昨年12月には、ふくおかフィナンシャルグループ企業育成財団(キューテック)より5ヶ年計画での助成金を受けており、2023年4月の事業化を目指す。また、現在、特に九州地方では放置された竹林が周囲の環境に害を与える放置竹林問題が顕在化していることから、当プロジェクトにより、竹を高付加価値製品として100%有効活用することで竹害の解決にもつながるものと期待されている。
既に三省製薬は昨年、福岡県と九州大学との産官学連携プロジェクトにより、福岡県八女産の竹の”表皮”から美白美容成分を抽出し化粧品を製品化することに成功、「yameKAGUYA」シリーズとして販売を開始している。
このたびのプロジェクトは、竹の表皮を削り取った後の”竹の幹”部分を原材料として、
1)オリゴ糖を抽出し、美容成分として化粧品に活用する
2)1の残りかす(残渣)から活性炭を作り、電気自動車の蓄電デバイスの電極材料にする(電気二重層キャパシタ電極材料)
という流れで、竹の高付加価値活用を目指す。竹から”段階的”に、”複数”の”高付加価値製品”を製造する技術という点で、従来にはない画期的なバイオマスの利用プロセスである。また、水のみを利用することから、安全性が高く環境負荷の小さい技術であることも特徴。
九工大・坪田研究室では従来より、電気二重層キャパシタ電極材料の開発に取り組んできた。電気二重層キャパシタは、蓄電デバイスの一種で、コピー機や自動車のパワーウインドウ、ハイブリッドカーなど私たちの生活を取り巻くさまざまなところで幅広く利用されている。同じ蓄電デバイスであるリチウムイオン電池に代表される二次電池と比べ、長寿命で急速な放充電ができるなどの利点がある一方、蓄えられる電気エネルギーが小さいという短所がある。この短所をいかに克服するかが重要な課題となっている。電気二重層キャパシタの電極材料は活性炭のような表面積の広い炭素材料が用いられており、物性(表面積、細孔径、導電性等)の最適化による課題解決を目指している。
三省製薬の「yameKAGUYA」シリーズの取り組みを知った九工大・坪田准教授は、竹の表皮以外の部材(竹幹)を自身の研究の原料に利用できると考えた。一方、三省製薬は科学技術振興機構(JST)が主催する「新技術説明会(https://shingi.jst.go.jp/)」で坪田准教授の研究(複数の高付加価値製品を産むバイオマス利用製造プロセス)を知った。この偶然の出会いにより、両者による産学連携プロジェクトに取り組むこととなった。既に、危険な試薬を用いずに、竹から比表面積の広い活性炭を作製することに成功しており、手ごたえを感じているという。
九工大と三省製薬の役割分担としては、竹の表皮を削り取った後の竹幹を材料に、まず九工大が200℃の加圧熱水処理を行い、竹の中のヘミセルロース(※1)をオリゴ糖に変換した水溶液を作製する(下図①)。三省製薬はその水溶液からオリゴ糖の一種であるキシロオリゴ糖を抽出し、美容成分への応用と製品化(化粧品)に向けた研究開発を担う(下図②)。九工大は加圧熱水処理を実施した後、セルロース(※2)およびリグニン(※3)を主成分とする残りかす(固体残渣)から活性炭を作り出し、高性能電気二重層キャパシタ電極用炭素材料の製造に取り組む(下図③)。