REPORT◉渡辺敏史(WATANABEToshifumi)
PHOTO◉神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本記事は『GENROQ』2019年11月号の記事を再編集・再構成したものです。
SUVカテゴリーの隆盛は留まるところを知らず、今やドイツ系のプレミアムブランドを例に挙げれば販売の3台に1台はそれだという。
とあらば、当然バリエーションのワイド化にも弾みがつくのだろう。気づけばクーペスタイルのSUVも見慣れたものとなりつつあるし、ハイパフォーマンス系SUVの競争も物騒な領域に達しつつある。
そこに一手を投じるのはドイツ勢だけではない。たとえば、自らの自動車文化とスポーツカーとが切り離せない関係にあるイタリアやイギリスのブランドがその様子を黙ってみている理由はないということだろう。
マセラティ・レヴァンテのトップグレードたるトロフェオ、その最大のトピックはやはりフェラーリのマラネッロ工場で組み立てられるV8ツインターボを搭載することにあるだろう。ユニット自体はクアトロポルテにも搭載される3.8ℓのそれだが、ECUを専用チューニングとするほか、タービンはじめカムやピストン、コンロッドなどのムービングパーツにも手が加えられ、最高出力は590㎰、最大トルクは734Nmに達する。発表されたスペックでは0→100㎞/H加速は3.9秒。最高速は実に300㎞/h超というから、その速さはカイエンターボと同等以上ということになる。
トロフェオは、その強烈なパフォーマンスを外観からは想像させない。よく見ればサイドグリルがやや大きめの形状にも窺えるが、この意匠はスポーツ製を高めたS系のグレードも同じ。リヤに回れどグレード名すら記されず、凹面のスポイラー形状もまたSグレードに準拠したものだ。代わってグレード名が小さく刻まれるのはクォーターピラーのトライデントエンブレム。詳しく見ればブレーキやタイヤなどの差異はあれど、トロフェオの明快な識別点はこの位だろうか。ここまで黙して語らぬトップパフォーマーはそうはないだろう。裏返せばそれはいかにもマセラティらしい自信とみることも出来る。
FペイスSVRはジャガー&ランドローバーのスペシャルビークルオペレーションズ=SVOが手掛ける3つ目のカタログモデルとなる。搭載されるエンジンは伝統のAJ-V8。恐らく最後の時が近づいているだろうこの5.0ℓユニットにスーパーチャージャーを組み合わせてのパワーは550㎰、トルクは680Nmとなる。同じくスペックを記せば0→100㎞/h加速は4.3秒、最高速は283㎞/h。SUVの形状や質量からくる特性を思えば、こちらも破天荒といっても差し支えないパフォーマンスだ。
SVRのエクステリアは冷却能力を確保すべく設けられた大口径のアンダーグリルやボンネットダクト、リヤバンパーのスリットなどによって結果的には明確にスポーティネスが示されている。他にもルーフスポイラー形状やサイドスカートなどが標準モデルとは一線を画する性能を主張している。内装においてはセミバケットタイプのハイバックシートが只ならぬパフォーマンスを示すアイテムとなるだろう。が、取材車のようSVOのコミュニケーションカラーではなく、グロスブラックグリルとの親和性が高い落ち着いた色味を選べば都会の中にうまく埋もれることも難しくはない、そんな風に躾けられているという印象だ。
ドライブトレインは共に後輪駆動をベースとするオンデマンド式の4WDだが、トロフェオにはコンベンショナルな機械式LSDが、SVRには左右輪の差動を電子制御でコントロールするeデフがそれぞれリヤ側に装備される。加えてボディコントロールデバイスを活用して旋回時に内輪を摘むベクタリング制御も活用しながら、共に大きな体躯を積極的に曲げていこうという算段だ。車検証記載の車重はコイルサスのSVRが2090㎏、エアサスのトロフェオが2340㎏となり、重量配分は共に約51対49に収まる。
SPECIFICATIONS
ジャガーFペイスSVR
