7月16日に2度目のマイナーチェンジを実施し9月より販売開始した、日産随一の長寿モデルである高級スポーツセダン「スカイライン」。新たに設定された、405ps&475Nm仕様のVR30DDTT型3.0L V6ターボエンジンを搭載するホットバージョン「400R」に、日産グローバル本社のある横浜および都内の市街地と首都高速道路で4日間にわたり試乗した。




PHOTO&REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)

 前回のレポートでは、ハンズオフ走行を可能とした最新のADAS(先進運転支援システム)「プロパイロット2.0」を搭載する「ハイブリッドGTタイプSP」と、304ps&400Nm仕様のVR30DDTTを搭載する「V6ターボGTタイプP」に試乗している。

新型日産スカイライン試乗…「プロパイロット2.0」のライントレース性能はADASで初めて人間を超えた! 新設定VR30DDTT型3.0Lターボは良い意味でターボらしくない感触

 両車のインプレッションおよびマイナーチェンジの概要については上記の記事に詳しいので、今回はその時運転することが叶わなかった、そしてスポーツカー好き、昔からのスカイラインファンが最も注目しているであろうホットバージョン「400R」に的を絞って、そのインプレッションをお伝えしたい。

日産ブランド共通の「Vモーショングリル」を採用したフロントマスク
スカイライン伝統の丸目四灯コンビネーションランプを採用したリヤまわり


 さて、そのホットバージョンである「400R」なのだが、外観は端的に言って、スポーツバンパーに19インチアルミホイール、ターボ車用デュアルエキゾーストパイプを装着する「V6ターボGTタイプSP」とほぼ変わらない。

リヤタイヤもフロントと同サイズで、ホイールはガンメタ塗装の19×8.5J。ブレーキキャリパーはアルミ製の対向2ポット式
245/40RF19 94WのダンロップSPスポーツMAXX 050 DSST CTTを装着。フロントブレーキキャリパーはアルミ製の対向4ポット式


 数少ない識別点は、ホイールの仕上げが切削光輝タイプではなくガンメタ塗装になり、フロント4ポット&リヤ2ポットのアルミ製対向ピストンブレーキキャリパーがレッド塗装になること、そして「400R」のエンブレムがリヤに装着される程度だ。




 しかしながら、たったそれだけの違いが、今回のマイナーチェンジで全車に与えられた、日産ブランド共通の「Vモーショングリル」と、スカイライン伝統の丸目四灯リヤコンビネーションランプを、全く違和感のないものにしてしまうのには驚きを禁じ得ない。他のグレードではスポーティな新デザインと従来と変わらぬ落ち着いたディテールとの間に齟齬を生じているものの、400Rではそれが解消され、完璧な調和をもたらしている。

本アルミフィニッシャーを装着した400Rの運転席まわり

 その一方で室内は、明確に他のグレードと趣を異にしている。スポーツシートサイドサポートにダイヤモンドキルティングを施したほか、そのシート以外にステアリングやシフトノブ、ドアトリムやセンターコンソールなどにも赤のステッチを与えたブラック本革内装は、しばしば「男の仕事場」と形容される、古典的な高級スポーツセダンの装いそのものと言ってよいだろう。

本革スポーツシートはサイドサポートが硬く大きく、絶対的なサイズも大きいためサポート性は高い。ヘッドルームは930mm、座面長は505mm(日産公表値)

 実際に室内へ乗り込み運転席へ座ってみると、ステアリングやシフトノブを含めた本革の触り心地はソフトながら、身長176cm・座高90cmの筆者でも充分なサイズが確保されたスポーツシートはサイドサポートがハッキリと硬めで張り出しも大きい。この感触は後席もほとんど変わらず、日産がこの400Rを「高級スポーツセダン」と明確に位置付けていることが、こうした点からも見て取れる。




 だが、不自然な座り方を乗員に強いる詰めの甘いパッケージングは、あくまでもマイナーチェンジであり追加モデルに過ぎない400Rも、従来型や他のグレードと全く変わらず。運転席はトランスミッションの張り出しが大きいうえ、ペダルが若干右側にオフセットしているため、両足ともやや右側に傾ける必要がある。

後席は膝回りこそ15cmほどの空間が確保されているもののヘッドクリアランスは限りなくゼロに近い。ヘッドルームは890mm、座面長は520mm(日産公表値)

 後席はセンタートンネルが大きいのに加え、前席のシートレールが車両中央寄りの脚(左席なら右脚、右席なら左脚)を真っ直ぐ伸ばした先にあるため、必然的に身体全体をやや捻った形で座らざるを得ない。しかも筆者の場合、キチンと姿勢を正して座ると後頭部がルーフライニングに当たるか当たらないかスレスレになるため、浅く座るか首と腰をやや前傾させるかする必要に迫られた。

400Rを含むV6ターボ車のトランクルーム容量は510L。特Aスーツケース2個を収納できる
400Rの後席はセンターアームレストスルーに加え6:4分割可倒機構も標準装備


 一方で荷室の使い勝手は良い。後席を使用した状態でも510Lの容量があり凹凸も少なく、さらに後席背もたれにはセンターアームレストスルーと6:4分割可倒機構も備わるため、アウトドアやスポーツ用途でない限り、荷物の置き場所に困ることはまずないだろう。

