAMG社が開発した特別なシリーズで、シューティングブレーク版もある。かつてはCクラスセダン/ワゴンまでしかAMGモデルが存在しなかったが、今やAクラスやコンパクトSUVのGLAクラス、そしてこのCLAクラスなどAMGモデルの数がいっぺんに増えたために分かりにくくなってしまった。CLAが積む2.0ℓ 4気筒直噴ターボは、鍛造ピストンやツインスクロールターボ、ナノスライド加工シリンダー(シリンダーウォールにカーボンスチール材をプラズマ溶射してコーティング)などの贅沢なパーツを採用し、エンジンカバーに組み上げたクラフツマンの名前を刻んだプレートを誇らしげに貼り付けたAMGユニット。381㎰/6000rpmと48.4㎏m/2250〜5000rpmを生み出し、量産型4気筒ターボユニットとしては世界一パワフルなエンジンと豪語する。




 CLA45も4マチックと称する4WDのみの設定、横置きFFベースなので電子制御カップリングによるものだ。変速機はAMGスピードシフトDCTと呼ぶ7段デュアルクラッチトランスミッションである。車両価格は773万円、AMGアドバンストパッケージ(AMGパフォーマンスシートやフロントアクスルデフロック、エグゾーストシステムなどで90万円)とパノラミックスライディングルーフ(16万円)が備わり、総額では879万円に達する。これはもうアッパーミドルのEクラスが十分に手に入る値段である。

WRXは2機種用意されるが、装備の有無による差だけで、エンジン1種、トランスミッション1種と、メカ面での違いはいっさいない。EJ20エンジンは1989年の初代レガシィで登場し、内外に改良・変更を受けながら30年近く続いている型式だ

水平対向4気筒DOHCターボ/1994㏄


308㎰/6400rpm


43.0㎏m/4400rpm


JC08モード燃費:9.4㎞/ℓ


車両本体価格:386万6400円

4WDに対する姿勢の違い

 というわけで、全車一応フルタイム4WDではあるが、基本的にVWとメルセデスはFWDのスタンダードモデルが先にあっての4WDであり、4WD専業メーカーといってもいいスバルが生み出す4WDモデルとは最初からちょっと違う。しかもWRXはスバルの中でも特別な存在である。ゴルフRもCLA45も、負荷が小さい場合にはできるだけFWD寄りで走行して燃費を稼ぐという考え方の、いわゆる「オンデマンド式」であり、常に4WDで走るスバルとは異なって当然、特に悪条件になるほどその違いに明確に表れる。




 念のためにおさらいしておくと、6段マニュアルギヤボックスのWRX STIは、プラネタリーギヤ式センターデフによる4WD(スバルはAWDと呼ぶ。駆動力配分は前後41対59)で、センターデフの差動を制御するために自慢のマルチモードDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)が備わっている。このDCCD改良されたことが今回のマイナーチェンジのトピックのひとつだが、これについては後述する。STIはさらに前後デフにも機械式のLSDを備えている。これに対してスポーツリニアトロニックCVTを備えるS4は、VTD-AWDと呼ぶ電子制御多板クラッチ式(前後45対55)である。最新世代のハルデックス・カップリングは、必要な場合に瞬時にトルクを伝えるように進化しているが、それでも“必要な時”だけでなく常時4輪が結ばれている本当の4WDとは安定感のレベルがひとつ違う。ただし、その分燃費には差があり、ゴルフRのJC08モード燃費は13.0㎞/ℓ、CLA45は12.6㎞/ℓ、それに対してWRX STIは9.4㎞/ℓ、同じ水平対向でも最新の直噴ターボユニットを積むS4はGTが13.2㎞/ℓとGT-Sが12.4㎞/ℓである。もちろん4WDシステムの違いだけが理由ではないが、それぞれ一長一短ということだ。

姿・形は同じながらもこちらはCVT 専用となるS4。直噴エンジンを載せ、出力・トルクともにエンジン特性はわずかに抑えた性格を与えられている。アイサイトを備えるのもS4 だけ。走りと街乗り用途、最新機能をバランスよく堪能したいならS4を選ぶべし。