■ボディスペック
全長(㎜) 4737
全幅(㎜) 2071
全高(㎜) 1670
ホイールベース(㎜) 2874
車両重量(㎏) 2070
■パワートレイン
エンジンタイプ V型8気筒スーパーチャージャー
総排気量(㏄) 5000
最高出力 405kW(550㎰)/6000~6500rpm
最大トルク 680Nm(69.3㎏m)/2500~5500rpm
■トランスミッション
タイプ 8速AT
■シャシー
駆動方式 AWD
サスペンション フロント ダブルウイッシュボーン
サスペンション リヤ マルチリンク
■ブレーキ
フロント ベンチレーテッドディスク
リヤ ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント 265/40ZR22
リヤ 295/35ZR22
■運動性能
最高速度(㎞/h) 283
0→100㎞/h加速(秒) 4.3
■車両本体価格(万円) 1272万円(消費税8%)
タウンスピードから高速巡航にかけてのパフォーマンスは両車ともにパフォーマンスを忘れる快適さを備えているといっていいだろう。乗り心地的には不利なコイルサスに加えて22インチタイヤを標準で履くFペイスは、さすがに大きめの凹凸や目地段差にはインパクトも車中に伝わるも、大半の路面にはジャガーらしく染み入るようにしなやかな動きをみせる。トロフェオはエアサスの利を活かし、車体の動きはフラットでも乗り心地には丸さがある。共に爆速なだけにスタビリティも気になるが、いずれも安心してアクセルを踏んでいける接地感や安定性を備えていることは間違いない。
ワインディングに入ると両車のキャラクターの違いは一層際立ってくる。SVRのフィーリングは爪を立てて路面をグッと引き寄せるようなコンタクト感がベースとなっていて、そこに件の旋回デバイスが巧く介入しながら曲げていくという印象だ。対してトロフェオはデバイスの介入感は少なく、エアサスだからといってロールを無理に抑えることもなく、優しい接地感と共に荷重を巧く使いながら曲がっていくという印象だろうか。近年のマセラティはシャシーワークが優れていて初対面から掌に収まるような応答性をみせてくれるモデルが多いが、トロフェオもまさにそれで、気づけば重く大柄な車体がひと回り以上は小さくなったかのような開放感も感じられる。SVRは回頭性にやや重さがあるも、そこから無類のコンタクト感で正確に舵の向きへと車体を推し進める重厚なタッチが個性だろう。思えばエンジンのフィーリングもそれに準じていて、トロフェオが軽くて滑らかな吹け上がりなのに対して、SVRは剛質で野太いパワー感が魅力だ。これらはいにしえからの両国のクルマの個性とも不思議と符号している。
そして気づけば車格的にトロフェオよりはひとつ下のセグメントとなるSVRが、まさにジャイアントキラーのパフォーマンスを持ってDセグメント級の値札を下げている、そこにSUVの強烈な競争環境を垣間見るのは僕だけではないだろう。
SPECIFICATIONS
マセラティ・レヴァンテ・トロフェオ
■ボディスペック
全長(㎜) 5020
全幅(㎜)1981
全高(㎜) 1698
ホイールベース(㎜) 3004
車両重量(㎏) 2340
■パワートレイン
エンジンタイプ V型8気筒ツインターボ
総排気量(㏄) 3799
最高出力 434kW(590㎰)/6250rpm
最大トルク 734Nm(74.8㎏m)/2500rpm
■トランスミッション
タイプ 8速AT
■シャシー
駆動方式 AWD
サスペンション フロント ダブルウイッシュボーン
サスペンション リヤ マルチリンク
■ブレーキ
フロント ベンチレーテッドディスク
リヤ ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント 265/40R21
リヤ 295/35R21
■運動性能
最高速度(㎞/h)304
0→100㎞/h加速(秒)3.9
■車両本体価格(万円)1990万円(消費税8%)