IDSのフロントダンパー
DASのカットモデル


 では、肝心の走りはどうか。まず最初に感動したのは、低速域の乗り心地だった。




 400Rには「インテリジェントダイナミックサスペンション」(IDS)と呼ばれる、減衰力をより幅広い領域かつ100分の1秒単位で制御可能な電磁式比例ソレノイドダンパーが標準装備されているのだが、これは加速Gではなく車輪の回転速度やヨーレート、横Gを検知し、さらにステアバイワイヤ「ダイレクトアダプティブステアリング」(DAS)の操舵角に基づきフィードフォワード制御。これに選択しているドライブモードも加味しつつ、路面の凹凸の大きさに合わせて減衰力を制御し車体の上下動を抑えるとともに、旋回時には左右のロールも抑える仕組みとなっている。

元町商店街にて。写真のような石畳路でも不快な突き上げ・振動は極めて少ない

 他のグレードとの比較において、このIDSのメリットを最も明確に体感できるのは低速域、それも元町商店街の大半を占める石畳路や、住宅地に多いヒビ割れた路面だ。タイヤサイズ・銘柄は同じ245/40RF19 94WのダンロップSPスポーツMAXX 050 DSST CTTながら、400Rより80kg重い1840kgに達するハイブリッドGTタイプSPの、悪夢のような突き上げは最早そこにはない。車重が1710kgと比較的軽く、タイヤサイズも225/50RF18 95Wとやや小さくなるV6ターボGTタイプPと比べても、さらにワンランク上のフラットライド感をもたらしてくれる。

センターコンソール上にあるドライブモード切り替えスイッチ。STANDARD、SPORT、SPORT+、ECO、SNOW、PERSONALの6モードから走行特性を選択できる

 一方、首都高速道路湾岸線など高い速度域で走る場面では、ドライブモードが「SPORT」でなくともダンパー減衰力を常に高い状態に維持するためか、直進・旋回時を問わず、そのフラットライド感がやや影を潜めてしまう。路面の細かな凹凸を拾い、それを突き上げと車体の上下動をもって乗員に伝えがちだった。また、速度域を問わずロードノイズとドラミングノイズが大きいのも、高級車としては気になる所だった。




 なお、DASの操舵力が低速域で軽すぎるうえ、ステアリングインフォメーションも希薄になり、適切な舵角を手の平から判断しにくい点は、他のグレードと全く変わらず。これは狭い交差点や駐車場で極めて都合がよろしくなく、何度か内側に入り込み過ぎて肝を冷やしたことを正直に白状しておきたい。

400RのVR30DDTT型エンジン。写真はヘッドカバーを外した状態

 そして、405ps&475Nm仕様のVR30DDTT型3.0L V6ターボエンジンだが、304ps&400Nm仕様に対し101ps&75Nmアップというスペックから、試乗前は「相応にターボラグは感じられるようになっているだろう」と予想していた。だが実際に乗ってみるとそうした印象は皆無。NA(自然吸気)エンジンさながらのレスポンスと吹け上がりは304ps&400Nm仕様と全く変わらず、そこに体感2割増しのパワー&トルクが上乗せされている印象だった。

新型スカイラインが搭載するV6ターボ! とにかくレスポンス。そのためにEGR不採用も辞さず。──VR30DDTT

 そのタネは上記記事の通り、VVEL(バルブ作動角・リフト量連続可変システム)はおろかEGRも不採用とした、徹底したレスポンス重視の設計にある。そのうえ400R専用にターボ回転センサーを用い、さらには水冷式インタークーラーに強化ウォーターポンプを採用することで、常用22万rpm、瞬間的には24万rpmものタービン回転を許容したことも、この高性能とハイレスポンスに大きく貢献しているのだろう。

日産スカイライン400R

このエンジンに前述の快適な乗り心地、さらに旧来の極めて高い操縦安定性が合わさった400Rの走りは痛快そのもの。「走りのスカイライン」が完全復活したと表現しても決して過言ではない。なお、市街地と高速道路がほぼ半々となった今回の燃費は9.1km/L。その痛快な走りを堪能すれば、燃費も相応のレベルになるということは、あらかじめ認識しておく必要がありそうだ。




 400Rの車両本体価格は562万5400円。これと同等以上の性能を同クラスの競合他車に求めれば、軽く1.5倍以上の(ただし4WDになることが多いが)金額を要求されることを考えると、圧倒的なバーゲンプライスだ。さりとて内外装のクオリティや快適・安全装備の充実度でも、ライバルに対し引けを取らない。




 現時点では「プロパイロット2.0」が400Rにはオプション設定すらされていないのが残念ではあるものの、「インテリジェントクルーズコントロール」や「インテリジェントLI」(車線逸脱防止支援システム)など従来のADASは一通り標準装備されている。間違いなくこの400Rが新型スカイラインの、そしてこのクラスのベストバイである。

【Specifications】


<日産スカイライン400R(FR・7速AT)>


全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm ホイールベース:2850mm 車両重量:1760kg エンジン形式:V型6気筒DOHC直噴ターボ 排気量:2997cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 圧縮比:10.3 最高出力:298kW(405ps)/6400rpm 最大トルク:475Nm(48.4kgm)/1600-5200rpm WLTCモード平均燃費:10.0km/L 車両価格:562万5400円
日産スカイライン400R

情報提供元: MotorFan
記事名:「 コストパフォーマンスの高さはクラス随一