水平対向4気筒DOHC直噴ターボ/1998㏄


300㎰/5600rpm


40.8㎏m/2000-4800rpm


JC08モード燃費:13.2㎞/ℓ(2.0 GT EyeSight)12.4㎞/ℓ(2.0 GT-S EyeSight)


車両本体価格:336万9600円(2.0 GT-S EyeSight)

あれば役に立つが、選択に悩む

 最近流行りのダウンサイジングターボエンジンは、低回転から生み出される太いトルクを活かしてスルスル走る代わりに、高回転まで回してもさほどパワーが盛り上がるわけでもなく、むしろ苦し気に詰まるものが多いが、さすがに2ℓの高性能ユニットともなれば、痛快にリミットまで吹け上がる。




 もっともそのフィーリングは各車様々だ。




 ひとり飛び抜けたスペックを持つAMG CLA45のエンジンはさすがにパワフルで、特にエンジンやシフトプログラム、ダンパーなどのドライブモードを切り替えられるAMGダイナミックセレクト(コンフォート/スポーツ/スポーツプラス/レース/インディビジュアル)のダイヤルをスポーツ以上にすると、そのレスポンスはいささか野性的に過ぎるのではないかと思うほど猛々しく変身する。排気音もやや演出過剰気味なほど獰猛になり、いかにも戦闘モードで走っている気分になる。ただし一般の交通の流れの中では、ちょっと忙し過ぎる。コンフォート・モードでは、DCTのせいもあって低速での動き出しが苦手であり、ごく普通に踏んだ時のスロットルのレスポンスも期待するより鈍く、つい深く踏みがちだ。かといってスポーツ・モードでは四六時中急かされているようでちょっとビジーでうるさい感じ。この傾向はノーマルのAクラスでも同じである。思い切り飛ばせば痛快この上ないが、それ以外の状況ではあまり気持ちがいいとはいえないのが正直なところである。




 ゴルフRにも同様の「DCC」なるアダプティブシャシーコントロールが備わり、こちらはエコ/ノーマル/コンフォート/レース/カスタムの5モードを切り替え可能。燃費優先となり、ちょっとでもアクセルを緩めると頻繁にクラッチを切ってコースティングするエコはまだしも、ノーマルとコンフォートの違いは良く分からないが、レースにすると今度ははっきり忙しく“やる気満々”モードとなる。トップエンドではCLA45よりもゴルフRのほうがスムーズで、ストレスなくきっちり回る6500rpmのリミットまで目いっぱい使う気になる。全開加速でなければ、数字ほどCLAにパワーで後れを取っているように感じないのは、中間域でのレスポンスがかっちりしているせいだろうか。また街中や一般道でのドライバビリティもゴルフRのほうが上で、同じようなデュアルクラッチ式でもゴルフの方が自然な反応で扱いやすい。

骨太なSTI、清冽なS4

 突き抜けるように回すこともできるが、実はスマートに電子制御されている感覚が付きまとうこの2台のターボエンジンに比べると、WRX STIに積まれている伝統のEJ20型フラット4ツインスクロールターボは圧倒的に豪快で骨太な印象だ。




 ピークパワーとトルクは308㎰/6400rpmと43.0㎏m/4400rpm、従来通りトランスミッションは6速MTだけ、パワーステアリングもSTIのみ電動式ではない。今どきあまり例のない8000rpmのレブリミットまで爆発的に吹け上がるが、自らシャープに軽く回りたがるというより力ずくで絞り出す印象。ほんのちょっとラフなビートが感じられるのがむしろ懐かしい。同じく、回転計の左半分ではスロットルレスポンスに遅れがあるのが、今となってはクラシックなターボの雰囲気だ。“どっかんターボ”というほどではないが、即応するレスポンスを期待するなら4000rpmぐらいから上をキープしておかなければならない。




 WRX S4のエンジンは対照的だ。レヴォーグにも搭載されているFA20型2ℓ水平対向4気筒直噴ツインスクロールターボは、300㎰/5600rpm、40.8㎏m/2000〜4800rpmを発生、スバルがスポーツリニアトロニックと呼ぶステップ変速制御付きCVTと組み合わされている。300㎰と40㎏mは、スポーツモデル用2.0ℓ4気筒ターボの基準値のようになっているが、それよりも新世代のユニットであることを実感させるのは、軽く静かにすっきり回るフィーリングである。




