TEXT●世良耕太(SERA Kota)
走りと環境性能を両立させた新世代のガソリンエンジン、SKYACTIV-Xを搭載したMAZDA3が12月5日に発売される。マツダは点火プラグによる膨張火炎球を利用して圧縮着火を制御するSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を確立することによって、ガソリン圧縮着火を世界で初めて実用化することに成功した。
筆者は2018年6月に開発中のSKYACTIV-Xを積んだ試験車両に試乗している。その時点から発売に至るまでにどのような開発を行なってきたのかを質問すると、高松松宏志氏(マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部 部長)は次のように答えた。
追加開発が必要になったことが、発売が2ヵ月遅れた理由である。もちろん、エンジン開発側の独断で決めるわけにはいかず、営業部門などとの協議を必要とした。
「マツダは『サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言』をしています。そのなかで、走る歓びを介してCO2削減を進めていくと訴えています。MAZDA3にあてはめて考えると、SKYACTIV-Xはハイエンドに位置します。2.0ℓ(SKYACTIV-G 2.0)と比べた際の高回転の伸びやかさがSKYACTIV-Xの特徴ですが、本当にアピールに値するかというと……。ハイオクにすればトルクカーブの面で本当にいいカーブになるんです」
普段乗りの場合、SKYACTIV-Xにレギュラーガソリンを入れた状態でも、SKYACTIV-G 2.0(レギュラー仕様だ)よりキビキビ走って燃費はいいという。カタログに記載するモード燃費で仮に比較した場合も、ハイオクガソリンを使用した際(つまり、カタログに載っている数字)とほぼ変わらないレベルだという。
もう1点気になるのは、容積比(圧縮比)だ。ヨーロッパ仕様のSKYACTIV-Xは16.3なのに対し、ハイオク推奨でレギュラーにも対応した国内版SKYACTIV-Xは15.0である。ヨーロッパ仕様は、ノッキングしにくさの指標であるオクタン価がRON95のガソリンに対応しているのに対し、国内仕様の場合は、日本で流通するRON100のハイオクと、一般的にRON90+αのレギュラーガソリンに対応しなければならない。
日本のハイオクガソリンやヨーロッパのRON95のガソリンに比べ、日本のレギュラーガソリンの方がノッキングを発生しやすい。通常のガソリンエンジンでいうところのノッキングのような現象を回避するために、SKYACTIV-Xの国内仕様は容積比を下げ、15.0としたのだ。可変機構でも組み込めば別だが、容積比は構造的に決まってしまうので、ハイオクにも対応するのに、国内仕様のSKYACTIV-Xはレギュラーに合わせて15.0にしたのである。132kW/224Nmの最高出力/最大出力は、容積比16.3のヨーロッパ仕様と変わらない。
「ヨーロッパでは一般的にRON95、日本のハイオクはRON100なのですが、国内ではあえて15.0で適合しました。実はハイオクでも16.3でやるより15.0でやったほうが、欧州仕様と比べたときに低開度から全負荷にかけてのつながりがよくなるのです。低開度から全負荷につないでいくときに、うまくトルクを出しつつ、燃費を良くしたい。いろんなつながりを良くできるので、あえて16.3にせず、15.0にしました」
容積比16.3とRON95の組み合わせた際のノウハウは、ヨーロッパ仕様を開発する際に積み重ねた。一方、容積比15.0とRON90の組み合わせについても、国内仕様を開発する際に積み上げてあった。そのノウハウがあったので、容積比15.0とRON100の組み合わせは「難しくなかった」という。ただし、洗練させるのに2ヵ月は必要で、だから発売時期を遅らせることになったという。
いずれにしても、MAZDA3に搭載されるSKYACTIV-Xは、世界初の圧縮着火ガソリンエンジンとしてファーストステップである。出たばかりなのだ。ハイブリッドや過給ダウンサイジング、それにディーゼルがそうだったように、時間を経るごとに洗練され、効率もフィーリングも良くなっていくのは間違いない。
「ネタはある」というSKYACTIV-Xの将来像については、別項でレポートする。