「ちきゅう」は巨大だ。全長210m、幅38m、国際総トン数5万6752トンと大迫力である。大きさをつかむ比較対象として、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」は全長248m、幅38mある。「ちきゅう」と「いずも」の見た目の寸法やボリューム感は似ているだろう。しかし「ちきゅう」は「縦にも大きい」ことから、この単純比較もあまり役立たないかもしれない。
「ちきゅう」の船体中央にそびえ立つのは「デリック(櫓、やぐら)」だ。デリック自体の高さは70.1m。これに船体の高さを加えると、つまり海面からの高さは約120m(船底からは約130m)となる。比較対象として横浜マリンタワーの高さが106m、神戸ポートタワーは108mだ。海面からデリックの頂点までは両タワーよりも高い。
デリックは掘削作業の中心になる。この高大なデリックは海底下数千メートルまで到達させる掘削パイプを多数用意し、それらを接続し、吊り下げ、回転させて掘るための重要設備なのだ。デリック基部にはドリルフロアと呼ばれる作業場がある。デリック内部で多数の掘削パイプをつなぎ合わせ船体を通し、船底の開口部から海中へ下ろしてゆく。長いパイプの先端にはドリルビットと呼ばれる刃が装着され、回転させることで海底を掘削する。
所要の深度、地点まで掘り進めたならば、コアビットという中心部が開口した刃に付け替え、これで掘ることで地層ごと円柱状にくり抜くように取り出せる。たとえば、ケーキにストローを突き刺すと多層構造ごとストローの内部に入り込み、これを取り出せばケーキの構造がわかる、このイメージだ。
海底下から採取したコアサンプルは地層・地質の記録メディアといえるものだ。地球の内部活動などにより起きた地殻プレートの変動が地層の変形などとして物理的に残っているからだ。年代分析を行えば過去の地震の発生要因を解き明かすことも可能。コアに内包されている成分の分析や、微生物や細菌等を探し出して研究する分野も、前述した「ちきゅう」のミッションの中にあるとおりだ。「ちきゅう」は非常に大掛かりな設備を駆使してミクロレベルの手掛かりを取り出し、研究している科学掘削船である。