 今回のマイナーチェンジでは、エンジンには手が加えられていないというが、静粛性や乗り心地を向上させるための広範な改良の効果か、以前より静かに、かつ清々しく吹け上がる。こちらの苦手はCVTによるレスポンス・ラグというか、スロットルに対する“ツキ”が鈍いことだ。おとなしく走っている際には気にならないし、ステップ変速制御付きでマニュアルのようにシフトできるとはいえ、やはりちょっと戻したり、踏み増したりといった微妙な操作には即応してくれないのがもどかしい。モーターを一新したという電動パワーステアリングの自然なフィールも素晴らしく、乗り心地も以前のわずかなザラザラ感が消えてスッキリ爽やかになっており、全体的に明らかに洗練度が上がったS4の唯一の弱点といえるだろう。

モデルチェンジを重ねるごとにサイズがどんどん大きくなり、いまや車幅などは1800㎜に至る。走ってみると、欧州車でよくいわれる「タイヤが地面に吸い付くような」とはこのことかと思わせるものが、このゴルフには確かにある。

直列4気筒DOHC直噴ターボ/1984㏄


310㎰/5500-6500rpm


40.8㎏m/2000-5400rpm


JC08モード燃費:13.0㎞/ℓ


車両本体価格:569万9000円

スルリと曲がり、ガッチリ止まる

 ターンインの際のシャープなステアリングレスポンスを重視し、スパスパ軽くノーズが向きを変えるのがCLAとゴルフRだとしたら、WRXはSTIもS4もリニアなハンドリング志向だ。CLAとゴルフRにはブレーキングによって軌跡を引き戻すシステムが備わり、たとえタイヤのグリップ状態に無頓着な人が無理矢理パワーをかけても車のほうが賢くコントロールしてくれるが、自分ですべてを采配しているダイレクトな感覚にはやや欠ける。




 その点STIは頼もしい。タイプSには新たに19インチタイヤが装着されたが、これまでの“ガッチガチ”から“カッチリ”ぐらいに洗練されたのは明らかで、しかも以前よりずっとターンインが容易でスルリとコーナーのインに寄せられる。従来型はセンターデフのLSDにトルクカムを組み込んでわずかにイニシャルトルクをかけていたが、新型ではそのカムを省いて簡潔な電磁多板クラッチ式に変更、そのおかげでターンインしやすくなっている。コーナー入口から出口にかけて巻き込むように曲がる感覚は顕著で、従来型に慣れている人は切れ込み過ぎると感じるかもしれない。もちろんDCCDはマニュアル操作できるのも特徴なので、とにかくトラクション命という向きはオートモードではなくそちらをどうぞ。




 新しいWRX STIに本物の迫力を加えているのは、標準装備のブレンボ製ブレーキだ。モノブロックの6POT(リヤは2POT)にドリルドローターなんて、ポルシェかアウディかと二度見するような贅沢パーツだ。こういう高性能コンポーネントを使おうとすると、どうしても社内からそれでどれだけ余計に台数が売れるのか、コストをかけただけの効果があるのかという横槍が入るのがまあいつものことだが、スバルにはそれを押し通せる風土があるということだろう。もちろん効果は明らかで、試乗コースも時間も限られていたため、耐フェード性などまでは分からなかったものの、制動力やその立ち上がり、コントロール性など、実に頼もしく有難いブレーキだ。




 これだけでもSTIを考える価値があるというものだ。




 見違えるように洗練されたが、スバルWRXには依然としてドライバーがせっせと関わる汗の匂いがする。それこそ、いまどき珍しい魅力ではないだろうか。

車高を低く、前後のガラスを寝かせたスタイルを持つことから4ドアであってもクーペの扱いとなり、諸元表上では「CLACoupe」となる。写真のシートは、AMG 仕様への専用オプション・AMGアドバンストパッケージに含まれる「AMG パフォーマンスシート」だ。

直列4気筒DOHC直噴ターボ/1991㏄


381㎰/6000rpm


48.4㎏m/2250-5000rpm


JC08モード燃費:12.6㎞/ℓ


車両本体価格:773万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 12月23日に受注終了! スバルWRX STIを振り返る〈第四回:フォルクスワーゲン・ゴルフ、メルセデスベンツAMG CLA45と徹底比較!〉